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公演概要 公演へのプロセス 旧サイト
 
 

循環プロジェクト公演へのプロセス

美術プログラム
美術はナビゲーターを川井ミカコが担当する、視覚障害者を対象とした美術のワークショップ。
全6回のワークショップすべてに参加したのは26歳の中途失明の女性一人。
3回目からの参加者が二人、4回目からの参加者が一人の合計4名の参加となった。

ここで行ったのは、種類の異なる4種の紙を使って、その紙の特性を活かした作品を創作することと、ものの型をとる作業。
なぜその紙を選ぶのか、何故その形にするのか、型を取るときに何をかたどるかなど、自分の作品を説明することが求められた。
ナビゲーターが伝えたかったのは、
「モノを形にするのではなく、自分の考えを表現するのが美術」
「1個作って成立しなくても、100個作ると成立する表現もある」
「自分がすべてするのではなく、自分が出来ないことを人にやってもらっても、それは自分の作品」
という、考え方。
この全6回のワークショップは、内部を出すのではなく、他者を意識しなければ作品にはならない、という客観性を参加者にもたせ、作家の意識をつくる時間となった。

また、最終日には、音楽のナビゲーター スカンクが合流し、音を聞いて作品を創作することを試みた。また、そのワークを見学していたダンスのナビゲーター 砂連尾理さんが、視覚障害者の作業する手の美しさに着目。 公演で、実際に美術を体現する人として、出演するアイデアが生まれた。

人数が少なく、特に、初回から参加の山村さんについては、ナビゲーターが普段も連絡を取り合い、 彼女が17歳(失明前)のアルバムを持ってくるなど、個人の背景を知ることにより、コミュニケーションが深めることは、共同制作においてはとても重要だと感じた。

途中2回だけ参加した先天性の視覚障害の女性は、数ヶ月前に京都で襖絵を見たのが、初めての美術体験。そこで美術に興味を持ち、リハビリ施設・ライトハウスのスタッフの紹介で参加した。 彼女の指示のもと、アシスタントが彼女の手となり彼女の作品ができた時、大きな手ごたえを感じていた。

ダンスプログラム
ダンスは、ナビゲーターを砂連尾理が担当する、身体障害者対象のワークショップ。
予定していた10月のワークショップに参加者が集まらず、10月は中途障害の肢体不自由者とのディスカッションや、アシスタントの研究会を実施。
本格的には、11月から4回のワークショップ開催となった。
ワークショップは、21才から60歳の合計6人。
方向性としては、自分自身を説明するような表現はではなく、一人ひとりの存在が立ち上がるような表現を目指したワークショップとなった。
「他者とコミットしていくことが、結果としてダンスになる。」
そのアプローチとして、握手から始め、手・手首・腕・耳・息・など他者と感覚を交換したが、「孤独になってください。簡単に馴染んでは駄目」と美術同様、自分自身を客観的に見ることを促した。

音楽プログラム
音楽は、ナビゲーターをスカンクが担当する、障害者も健常者も混合のワークショップ。
5歳から60歳までの、キャリアも背景も様々な参加者が集まった。
音楽も11月からのスタートで、初回は各々にとっての「音楽とは何か」というディスカッションから始め、人によって様々な音楽の捉え方があることを共有し、「オリジナル」な音楽を創る発想の基盤づくりを行った。
その後、参加者が、持参の楽器や自分で探してきたものモノで、フレーズをつくり、その都度録音。
そのフレーズを、アシスタント(演奏家)がバイオリンやピアノやヴォイスで表現すると、自分のフレーズが客観性を持ちまた違う世界に発展することも体験した。
これは、美術同様、自分で出来ないことをできる人が行うことで実現することであり、コンポーザーの役割である。回数を重ねるたび、持参する楽器・モノにバリエーションが加わり、参加者の音楽という概念の広がりを感じた。

4回目の最終日、その日録音した音素材を中心に参加者全員で曲を創作した。
前日の宿題である、「風船をこする音にあわせて考えた自分のフレーズ」を発表。それを録音した音を素材として、創っていく。
どんな音からはじめるのか、そこにどんな音が入ってくるとよいか、何フレーズ繰り返すのか、音は重ねるのかなど、ナビゲーターは進行はするが意思はまったく持ち込まず、完全に参加者による曲が完成した。
この曲の音素材は、落ち葉を袋詰めにして手でつかむ音、プラスチックの綿棒のケースを叩く音、電動スクーターのバック音とクラクション、洗濯板+鈴、ティッシュの箱にゴムを張ったもの、木琴、ギター、声、電子ピアノ。

<そのCDを家に持ち帰り、聞いた感想>
・「夏の気分がする。砂浜に寝ころんでジュースをのみながらのんびりと海を見ていると遠くに鯨の水しぶきが見えたので泳いでいったら、島があって、島の森で生き物たちと出会って、集まってきた生き物たちと楽しい1日を過ごした。」 (7歳 女性)

・「最初、本当にかっこいい曲だなと思った。まさか、綿棒のケースを叩いているとは思えない音で、ずっとリズムがあって、部屋暗くして聞くと心地よかったです。 綿棒のケースと、声と、袋に葉っぱを詰めてしてた音とか、それぞれ一つだけの音を聞いたら、すごく素朴な感じだけど、重なった時に心地いい音楽になってたと思いました。身近なものの音だけでいろんな世界ができるんだと思いました。 木琴の音であったり、電子ピアノやギターの音などは、一つでも説得力があるような音で、あの曲の中に入ってきたら、がらっと雰囲気が変わる感じがした。
出来上がった音は、全然自然な感じで、参加できてよかったと思いました。」 (26歳 女性)

・「これ、私の音。これはリーフ。これは鈴。ギターだ。 楽しかったよ。」 (33歳 女性)

・「CDを聞くたびにいろんな景色を想像します。 ちゃんとした楽器と違って、身近な物を使ったからでしょうか。 少しずつ出し合った音を組み合わせまとめると、また違った味ですね。 うまく言えませんが、ストーリーがありますね。 最後のピアノ ポロンポロンは私が安らぎます。もっと聞きたい気持ちになりますね。」(参加者の母)

ワークショップ全体を通して
すべてのコースを通して、どのナビゲーターも、一つの方向に導くことをせず、一人一人の参加者が持っているものを引き出すことに徹したワークショップとなった。 参加者が少なかったこともあり、ナビゲーターと参加者のコミュニケーションがきちっととれ、密度のある表現の場が立ち上がり、既成の概念をこえた、新しい価値観を創造するプロセスに入っていった。


公演に向けて
1月24日に公演に向けた全体ミーティングを実施した。
3コースすべてのメンバーが顔を合わせたのは初めてで、実際に今後ワークショップ・本番を重ねる会場で開催した。

現在2月6-7日に音楽の制作が始まり、ワークショップでの「音楽を創る」ことから、「音をどう聞かせるのか」に展開。スピーカーから聞こえる音と生音の違いや、部屋の外で演奏するのを部屋の中で聞いたとき、部屋の中で聞くのとはどう違うのかなど、いろんな実験を行った。 参加者から、「スピーカーを人が持ったらどうだ」という、貴重な意見も飛び出し、スピーカーを人が持って移動する試みも行った。

美術は4人の内、一人が公演にかかわる。 現在、彼女は実際に本番舞台に出演し、作業を行う予定である。 空間の設定は、美術ディレクターの川井ミカコが行うが、Studio dBは劇場空間ではなく、電気容量等も少ない場所であり、ここでしかできないことを発想していく予定。

ダンスは2月16日からリハーサルがスタートし、3月から本格的なリハーサルに入る。