RRAレポート 清田鮎子・千葉りか子・三浦雨林

劇場〈ArtTheater dB KOBE〉を拠点に、自身の表現探求や身体の鍛錬のためのリサーチやダンストレーニングなどを行う『dBリサーチ・レジデンス・アーティスト』。2025年度は4月〜6月の約3か月間に16組のアーティストが滞在します。
今回は、5月19日〜5月29日にかけて滞在した清田鮎子さん・千葉りか子さん・三浦雨林さんの滞在記録を公開します。
清田鮎子・千葉りか子・三浦雨林
【滞在期間:5月19日(月)〜5月29日(木)】
5月19日
新長田到着
HORUSで昼食購入
13:00~14:00 高瀬瑶子『10分間のダンスと「?」を共有する時間』参加
5月20日
12:00~18:00 実験 @studio PLOW
実験内容:口頭エッセイ・なぞなぞ・道案内・ラジオ
5月21日
10:00~14:00 実験 @ArtTheater dB KOBE(以下、dB)
実験内容:話題ガチャ・英語のラジオ・組み立て実況
5月22日
10:00~14:00 実験 @dB
実験内容:プロジェクターエッセイ
ワーク:感覚を開くワーク(千葉)・レジスタンスのワーク(清田)
5月23日
15:00~ 喫茶店Atelierで会議
18:00~20:30 WS実施 @dB
5月24日
11:00~13:00 WS実験 @dB
14:00~15:00 内田結花『ニュー・フィールドワーク実験室|劇場をオープンにして実験する日』参加
16:00~ 空地文庫 訪問
18:00~ オランダ・日本 共同インテグレイテッドダンス公演「UNUM」&「Iungo」鑑賞
5月25日
19:00~石川朝日『1(忘)LDK』パフォーマンス鑑賞@空地文庫(清田・千葉)
5月26日
10:00~18:00 実験 @dB
13:00~15:30 渡辺祥弘さん・新家綾さんと新長田街歩き
5月27日
12:00~16:00 実験 @dB
実験内容:指示・AI読み上げ
16:30~ HORUSと商店街にて撮影
5月28日
13:00~17:00 実験 @dB
実験内容:ワード当て・ことばをコピーしてコピーする・応用実験
5月29日
14:00~17:30 実験・調整 @dB
19:30~20:30 WIP『ことばを生み出す、からだが流れる』開催
5月30日
帰京
Q1 レジデンスの目的を教えてください。
ことば と からだ がフラットに影響を与えあうことが出来るのかというテーマを軸に、それらの新しい相互作用の発見を目指した試行と検証を重ねることが大きな目的でした。
また、新長田の町で過ごして町を知ること、長期滞在して集中して一つのリサーチテーマに向き合う経験をすることも目的のひとつです。
Q2 どのようなリサーチや実験を行いましたか?
ひたすら実験→ディスカッションを繰り返し、ことば↔︎からだに有効な手法を探るリサーチでした。
様々な実験とディスカッションは常に併せて行い、その都度どう感じたか、何か発見があったかなどを話し合いました。
また、その都度撮影し、録画を確認することで外からどのように見えるのかに関しても検討を行いました。
リサーチの様子 何にフォーカスするかや何が起こったかを共有する日々
Q3 印象的な瞬間(エピソード)があれば教えてください。
滞在先とdBの間の道にある川の景色が一番印象に残っています。満ち引きによっていろんな顔をするのがおもしろくて、必ず立ち止まって観察してから劇場へ向かっていました。時々エイもいることがあると聞き、最終日にそれっぽいのがいると思ったらひっくり返った傘でした。(清田)
今回、初めて演劇のワークのファシリテイト(誘導)をしました。少しの言葉の違いでみんなが持つイメージが変わり、ワークへのモチベーションや身体への影響がとても大きいことに驚きました。伝わると思っていた言い回しでは万人に通じないことを痛感しました。
アートやダンス、演劇をその周辺の人々だけのものにしたくないと思っていたのに自分の共通言語に対する甘えに気が付いたと同時にどういえば伝わるかの言葉探しにはやりがいを感じました。
またやりたいワークを行う為にはみんな(参加者)をどのような体に持っていくか、自分が習ったこと・言葉に拘るのではなく、それを持ちつつ今目の前にいる人とこの場所ではどんな言葉でどんな声がいいか模索することも楽しんで挑めました。(千葉)
三人とも同じ家から出発して、歩いて15分ほどの道中、ロッケンに手を降って、HORUSでパンを買って、劇場に入る。
作品にするために急ぐ必要のないクリエイションを、生活の中で一歩づつ進めることが出来る毎日全てが特別な時間でした。
地に足のついた状態で自分たちの疑問やテーマに真正面から向き合い、集中して取り組むプロセスを踏むことが出来たと感じています。
これは、普段の東京でのクリエイション(働きながら、そして拠点のない状態)ではなかなか難しいものです。
ゆるやかに旅人を受け入れてくれる新長田という街と、そこで暮らしながらクリエイションを行うレジデンスとの相性の良さを実感した10日間でした。 先の見えない実験を安心して積み重ねることができた貴重な体験でした。(三浦)
WSの様子 本のことばを使ってうごいてみる
Q4 今回のリサーチで収穫はありましたか?
今回のリサーチでは「ことばをサウンド(音)として捉えないこと」を意識的に取り組みました。
動き手は「ことば(と意味)を取り込む→咀嚼する→身体に反映する」のルートを省略しないまま、反射のように動きを出力/発現させることを目指して実験を繰り返しましたが、これには手法だけではなくトレーニングが必要だということがわかりました。
また、ことば↔︎からだの相互関係に関しては、話し手と動き手のフォーカスの違いや、出力方法の違いを観測することが出来ました。様々に行った実験結果はもちろんのこと、時間をかけてじっくりと探求したプロセスそのものも含め、今回の滞在を通して今後のさらなる発展や作品創作への種を見つけられたと感じています。
WIPの様子 糸電話×自由律ダンス
Q5 dBスタッフ鈴木と撮影した写真について / 撮影場所を決めた理由は?
「手作りパン屋さん HORUS 新長田店」
撮影に際して我々がお願いしたのは「新長田の商店街でHORUSのパンを食べてる姿」でした。
新長田に到着した初日、新旧入り混じる商店街を歩きながら、「きっとここが街の大動脈なんだろうな」と感じていました。
初めての来訪でしたが、どこか居心地がよく、ここで生活をすることを受け入れられたような気がして、三人とも一瞬でお気に入りの場所となっていました。
そして、新長田で最初に食べたものがホルスのパンでした。それからは定休日以外、ほぼ毎日通っていました。
各々が別の時間に家を出発し、別のルートを通って劇場入りをする日でも、HORUSで出会うということもあったくらいです。毎回、お気に入りのパン+新しく食べたいパン+α でみんなのトレーはいっぱいでした。
美味しそうな匂いに我慢が出来ず、店を出てすぐに食べ初め、dBに到着するまでに一つか二つは食べ終わっているのが我々のルーティーンでした。そしてそんな等身大の姿こそが我々らしいのでは、と思い撮影していただきました。
撮影中も、お買い物中の知り合いに遭遇したり、通りすがりのおばあちゃんが撮影を見守ってくれたりと、終始この街の暖かさを感じながらパンを頬張っていました。
我慢できずに商店街を歩きながらモグモグ
Q6 今後の展望を教えてください。
まだまだ検証出来ていない実験が多数あるので、リサーチ活動は継続していきます。
その上で、作品の形で発表することも検討可能な段階にきたと感じています。
上演形態やジャンルに捉われず、自由な発想でアウトプットの形と機会を探りながら、研究を続けていきます。
リサーチ協力者(敬称略)
協力:
したまちのえきロッケン
合田三奈子
宝利彩夏
まちあるき協力:
渡辺祥弘(長田区地域協働課)
Mi-Mi-Biのみなさん
稽古場協力:
加藤理愛
杉本菜月(劇作家/舞台照明家)
青柳美乃里 (ダンサー)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会