RRAレポート 内田結花

劇場〈ArtTheater dB KOBE〉を拠点に、自身の表現探求や身体の鍛錬のためのリサーチやダンストレーニングなどを行う『dBリサーチ・レジデンス・アーティスト』。2025年度は4月〜6月の約3か月間に16組のアーティストが滞在します。
今回は、5月1日〜5月24日にかけて滞在した内田結花さんの滞在記録を公開します。
内田結花
【滞在期間:5月1日(木)~5月24日(土)】
5月1日
劇場ロビーにて担当スタッフの鈴木さんとmtg
5月2日
劇場にてオープンリサーチの準備
5月3日
オープンリサーチ「歩いてリサーチする」開催
新長田駅前から高取山の頂上を目指して歩く
リサーチ後は空地文庫にて「観察してことを他者に伝える実験」を行う
5月5日、6日
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク「問いのダンス」WS参加
5月7日
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク「問いのダンス」上演+トーク参加
5月8日
Google formにて実験参加者の実験アイデアを募る
5月9日
studio PLOWにてオープンリサーチの準備
5月10日
第52回 神戸まつり「長田フェスティバル」特別記念パフォーマンス出演
5月16日
真陽デイサービスにて、大石英史さんがエクササイズ講師を務める
5月17日
オープンリサーチ「歩いてリサーチする」開催
新長田駅前から駒ヶ林神社までのリサーチを行う
リサーチ後は空地文庫にて「観察してことを他者に伝える実験」を行う
5月18日
Google formにて実験参加者の実験アイデアが出揃う
5月20日
実験参加者が全員集合し、劇場にて、本格的なクリエイションを開始
5月21日
劇場にて、本格的なクリエイションを続ける
5月22日
ダンサー今村達紀さん参加
クリエイション後、京都駅にてべにさんの写真作品を数点受け取る
5月23日
仕込み、リハーサル、バラシまでの通し稽古
5月24日
オープン実験「劇場をオープンにして実験する日」開催
Q1 レジデンスの目的を教えてください
「鳩を観察する」行為を創作の入口とするプロジェクト『ニュー・フィールドワーク』。このプロジェクトは、ダンサー、俳優、美術家など、フィールドワークの素人たちが集まり、観察や対話を通じて、コレクティブな形で作品をつくっています。2023年に新長田で開催された「下町芸術祭」で始まり、これまでに新長田駅前広場、ロームシアター京都、バンコクの街などで実践してきました。
今回は、このプロジェクトを「劇場空間の中でどう展開できるか」を探ることを目的に進めました。本レジデンスのために集結した6名の実験参加メンバーとともに、トライ&エラーを重ねながら、身体的かつ空間的なアウトプットの方法をリサーチし実験しました。
Q2 どのようなリサーチや実験を行いましたか?
滞在中、2日間にわたるオープンリサーチ「歩いてリサーチする」を実施しました。
1回目は、レジデンス開始直後の週末に開催。
新長田駅前に集合し、高取山の山頂を目指して歩きました。
この回には、dBスタッフの下村さんがご家族と一緒に参加してくださり、柔らかなやり取りが生まれるなかでの山登りとなりました。山頂では、望遠鏡から大阪万博のリングが見えたことがハイライトに。また、山頂から見下ろす神戸のまちを「鳥瞰図」と見立てることで、鳥の視点を想像する契機となりました。遠くに見えた鉄人28号の小さな背中を発見し、参加者同士ではしゃぎあったことが印象深いです。下山後に見た、鉄人28号はとても大きく、視点の違いを身体で体感する時間になりました。
その後は空地文庫にて、「観察したことを他者に伝える実験」を行いましたが、私自身のナビゲートにはまだ工夫の余地があると感じ、反省点として残りました。
5/3 高取山からの眺め
5/3 高取山下り
第2回のオープンリサーチでは、新長田駅から駒ヶ林神社までを、途中でお菓子などをつまみながら、ゆっくりと歩きました。
予想以上に時間をかけたことで、まちの様子を普段とは異なる感覚で眺められたという感想も寄せられました。道中では、(おそらく)カラスの古巣を発見する場面もありました。
リサーチ後には再び空地文庫に集まり、「観察を伝える実験」を実施。参加者それぞれが視点の工夫を重ねたことで、5月24日の公開実験に向けた構想がより具体的になっていきました。
5/17 空地文庫にて(photo by Yu Suzuki)
5月16日「真陽デイサービス」にて、実験参加メンバーの大石英史さんが講師となり、エクササイズを実施しました。
エクササイズ中に、話題は大阪万博に。デイサービスの方々が1970年代の大阪万博を全員体験しており、当時の思い出が次々と語られました。思い出を語る際の、目をキラキラと輝かせるみなさんの姿がとても印象的で、その風景が私の中にも流れ込んでくるような感覚が湧き起こり、身体のどこかがじーんと熱くなりました。
午後は、5月24日のイベントに向けたクリエイションを行いました。大石さん、風太さん、私の3人で、突拍子もないアイデアを出し合いながら構成を練りました。昼間にもかかわらず、まるで深夜のような高揚感に包まれていたように思います。この日に生まれたアイデアたちは、その後も残り続け、結果的に「アイデアの核」になったものも多くありました。
滞在の最終週となった5月20日。ようやく全員の実験参加者が揃い、本格的なクリエイションがスタートしました。
5月22日には、ダンサーの今村達紀さんが参加し、商店街のアーケードを歩きながら、新長田の鳩の様子や、これまでの滞在で行ったことついて共有しました。夕方には、京都駅でべにさんと待ち合わせをして、「喫茶 鳩駒(※1)」に展示していた写真作品の一部を受け取りました。べにさんの作品を受け取ったことにより、プロジェクトのアーカイブ展示にも着手することができました。
※1『喫茶 鳩駒』: 『ニュー・フィールドワーク』のはじまりとなった、2023年「下町芸術祭」で展開した作品名。
5/22 dB裏紙でスケッチブックをつくる
5月23日には、仕込み・リハーサル・片付けまでを、本番と同様のタイムラインで実施しました。片付けの段取りが日ごとに洗練されていくのも、コレクティブな創作ならではの実りでした。この日のリハーサルに立ち会ってくださった方々からは、非常に具体的で励みとなるフィードバックをいただきました。
そして最終日の5月24日。「劇場をオープンにして実験する日」として、公開実験を実施しました。雨が降り、湿度も気圧も不安定な1日でしたが、来場者の皆さんが残してくれたスケッチブックには、それぞれの個性的な視点が綴られて(描かれて)いました。ご来場いただき誠にありがとうございました。
5/24 オープン実験「劇場をオープンにして実験する日」
5/24 オープン実験「劇場をオープンにして実験する日」
Q3 今回のリサーチで収穫はありましたか?
はい、ありました。今回の目的は、「このプロジェクトを劇場空間の中で展開できる可能性を探ること」でしたが、その可能性を実感する場面がいくつもありました。
また、オープンリサーチや、劇場での実験を複数の方に見ていただき、率直で具体的なご意見をいただけたことも大きな収穫でした。いただいたフィードバックの言葉たちが、この取り組みに対する手応えとなり、次の展開をポジティブかつ具体的に考えられるようになりました。
オープン実験「劇場をオープンにして実験する日」フィードバック
Q4 dBスタッフ鈴木と撮影した写真について / 撮影場所を決めた理由
「新長田駅前広場」
新長田駅前広場は、このプロジェクトが始まるきっかけとなった、とても大切な場所です。
私は、彼らがここで安心して憩い、集う様子をとても羨ましく感じています。今回の撮影でも、この広場が持つ空気感や、プロジェクトの出発点としての意味を大切にしたいと考え、ここを選びました。
Q5 今後の展望を教えてください
今後の展望としては、このプロジェクトを様々な場所で上演していくことを目指しています。その際には、上演地ごとの地域性や文脈に寄り添いながら、「鳩」という私たちにとって身近な存在を入口に、集う場を立ち上げ、場に応じて緩やかに変化し続ける作品として構想を深めていきたいと思います。
国や地域によって、鳩と人との関係性や捉え方は異なります。だからこそ本作は「他者との共創とは何か?」という問いを投げかける契機になりうるのではないかと考えています。土地に根ざしたリサーチと創作のプロセスを大切にしながら、多様な場所での上演を重ねることで、作品自体が広がりと深まりを持ち、継続的に展開していくことを目指しています。
今回のレジデンスを通じて、上演への可能性を確かな手応えとして感じることができたことは、とても大きな収穫でした。自由に実験させていただけたこと、本当にありがたく思っています。やってみて、見えてきたこと、気づけたことが沢山ありました。あらためて、心より感謝申し上げます。
オープン実験「劇場をオープンにして実験する日」ホワイトボード(作 中根千枝)
リサーチ協力者(敬称略)
実験参加者:
大石英史
中根千枝
中村風太
三ヶ尻敬悟
山下桃花
リサーチ協力:
今村達紀
北口俊彦
小松菜々子(空地文庫)
熊澤洋介
下村家
べに
三浦あさ子
5/3, 5/17オープンリサーチご参加の皆様
NPO法人DANCE BOXスタッフの皆様
新長田で暮らす鳩の皆様
高取山
真陽デイサービス
ほか
助成: 文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会
この記事に登場する人
内田結花
大阪生まれ在住。文化庁・NPO DANCE BOX主催「国内ダンス留学@神戸」2期振付家コース修了。上演環境や状況に振り付けられる身体をテーマに活動を展開している。近作に、日記を基にした振付を屋内外の異なる環境や状況下で上演する『暮らしのシリーズ』(2019-23)、フィールドワーク素人たちによる「鳩の観察」を通して得た情報を他者に伝えようとする『ニュー・フィールドワーク』(2023年 下町芸術祭 / 2024年 KYOTO EXPERIMENT ‘Kansai Studies’)等。2022年より障害のある人もない人もごちゃ混ぜに活動するダンスカンパニーMi-Mi-Bi(プロデュース:NPO DANCE BOX)に立ち上げから関わり、豊岡演劇祭に招聘され上演した『島ゞノ舞ゝゝ』(2024年)では、森田かずよとともに演出を務める。2025年度Bangkok International Performing Arts Meeting(BIPAM)×KYOTO EXPERIMENT×国際交流基金共同プロジェクト’Shifting Points’参加アーティスト。
2025年5月11日 時点
大石英史
大阪府出身。俳優。
2015年から2020年までdracomに登録メンバーとして参加。
過去には、ルサンチカ、土田英生、ティッシュの会、ブルーエゴナク、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク、お寿司、孤独の練習、akakilike、市原佐都子/Q、維新派などの作品に出演。
現在、映像ディレクターのbushi、詩人の辺口芳典とともにハナタロという活動を行っている。ハナタロで、2025年5月と6月に1回目の演劇作品『虚口♯1』を発表する。
2025年4月25日 時点
中村風太
/FUKAFUTA
2009年より楽曲制作を開始
2018年に個展を自主開催する
2020年から可能な限り動物利用を避ける「ヴィーガン」のライフスタイルを実践
脱・動物利用を訴える啓発デモへの参加やSNS・楽曲配信など、様々な活動を通し
どうぶつ解放と、その先にある
ヒト解放を目指し、芸術運動を行ったり
行ってなかったりする、、、楽しそうでしょ?
Instagram:@lg_for_animals
Twitter:@XfvYb
2023年3月19日 時点
中根千枝
兵庫県在住、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)美術工芸学科染織テキスタイルコース卒業。2014年「国内ダンス留学@神戸」2期ダンサーコース修了。以降東京にてソロ作品を発表。井手茂太、岡登志子(アンサンブル・ゾネ)などの振付作品やパフォーマンスに出演。2019年より内田結花と「暮らし」シリーズを協働制作。
2023年3月19日 時点
山下桃花
東京都出身。幼い頃より新体操を始める。訪れた場所に身を浸す暮らしを通し、〈場に影響されるカラダ〉に興味を持つ。国内ダンス留学@神戸8期にて、寺田みさこ、Monochrome Circus、森下真樹、安本亜佐美の作品に参加。直近では、千日前青空ダンス倶楽部にダンサーとして携わる。現在も、様々な土地・文化圏を訪れながら、身のまわりとカラダの関係を引き続き探っている。
2024年9月26日 時点