RRAレポート idea platform

劇場〈ArtTheater dB KOBE〉を拠点に、自身の表現探求や身体の鍛錬のためのリサーチやダンストレーニングなどを行う『dBリサーチ・レジデンス・アーティスト』。2025年度は4月〜6月の約3か月間に16組のアーティストが滞在しました。
今回は、5月7日〜6月26日にかけて滞在したidea platformの滞在記録を公開します。
idea platform
【滞在期間:5月7日(水)〜6月26日(木)】
一期
5月7日:高野千聖入り。長田まち歩き。
5月8日:高野・大石英史・小松菜々子でポッドキャスト収録。
5月9日:上野天陽くんを交えて、言葉からダンスを作る。タロット占いをしまくる。
5月10日:三ヶ尻敬悟さんが髙野さんの悩みを空地文庫で聞いてくれる。
5月11日:髙野・三ヶ尻・津賀恵・小松で東尻池にあるDaniel Millerのアトリエを見学する。
5月12日〜13日:西村組で髙野が作業をする。
5月15日:ワタナベモモコが ・空地文庫とr3で街の人にインタビューを行う。
二期
5月22日:藤田彩佳入り1時間走りながら踊るワークを毎日行うことを宣言。ポッドキャスト公開。
5月23日:藤田・上野・小松でドラム缶を駒ヶ林から苅藻に移動させる動画を撮る。
5月24日:石川朝日入り。街歩き。石川・藤田・ワタナベ・小松でダンス公演を観る。
5月25日:石川朝日が空地文庫パフォーマンス 『1(忘)LDK 』
5月26日:石川・藤田・上野・小松が丸山まで歩いて丸山ツアー。
5月27日:石川・藤田・小松が往復5時間以上歩いてから劇場で集合し、歩いた軌跡を紙にインプットしながら実演する。(後半から三ヶ尻・内田結花が参加)
5月28日:石川・藤田・ワタナベが劇場でお互いのアイデンティティの書き出しとフィードバック(藤田は1時間マラソン)
5月29日:石川が朝の5時に駒ヶ林を出発し六甲牧場、三宮をウォーキングで巡る。20時に駒ヶ林へ帰る。
5月30日:石川・藤田・小松がみんなで喫茶ホワイトでモーニング。劇場でお互いのアイデンティティの書き出しとフィードバック(藤田は1時間マラソン)
三期
6月1日:増川建太入り
6月3〜4日:大石・内田・増川・髙野。日々の疲れなのかとにかく会話が止まらない。4時間話し合った後に、さんぺいで飲みながら夜中まで話す。
6月5日:髙野さんがローラーブレードのパフォーマンスを作りたいということで、みんなで試作する。大石さんが占いを読み上げたいというのでパフォーマンス中に読み上げてもらうことにした。
6月6日:増川・髙野・小松・三浦・垣尾で須磨を散策。垣尾さんの聴くことからはじまるダンスを実践??内田後半合流。
6月7日:増川があづみぴあのさんの古代文字WSに参加する。オル太の井上徹さん合流。
6月10日:髙野・内田・小松で自分たちのルーツを話し合う。髙野聖の話や内田家の先祖がパンクだった。SNSからダンスを引っ張ってきて、新しく組み替えるワークを行った。
6月11日:内田・髙野・小松が空地文庫へ行く。
6月12日:内田・髙野・小松とオル太井上さんを交えて、551や丸五市場などで買いためたランチ交換会。2号線の古道具屋さんへ行く。
四期
6月17日:宇津木千穂・ワタナベ・三保谷将史入り
6月18日:三宮へ。C.A.P.の展示『仮(葬)』を見に行く
6月19日:三保谷さんが書き溜めているnoteをシェアしてもらう。宇津木は長田のお気に入りspotに2時間、居続けてみた。
6月24日:三保谷・ワタナベ・小松が空地文庫で三保谷の写真解説を聞く。ひっぱりうどんというものをつくってみる。
6月25日:宇津木・三保谷・ワタナベ・小松が空地文庫で『マルサの女』を観る
6月26日:宇津木とワタナベが同時にそれぞれのパフォーマンスを行ってみることに挑戦。小松・内田は観客になってみる。
Q1 レジデンスの目的を教えてください
ダンスや演劇など舞台芸術だけではなく、様々な活動する人たちがふらっと集まり、それぞれの活動をシェアしたり、自分の現在地を共有する実験を行うため。レジデンスだからこそできる緩やかな共有の時間を得たいと思ったので。
Q2 どのようなリサーチや実験を行いましたか?
ポッドキャストの収録や、自分のリサーチのシェア、パフォーマンスやお互いのフィードバック、料理をすることや一緒に街を歩くことなど多岐に渡ったリサーチや発表を行いました。
・街と身体のリサーチ
長田や須磨、丸山、駒ヶ林など地域を歩き、移動や長時間の滞在を通じて街との関係を身体に刻む試みを行いました。往復数時間の歩行、早朝から夜までの移動なども含まれます。
・個人史・アイデンティティの共有
各参加者が自身のルーツやアイデンティティを言葉にし、他者と共有するワークを行いました。また「悩みを聞く」「言葉からダンスを作る」など、個人的な経験や言葉を身体表現へ変換する試みが行われました。
・異分野との交差
ポッドキャスト収録・公開、写真解説、映画鑑賞、古代文字ワークショップなど、舞台芸術以外の表現媒体を積極的に取り入れました。また占いや朗読、料理づくり、音の実験(ドラム缶移動)など、多様な行為をパフォーマンスと往還させる実験を試みました。
・場と関係性の実験
空地文庫や劇場、カフェなど、多様な場を使い分けて活動を行いました。場の雰囲気や構造を意識しながら、同時に複数のパフォーマンスを行うなど「共有のあり方」自体を問い直す実験がなされました。
4期空地文庫にて
Q3 印象的な瞬間(エピソード)があれば教えてください。
石川朝日さんの提案で、それぞれが朝から約5時間歩き、自分の目的地まで行き折り返して劇場に集合する試みを行いました。集合後には、石川さんの進行のもと、それぞれが歩いた道のりや過ごした時間、そこで生じた感覚や思考を共有しました。道程や距離、目的意識は全く異なっていましたが、互いの途方もない個人的時間を尊重し合い、その感覚を受け入れることができました。この実践は、独自の道を歩みながらも共有地を探し、自立しつつ過程を分かち合うという「idea platform」の在り方とも深く通じており、印象的な経験となりました。
2期石川くんのアウトプット
Q4 今回のリサーチで収穫はありましたか?
成果を急がずに長い時間を共にすること自体を価値とし、雑談や寄り道を含む共有の時間が、互いの思考や関心を自然に引き出す関係性を生み出しました。アイデンティティの書き出しやルーツの共有を通じて参加者の背景が可視化され、共同制作の基盤となる共有知が形成されました。また、長距離の歩行やマラソンによる移動の実践から、疲労や風景の変化といった身体に刻まれる感覚が蓄積され、舞台表現へと還元可能な経験が得られました。さらに、街歩きや料理、占い、音楽、文字、映画など、生活世界と舞台芸術を横断する試みが、身体表現の新たな可能性を開く契機となりました。空地文庫での語らいや同時パフォーマンスの実験などを通じて、作品以前の「共有の場」をどのようにデザインするかという意識も芽生えたことが、本リサーチの大きな収穫でした。
Q5 dBスタッフ鈴木と撮影した写真について / 撮影場所を決めた理由は?
「DANCEBOX近くのマンション前」
参加アーティストの宇津木さんが街中で気に入ったスポットです。あまり目立つ場所ではないのですが、水のモニュメントがあり、作られた経緯が気になる場所です。大きな木の下にベンチがあり、静かで明るい気持ちの良い場所でポツリポツリと休憩場所として利用している人が滞在するおすすめスポットです。
Q6 今後の展望を教えてください。
また2024年のRRAで行ったように詰め込まれるような時間を作りたいし、逆にずっと読書会だけをしているような時間も作りたいな、と思っています。目的のない活動はアーティストにとって必要だけれど、社会にとっては意味のないものだし、生産性のないものだし、邪悪なものなのかもしれない。そしてその毒気にアーティスト自身がやられてしまいそうになるけれど、意義あるものに回収されない、そんな時間を自分のためにも作っていきたいと思います。
3期高野さんのパフォーマンスを試作
記述:小松菜々子
リサーチ協力(敬称略)
髙野千聖(アーティスト)
ワタナベモモコ(ダンサー)
三ヶ尻敬悟(アーティスト)
藤田彩佳(ダンサー)
石川朝日(俳優)
上野天陽(まちづくり)
津賀恵(須磨区役所)
Daniel Miller(アーティスト)
大石英史(俳優)
増川建太(ダンサー)
内田結花(ダンサー)
宇津木千穂(俳優・ダンサー)
三保谷将史(アーティスト)
垣尾優(ダンサー)
三浦あさ子(照明家)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会