「大切なことは、古典のメソッドではなく哲学を踏襲すること。」
【ピチェ・クランチェン(タイ)】は、タイの古典仮面舞踊“コーン”の名手であり、また、「コーン」を土台に新しい表現を模索し続けている、タイでは随一のダンサーである。
【NPO法人 DANCE BOX】は、年間を通して実験的なコンテンポラリーダンス(同時代的なダンス)をプロデュースしており、関西を中心に日本世界各地から数多くの振付家やダンサーが参加している。
【ピチェ・クランチェン】と【NPO法人 DANCE BOX】との出会いは、2003年8月に開催した「Asia Contemporary Dance Festival2003」
(主催:大阪市)に招聘したことがきっかけである。
古典舞踊の要素と現在が表層的に融合するのではなく、伝統、つまり体に記憶されているいろんなことと、今世界の中に生きているピチェの独自性、それらが彼の表現の中で、身体性のレベルで整理されているダンス作品に衝撃を受けた。DANCE BOXではピチェ・クランチェンとさらに協働しようと「ピチェ・クランチェン大阪滞在・作品制作」を企画した。2007年3月にピチェ・クランチェンを振付/演出家として迎え、日本在住のダンサー、役者ら4名と、約2週間を共にし、作品づくりを行い、世界初演となる『(作品タイトル)テーパノン』を発表した。
『テーパノン』とは、ピチェが約4年の歳月をかけて執筆したテキストの名前である。古典仮面舞踊“コーン”について細やかに解析していて、動き(振付)の意味や役割を越え、舞踊の根源を深く探求している。そのテキストに書かれていることを、壁面や床面にチョークで図や文章を象徴的に描き、ダンサーの身体を通して、劇場空間に立ち上げていった。
「タイらしさ」と聞いてなんとなくイメージするエキゾチックな印象からはかけ離れた、衣装、描かれる図や文章、声にあげて読まれるテキスト、音楽、ダンスが、古典仮面舞踊“コーン”を重層的に見せていく。
NPO法人 DANCE BOXでは、この度、那覇(沖縄)と益田(島根) にて『テーパノン』を上演する機会を得た。
ピチェは創作中にこの作品は「観客が自身の文化を見つめ直す鏡の
ような作品になれば」と繰り返し語った。地方によって鏡に映し出される
ものは違ってくるだろうし、作品もその土地が持つ磁場によって変化して
いくだろう。
同時に、那覇、益田には、独自のアート・シーンが存在している。
各地のシーンがその地域でどのような歴史的、政治的背景を持ち
ながら息づき、継承され、今なお生み出されているのかが興味深い。
今回のツアーでは、各地独自のプログラムを組みながら、巡回する。
また、ピチェならびに出演者が各地でのアートシーンに関わる
人々と出会い交流することで、日本からアジアへと地図をひろげ、
それぞれ独自の文化をより多角的に見つめること、またそこから
新たな視点や価値を見いだすこと、さらには、それらの深層に流れる本質ともいうべき鉱脈へと旅すること、を試みたい。
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