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RRAレポート 篠崎芽美

劇場〈ArtTheater dB KOBE〉を拠点に、自身の表現探求や身体の鍛錬のためのリサーチやダンストレーニングなどを行う『dBリサーチ・レジデンス・アーティスト』。2025年度は4月〜6月の約3か月間に16組のアーティストが滞在します。

今回は、5月27日〜6月5日にかけて滞在した篠崎芽美さんの滞在記録を公開します。

篠崎芽美

【滞在期間:5月27日(火)~6月5日(木)】

5月27日

新長田到着
Studio PLOW(以下、PLOW)近くの定食屋「隠れ家 巛 せん」でdBの皆さんとランチ
喫茶店パープレイにて、けいこママに会う。
再びPLOW
新長田ウォールギャラリー
居酒屋 富士

5月28日

ランニング(須磨海岸)
cafe&bar SAKAZUKIにて、池田浩基さん舞さんと会う。
PLOWにて、RRA高瀬遥子さんのWork In Progress(以下WIP)
そのままPLOWにてワークショップのクリエーション
DANCE BOXにて田中幸恵さんに話を聞く。
house next doorにて中間アヤカさんに会う。

5月29日

スタジオ・長田教坊にて趙恵美さんと話す。
PLOWでクリエーション
RRA森岡美結菜さん+長野里音さんと話す。
RRA清田鮎子さん千葉りか子さん三浦雨林さんのWIP
銭湯 扇港湯

 

5月30日

真陽デイサービスにてWS
神戸在日コリアンくらしとことばのミュージアム
dBにてリサーチ
中華料理めいりん
cafe&bar SAKAZUKI

 

5月31日

ランニング(ノエビアスタジアム)
空地文庫にて小松菜々子さんと話す
下町ゲストハウス「とまりぎ」にてRRAポートレート撮影
したまちのえきロッケンにて合田三奈子さんと話す
「下町芸術祭2025」キックオフミーティング参加
したまちのえきロッケンにてMT後の宴
cafe&bar SAKAZUKI

6月1日

dBにて街歩きWS
銭湯 浜添湯

6月2日

ランニング(須磨海岸)
喫茶 パープレイ
したまちのえきロッケンにてランチ
dBにてリサーチ

6月3日

はっぴーの家ろっけんにて秋田乃梨子さんの話を聞く。
dBにてリサーチ

6月4日

喫茶 パープレイにて、岸本茉夕さん、櫻井拓斗さん、秋田乃梨子さんと話す
カトリックたかとり教会にて、地域団体会議に参加
dBにて報告会準備

6月5日

ランニング(須磨海岸)
真野ハウス掃除
dBにて報告会準備
RRA報告会

 

Q1 レジデンスの目的を教えてください

3年前初めて新長田の街に滞在した際、アートとダンスが生活や街に自然と溶け込んでいることに驚きました。ここには長く住む街の人たちと、DANCE BOXをきっかけに移り住んだダンサーたちが共に暮らしていてその関係性も興味深かったです。

″生活とダンス″について、全く新しい視点から捉え直す事ができるのではないかと思い、この街の特徴的なスペースや人を探訪して、地域に住む人々がどんな本質を軸に生活をしているのか、リサーチすることを目的としました。

 

Q2 どのようなリサーチや実験を行いましたか?

以前から会いたかった人に会いに行ってお話を聞きました。また1人でお店、銭湯、路地、資料館、教会などを訪れて街の人たちとできるだけ会話しました。
対話やその他、街での体験を元に、新しいワークショップと小さなパフォーマンスをクリエーションしました。

◯5/31〜6/5
街の皆さんの言葉を記録し、大きな紙に手書き。(報告会にて掲示)

◯6/1
街の人たちに向けたワークショップを開催。

◯6/5
ミニパフォーマンスと報告会を開催。

 


街歩きワークショップの様子「街の延長線上になる」

 


報告会の様子

Q3 印象的な瞬間(エピソード)があれば教えてください

あまりにたくさんありますが、その中で二つ答えさせていただきます。

はじめは、今の新長田を体感しよう!と思っていましたが人と出会うにつれ、この地に、多様なルーツにつながる人々、文化が宿るに至った歴史背景にも踏み込まなければならなくなりました。神戸在日コリアンくらしとことばのミュージアムで見てきたことと、舞踊家の趙恵美さんとの対話の中で、「母国語を話す」ということが、その人の価値観だけでなく精神的にも肉体的にも長く影響するのだということを理解することができました。

私は普段から小さな子どもと接する機会が多く『言葉』について頻繁に考えていた事もあり、大切な感覚をいただいたと思っています。その感覚の延長として、報告会に向けて、街の皆さんと交わした「言葉」をひたすら紙に書き写すという作業を衝動的に始めました(拙い試みではありましたが)。でも、そういった衝動を安心して実行に移せるのも、DANCE BOXRRAの懐の深さがあってこそだと感じています。

 

最後の報告会で、街の皆さんとディスカッションすることにしたのですが、思った以上に皆さんからご意見が出ませんでした。これはまず、私のパフォーマンスやファシリテートの不出来が大きかったのだと思いますが、特に「街に感じる閉塞感」について伺った時は顕著でした。必要以上にネガティブに響いたりして不快感を与えてしまったかもしれず、申し訳ない気持ちもありますが、皆さんが何かを飲みこんだのを感じました。口にすることを躊躇うような想いほど大切なものはない気がしますし、私自身今もまだ考えています。まだ話し足りない、捉え足りないなと感じました。


報告会の様子

 

Q4 今回のリサーチで収穫はありましたか?

新長田という″街″をリサーチ対象にしましたが、「人々の生活」という普遍的なテーマに出会えました。自分の街の中にいたら永遠に捉えられなかった感覚だと思います。

パフォーマンスを作るにあたって、この街でのドキュメンテーションの中に、人間の普遍性が浮かび上がってくるような予感がありました。

ワークショップでは、街の人たちと散歩に出かけて、道端の隅っこに見つけた小さな発見や心地よさを身体の中に記憶させ、それを劇場でアウトプットする、という試みでした。

普段は「街の中にある身体」が、「身体の中にある街」と交差するようなおもしろさがあり、この感覚もまた模索したいと思いました。

街歩きワークショップの様子「街の温度を感じる」

 


街歩きワークショップの様子「街にすわる」

 

街の人を閉口させた「閉塞感」に関してですが…そもそも私自身が感じていたことでもあり、目の前の街の人たちの反応は、まるで自分の内側が溢れ出してきたかのようでした。自分の中身を、他者の反応を通して“外から”見たような体験は個人的に大きな収穫となりました。

振り返ってみると…今回私が「理想の暮らし」や「街」「地域」というテーマを新長田に求めたのは、自分が感じていた閉塞感から飛び出したかったんだと気付きました。思いがけず自分の問題を曝け出すことになりましたが、こうやって捉えられたことで紐解けた部分がありました。

自分を縛り付けるのは「環境」ではないということも改めて思い知らされました。

インプットがあったり、アウトプットがあったり、内省があったりしながら「自分と、″街″とはなにか?」を深く考えさせられる機会となりました。

およそダンスの域の話ではないかもしれませんが、これをあくまでダンスだとしてやっていくのがおもしろいんじゃないかという、不思議なワクワクが残っています。

 

Q5 dBスタッフ鈴木と撮影した写真について / 撮影場所を決めた理由

「ゲストハウス とまりぎ」

下町ゲストハウス「とまりぎ」は、初めて新長田に滞在した時に、娘と一緒にお世話になった場所。
お隣に住むオーナーの池田家から下町暮らしの楽しさと、本当の理想の暮らしについての深淵を教えてもらいました。
この場所と、池田家と出会っていなかったら、今回の私のレジデンスもなかったかもしれません。

 

Q6 今後の展望を教えてください

東京で、今回のレジデンスについてのシェア会をしたいと思っていて、まずはその準備していきます。
新長田という街は日本の未来のロールモデルなのでは、と本気で思っていて…(笑)
その幸福も悩みも試みも、私にとっては宝物のようでした。
アーティストが、街の中で「暮らすように踊り」、あるいは「踊るように暮らす」ような空気感を、私自身も吸い込むことができ、今は色々な意味で宿題を抱えて東京に帰ってきたような気持ちです。

新長田とはちがう形で特別なコミュニティを待ち多様なルーツにつながる人々や文化が共生している地域は他にもあり、私の住む街にもそういった活動をしている人たちはたくさんいます。リサーチを続けながら、私も場を運営していけるよう動き出したいと思っています。

全ての方向に対して笑顔でいられるような暮らしは難しいのかもしれませんが、多種多様な人たちみんなで暮らしていくためにはどうしたらいいかを″みんな″で考え続ける土壌をつくるのがおもしろいと感じているので、そんな機会や場をできるだけ多く作っていきたいと思います。


街から劇場へ

 


 

リサーチ協力者(敬称略)

協力:
喫茶パープレイ
池田浩基(cafe&bar SAKAZUKI
小笠原舞(下町ゲストハウス「とまりぎ」
田中幸恵(NPO法人DANCE BOX
中間アヤカ(ダンサー・house next door)
趙恵美(コリアンダンサー・スタジオ・長田教坊、SalonKongan)
真陽デイサービスの皆さま
小松菜々子(振付家・ダンサー・空地文庫)
新長田アートコモンズ実行委員会
合田美奈子(したまちのえきロッケン)
秋田乃梨子(はっぴーの家ろっけん)
金千秋 (特定非営利活動法人エフエムわいわい)
カトリックたかとり教会

他:
街で出会った皆さま
RRA参加ダンサーの皆さま
NPO法人DANCE BOXの皆さま

 

助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会

この記事に登場する人

清水将之

篠崎芽美

高校在学中に「珍しいキノコ舞踊団」の門戸を叩き初参加。日大芸術学部在学中から2017年まで同カンパニーに在籍し国内外で発表された全作品に出演する。二児の母となった現在はダンスを踊る傍ら、子供、親子、大人向けのダンスワークショップや、パフォーマンスを各地で行う。2016年~2023年、芸術祭やフェスティバルと連携して子育て中のアーティストと観客を支援する「ダンス保育園!!」に参画。2018年より子どもと表現をテーマにしたワークショップとパフォーマンスのイベント「ヒョーゲンのメメメ」を主催。定期開催のダンスクラス「ダンススル会」にて、子どもたちが自己表現を楽しめる新しい場づくりを研究、拡大中。

Instagram:@memi_shinozaki

2023年6月20日 時点

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