10期公演インタビュー Newcomer/Showcase#3 堀田千晶、森山未來

国内ダンス留学@神戸10期では、3月7日(金)・8日(土)にNewcomer/Showcase#3 堀田千晶『Sudo Purge』をArtTheater dB KOBEにて上演します。
堀田千晶さんはネザーランド・ダンス・シアター2(NDT2)やバットシェバ舞踊団など世界屈指のカンパニーに在籍し、2024年に帰国しフリーランスとして活動しています。
今回、公演に先駆けて神戸出身の俳優・ダンサーとして活躍している森山未來さんとの対談を行いました。森山さんは2022年4月、神戸市に『Artist in Residence KOBE(AiRK)』を設立し、運営に携わるなど、神戸を拠点の一つとしてさまざまな活動をされています。
ノルウェーに滞在中の森山さんと、神戸・新長田で滞在制作中の堀田さんをオンラインで繋ぎインタビューを実施しました。
インタビューの様子をお届けします。
公演詳細は【こちら】
―――お二人の出会いを教えてください。
堀田:未來さんがインバル・ピントのカンパニーで踊っていた時『Wall Flower』という美術館のダンスパフォーマンスに出演されていました。その当時、私はバットシェバアンサンブルに所属していたので、見に行きました。終わった後に挨拶しようと思ったら、未來さんが忙しそうでできなかったんです。でもその後わざわざ連絡をいただいて。それがすごく嬉しくて印象に残っています。未來さん覚えてないですか?
森山:いや覚えてはないですね(笑) でもその後、別のパーティできちんと会話しましたよね。あとはたまたま同じ公演を見に来ていて、客席でお話しましたね。
▲森山未來さんとオンラインで対談する堀田千晶さん
『Sudo Purge』について −作品の構想やダンサー、タイトルのこと−
―――今回の作品『Sudo Purge』の構想に至った背景を教えてください。
堀田:『Sudo Purge』は、もともとイスラエルにいたときに作ったダンス映像作品です。今回はその映像を舞台作品としてリクリエーションします。
映像を作った時は、本能的な体とテクノロジーの体の両極端の違いを見せたいと思っていました。なのでシーンをパート1、パート2に分けていました。それから数年経って、改めて映像を見返したりしてみると、本能的な動きと機械的な動きの身体性が似ていることに気が付きました。両極でありながら似ているふたつの体の曖昧な部分がとても面白いなと思っています。
いま一番注目してるのは顕微鏡の中のアメーバや微生物の分裂と結合を繰り返す動きですね。このような微生物や動物の特性からヒントを得て動きを作った部分の他にも、ロボット的な無機質な体からもヒントを得ています。10分間の映像作品がフルレングスの作品になるので、もっと深掘りしていきたいと考えています。
森山:出演する6人のダンサーは堀田さんが選んだんですね。ダンサーの皆さんはどうですか?
堀田:この人たちじゃなければこの作品は作れないだろうなと思います。私が一言ポロって言ったらすぐに試してくれる。経験や技術的なことよりも、みんな若くてとにかく面白くて。あと関西ならではなんですかね、一発芸みたいな感じで色々披露してくれています。ああ、面白いなって本当に思います。
森山:今期のダンス留学に参加しているダンサーたちも出演しますよね。
堀田:天野朝陽くんと杉浦ゆらちゃん、ami mutoちゃんはdBアソシエイト・ダンサーで、9月からの集中プログラムを受講し12月の公演に出演しています。だから3人はすでに仲が深まっている。そして私も一緒に集中プログラムを受けてるので初対面ではないですね。
森山:nouses(注1)のメンバーの人も出演されるんですね。
(注1)ストリートダンスを軸にコンテンポラリーダンスや現代アートを融合させたダンスチーム。京都を拠点に活動。
堀田:そうなんですよ。nousesのmoraleくんも頑張って口説いて出演を依頼しました。普段はかわいいけど、踊るともうすごくて。
森山:ところで、タイトルの『Sudo Purge』はどういう意味なんですか?
堀田:絶滅危惧種の名前っぽい響きを探していて、「スドパージ」という音の響きが動物の名前みたいだなと思いました。でも本当はパソコンのコマンドなんです。これを入力するとメモリが解放されて容量が増えるというものです。動物っぽいけど、実はパソコン用語っていう意図は一応あります。
森山:身体的な「拡張」や「解放」はバットシェバの文脈にも繋がってますよね。
堀田:たしかに!本当ですね。
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▲『Sudo Purge』クリエーションの様子
クリエーションをしているときがカンパニー生活の中で一番生き生きしていた
―――堀田さんはもともとダンサーとして活動されていますが、ご自身で作品を作ろうと思ったきっかけは何ですか?
堀田:作品をつくるようになったきっかけは、もともとダンサーとして参加していたクリエーション中も自分で動きを作り出す過程が好きで。他者の振付を踊るより自分で作ったものを踊る方が好きでした。
バットシェバ舞踊団では毎年、ダンサーにクリエーションの期間を与えてくれるんです。毎年公演があって10分の作品を出せるんですけど、その時に何でも自由に自分の好きなことができる場が与えられていました。私にとってその時がカンパニー生活の中で一番生き生きしていました。
―――ダンサーとしてただ踊るだけじゃなくて、作り手としての経験をさせてもらえるのは素敵ですね。
堀田:素晴らしいし、本当にありがたいです。
森山:バットシェバのクリエーションはどんな感じですか?結構ダンサーが踊って試しながら作っていくのか?もしくは誰かがダンサーに振付を渡していくのか?
堀田:両方の要素がありますね。私が所属していた頃は、基本の振付はオハッド・ナハリン(注2)さんが作っていました。コンセプトはしっかり決まっていて、その中身の部分は私たちが作っていくような感じでした。でもその方が一緒に作っているという意識があって私には良いと思っていました。
(注2)イスラエルを代表するダンスカンパニー・バットシェバ舞踊団の元芸術監督。独自のダンステクニック「Gaga」を開発。数々の話題作を生み出す。
▲『Sudo Purge』クリエーションの様子
―――森山未來さんは、文化庁文化交流使としてインバル・ピント&アヴシャロム ダンスカンパニー(注3)に2013年から2014年の間所属されていましたよね。どんな作品のクリエーションを経験されましたか?
(注3)振付家・ダンサーのインバル・ピントと、俳優のアヴシャロム・ポラック率いるイスラエルのダンスカンパニー。結成以来、世界各国で公演し、数々の賞を受賞している。
森山:有名な『オイスター』というカンパニーのレパートリーに出演したこともありましたし、新作のクリエーションにも参加させていただきました。基本的には1年に1作品作るのですが、その年は先ほど堀田さんが言っていた美術館とのコラボレーション作品『Wall Flower』が重なって、2つの作品のクリエーションに関わることになりました。
―――インバル・ピントのクリエーションはどのように進められていましたか?
森山:インバルのクリエーションでも、彼女自身が踊った振りを渡されることもなくはなかったです。けれど『Wall Flower』の最初のクリエーションは即興でした。彼女は舞台美術も担当しているので、スケッチを常に描いています。クリエーションで彼女が用意した奇怪なスケッチを広げて、これを試したいと言われる。たとえばひとつの人間の肉体だけど、手が3,4 本あって足が一本だけ、そして目が3つぐらいある、といったような。それを共有しながらダンサーが即興で動いて試す。インバルがそれを持ち帰ってまた違うスケッチとなって次のお題が出される。あのクリエーションは印象的でしたね。
ヨーロッパのクリエーションではダンサー側からアイディアを出して作品を作っていくことが多いイメージですが、堀田さんはどう作っていきますか?
堀田:動きのタスクは出していますが、タスクを忠実に遂行している時よりも、ふざけた時に出る動きの方が面白いですね。だから好きにやってみてって言った方がダンサーが生き生きします。即興の発想力で今回のダンサーを選んだところもあります。私はそんな彼らから生まれた動きや表現の素材を調理していく感覚でやっています。
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▲『Sudo Purge』クリエーションの様子
ダンスをビジネスにしたい
堀田:日本では未來さんがコンテンポラリーダンスを広めるというか、ダンスや芸術に馴染みがない方に入りやすい入口を作ってくれていると感じています。私も職業を説明する時に森山未來さんがやってるようなダンスですよとたまに言うことがあります。やはり伝わりやすいし分かりやすいんです。
私はダンスをきちんとビジネスにしたいという思いがあって、いやらしい話のようですが、活動していくためにはやっぱりお金も必要です。作品に出演してもダンサーに還元されるお金は限られているし、みんな仕事を掛け持ちして生活しています。
森山:この間D.LEAGUE(注4)に出てましたよね。あれもダンスをビジネスに変えようとトライしている活動のひとつだと思っています。
⁽注4⁾株式会社Dリーグが運営するプロダンスリーグ。チームに分かれてダンスバトルを行う。
堀田:なんで知ってるんですか(笑) そうです。Dリーグの会場は有明ガーデンシアターというアイドルのコンサートをするような大きいステージで驚きました。追っかけのファンもいるし、もう根付いてるなと。企業が入ってこういう試合にするという分かりやすさは大事だなと勉強になりました。だけど、コンテンポラリーダンスの良いところは、勝敗を競うことではないと思います。
未來さんは、日本のコンテンポラリーダンスの環境についてはどう思いますか?私は海外で作品制作するのも興味ありますが、その作品は日本ではなかなか上演できないという現実もあります。未來さんは海外で作った作品を日本で上演されたりしていますよね。
森山:そうですね。幸運にもそういった流れができてはいます。ソロで制作する作品は、近年だと日本各地の芸術祭などでサイトスペシフィックなパフォーマンスとして上演する機会が増えています。そういった中で、日本で活動するパフォーマーとして、日本でのリサーチやクリエーションを経て生まれたパフォーマンスを国内はもちろん、海外で上演していくためになにをすべきか?ということも真剣に考えなきゃいけないと思っています。
昨日もスウェーデンのダンサーと色々話していましたが、欧州はアーティストに対してのサポートが基本的にはしっかりしています。
▲「さんぶたろう祭り」森の芸術祭 晴れの国・岡山(2024年)撮影:井上嘉和
堀田:海外はお金を稼ぐということを特に意識することなくアーティスト活動に専念できる環境があるからありがたいですよね。日本では時々コンテンポラリーダンサーって言いづらい時もあったりします。「ミュージックビデオで踊ってたりするの?」と聞かれたりすると、ダンスの仕事=商業ダンスというイメージが強いのかなと。いろいろ思うところがあります。まだまだ職業として認められてないですよね。
森山:堀田さんは日本に戻ってきてメインで活動してる場所は東京ですか?
堀田:色々ですね。月ごとに場所が違って、いろんなところを転々としていますね。
森山:湯浅永麻(注5)さんと一緒ですね。家を持たず常にスーツケース片手に移動してる(笑)。
(注5)2004年よりNDT1に11年間在籍。現在はフリーとしてダンス、演劇、オペラなど数々の作品に出演し、世界各国で踊っている。
堀田:そうなんですよ。永麻さんとは同郷で、しかも、通っていたバレエスタジオも一緒なんです。そして、今は日本での拠点をどうしようかと話しています(笑)今まだ模索中です。
森山:堀田さんは広島出身ですよね。広島のダンスフィールドはどうですか?
堀田:広島も盛んになってきていると思います。この前も永麻さんと小㞍健太(注6)さんによるダンサー育成プログラムをしていました。でも広島もまだまだという印象があって、遠方に行かないと作品は見れないですね。
(注6)モナコ公国モンテカルロバレエ団を経て、NDT1に日本人男性として初めて入団。退団後、バレエの振付など多岐に渡る活動を展開。
―――未來さんは神戸でも、さまざまな活動をされています。神戸にも拠点を置かれたのはなぜですか?
森山:神戸のリサーチに関わったり、Artist in Residence KOBE(AiRK)の運営に関わることになったのが3年前ぐらいです。経済的、あるいは文化的なインフラの部分では、他の大都市と比べてまだまだな印象はあるかも知れませんが、ポテンシャルはすごく感じています。自分の地元だから還元できる活動をしたいという思いは基本的にはなく、神戸で出会ったものや人と自分自身が関わっていくことで、自分のクリエーションが豊かになっていくというイメージのもとで活動しています。
僕はたまたま神戸という場所に再会しましたが、それぞれのローカルに色や特性があって、そのリサーチを元に作品が生まれること自体にとても可能性があり、必ずしも海外や東京じゃなくてもいいと思っています。自分の中で神戸での活動がビジネスに還元しきれてないのは正直ありますが、今後形にしていきたいですね。
▲AiRK AIR Program 2023 「STILL LIFE」ショーイングの様子(KIITO ギャラリーC/2024年)撮影:乾まなみ
堀田:今回の公演では関西や愛知、東京の若手ダンサーに出演してもらうのですが、これを踏み台にして欲しいというか、これを機会にもっとダンサーとしての仕事を得ることができたら嬉しいなと思っています。みんなもっと認められるべきだし、表に出るべきなんです。けれど、やはりその機会がなかなかない。
森山:コネクションをつくるためにも関係者やいろんな方に公演をみていただくことは大切ですよね。具体的に次に直接繋がっていかなくても、この振付家にはこんな作品もあるんだとか、こういうダンサーがいるんだということが広がっていくことが大事。
堀田:お話を聞いていて私自身もこの作品をビジネスに繋げるために具体的に考えないといけないと思いました。今は作ることに必死すぎて考えてなかったけど、とても大事ですね。
―――最後に、多くの人に見ていただくために作品の見どころを教えてください。
堀田:先ほども述べましたが本能的な動きと機械的な動き、両極ながら類似しているふたつの身体の曖昧な部分を見ていただけたらと思います。私は、日常的な人の動きとダンサーの動きの間にすごく興味があります。与えられた振付をただ踊ることに対しては興味がなくて、ダンサーの個性やその人の味がある方がよいです。今クリエーションで、ただ人を押すことから始まって、押すことによって人がくっついたり離れたりということを試しています。そういう日常的な必然性のある自然な動きから始まっていくところに興味があります。どこまでそれをダンス作品として見ごたえのあるものにできるかが腕の見せ所ですね。
森山:話を聞いていて、人間がスマホやパソコンを触っているとき、つまりテクノロジーが介入している身体というのは、脳が「外付けのハードディスク」としてのテクノロジーに持っていかれている状態ですよね。テクノロジーと直結して生きていかざるを得ない現代の私たちが、それこそ“Sudo Purge”のようにどのように身体とテクノロジーの関係を「拡張」あるいは「解放」として捉えることができるのか、そして生身の身体をどう位置付けるのかは、今、とても重要だと思います。
堀田:確かに!素晴らしいですね。未來さんと話せて私の思考も整理されました。ありがとうございました。
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この記事に登場する人
堀田千晶
広島県生まれ。金森穣率いるNoismにて2年間研修を経て、2008年からネザーランド・ダンスシアターⅡに3年間所属。2011年からスウェーデンのヨーテボリオペラダンスカンパニーに3年半所属。2014年新国立劇場にてJapon dance project CLOUD/CROWDゲストアーティストとして参加。2015年バットシェバアンサンブル舞踊団に入団。在籍中Gaga講師の資格を取得。2年半所属。2018年よりバットシェバ舞踊団に入団。2024年退団しフリーランスとして活動。
2024年8月26日 時点
森山未來
1984年、兵庫県生まれ。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。
2013年には文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。
「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。
俳優として、これまでに日本の映画賞を多数受賞。ダンサーとして、第10回日本ダンスフォーラム賞受賞。
監督作として、ショートフィルム「Delivery Health」「in-side-out」などを手がける。
2021年3月11日には京都・清水寺でのパフォーマンス「Re:Incarnation」の総合演出を務め、東京2020オリンピック開会式では鎮魂の舞を踊った。
2022年4月より神戸市にArtisti in Residence KOBE(AiRK)を設立し、運営に携わる。ポスト舞踏派。
2023年4月6日 時点