11期公演インタビュー Newcomer/Showcase#2 橋本真那
国内ダンス留学@神戸11期では、2月7日(土)・8日(日)にNewcomer/Showcase#2 橋本真那 『In the Distance』をArtTheater dB KOBEにて上演します。
本公演では、dBクリエーション・レジデンス・アーティストの橋本真那さんが新作を発表します。
今回は公演に向けて、台湾で過ごした学生時代のお話も交えながら作品についてインタビューしました。
その様子をお届けいたします。
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©陳倩怡
台湾との最初の出会い
横堀:最初に橋本さんの学生時代のことを聞かせてください。国立台湾芸術大学表現芸術学部に4年間留学し、卒業されていますね。留学にはどのようなきっかけがありましたか?
橋本:高校1年生のときに高校の研修ではじめて台湾に行き、直感的に「あ、ここに行こう」と決めたのが最初のきっかけです。その後台湾に何度か足を運ぶなかで一番大きな転機となったのは、高校3年生の時に作文コンテストで台湾に行った際に、日本語世代の方々と出会ったことです。当時の自分にとって、その方々が自分よりも「より日本人」であるように感じたのが衝撃的でした。テキストの上の歴史を勉強するのはあまり得意ではないけれど、そういう方々との実際の交流を通じて、もっと知りたい、理解を深めてみたいという気持ちが生まれてきたんです。もうひとつの理由は単純に、舞踊学科が日本の国立芸術大学にはないということでした。
横堀:台湾の大学に通ってる時は、そういった日本社会で感じる息苦しさのようなものはあまり感じなかったですか?
橋本:それが意外と、矯正されるという意味では、日本統治時代があったからなのかは分からないですが、日本と少し似てるなと思う部分もありました。ただやはり台湾の人たちは、アイデンティティについてすごく考えて、向き合っていると感じます。表現の自由に関しては特にそうです。台湾に行ったからこそ、自分の表現者としての立ち位置に向き合うきっかけになったと思います。
横堀:台湾のアーティストたちが自分の立ち位置を踏まえながら活動している環境のなかで、橋本さんは今後も一緒に活動していこうと思えるダンサーたちと出会ったんですね。卒業したあと、そのまま台湾に残って活動する可能性も考えていましたか?
橋本: そうですね。台湾では学生ではありながらも、4年間いろんなダンスの現場にご一緒させていただいて、少し違う角度から、日本を自分なりに見つめ直すことをしてきました。それで今度は日本に戻って、「日本について」あるいは「自分について」、「あらゆる物事について」向き合ってみたいなと思い、日本に戻ってきました。

『In the Distance』について
横堀:作品について聞いていきたいんですが、帰国してから何作品か作っているんですね。
橋本:はい、美術領域の大学院にいるので、パフォーマンスアート寄りの作品や、小さいダンス作品もいくつか作っています。大きいダンス作品としては、帰国後の『DEAR NEIGHBOR (COMMA)』のあと、今回が2作目になります。
横堀:今回の作品『In the Distance』の創作のきっかけについて教えてもらえますか?
橋本:いくつかの個人的な経験がきっかけになっていますが、そのひとつは、2019 年の香港民主化デモのときの体験です。当時、台湾の大学に通うなかで、いろいろな影響を目の当たりにしました。中国人の留学生が荷物をそのまま置いて、逃げるように自国に帰ったり、香港人のルームメイトが部屋で「私の国がなくなってしまう」と泣きわめいていたり。台湾の学生たちは、自分の主張や意見を付箋に書き込んで、大学のあらゆるところに貼っていました。その付箋の横を、中国人の留学生がすごく気まずそうに通る姿も見ました。でも、全員友人ではあるんです。国のことで、私たちの友情や関係性が壊れることはないんですが、だとしても、やっぱりどうすればいいか分からないという状況のなかで過ごしました。あの出来事を肌で感じて、自分が取るべき態度や姿勢についてとても考えさせられたということが、今回の作品につながっています。今も確実に状況が変化している中で、考え続けることを諦めないことが必要だと思っています。
横堀:今回「ディスタンス」という言葉を使っていますね。誰かと誰かの間の距離ということも連想しましたが、その「距離」は何の距離だと考えていますか?
橋本:誰かと誰かの距離ということもありますが、出来事との距離という意味が1番大きいかもしれません。英語のタイトル『In the Distance』は、「遠くに」とか「はるか遠くに」という意味ですが、同時に『距離之中(きょりのなか)』という漢字のタイトルも付けました。どうしても私たちはこういった出来事を、距離的に遠いというよりは、感覚的に遠いことだと感じてしまっていると思います。けれど、自分たちも「すでにその中にいる」という意味を込めました。
横堀:距離之中。私たちも他人事だと思ってる場合じゃないということですね。
橋本:一番は自分に向けて言っているのかもしれないと思っています。

作品の構想、関わる人たち 劇場空間での立ち上げ
横堀:それではこういったことを、劇場空間の中でどのように立ち上げようと考えていますか?
橋本:それが1番難しいポイントですね(笑)。今の構成としては、舞台上で3人のダンサーの物語が進行するなかで、関わりが生まれたり、または生まれなかったりする距離感を試しています。人と人の距離感、事象との距離感、物事との距離感、そういったものを立ち上げようと試みています。
横堀:今回、この3名のダンサーにお願いした理由を聞かせていただけますか?
橋本:今回は「国内ダンス留学」で出会った人と作りたかったので、伊村千奈美さんと植田円さんにお願いしました。それから台湾から来られる許東鈞さんも合わせて、3人とも違う質感をもっているイメージで選びました。
横堀:許さんは、どのようなダンサーの方ですか?
橋本:彼は大学時代から私が作品に参加させてもらったりしている、仲のいいダンサーです。彼は、スパイスみたいなイメージですね。体の動きに独特な個性があります。私の目から見ると、どこか優雅さを身にまとっているダンサーです。
横堀:ダンスのキャリアはどのように培った方なんですか?
橋本:台湾の国立の小学校では舞踊の授業があって、「バレエ」「中国舞踊」「コンテンポラリーダンス」を三角食べみたいに習っているそうなんです。だからどれに特化したというのはあまり言えないんですよね。それはどこか台湾の屋台に似てる気もしていて、いろいろなものが混ざっているような。それによって、独特の味が出ているのかもなと思っています。
横堀:それは楽しみですね。伊村千奈美さんと植田円さんのテクニックは、西洋ベースなんでしょうか?
橋本:千奈美さんはヒップホップから入っていて、円さんはバレエからですね。3人の質感の違いを、リハーサルをしながらも感じています。その身体が混ざり合った時に、あるいは交差しなかったときに、どんなものが生まれるのかなと楽しみにしているところです。
横堀:音楽は伊藤耕太さん、美術がLiisaさんですね。
橋本:音楽の伊藤さんは東京藝術大学の後輩で、作曲をされています。元々はピアノや合唱がベースのようなのですが、近年ではバンド活動やパフォーマンス公演での作曲、マネジメントをされるなど、マルチに活動をされている方です。美術のLiisaさんは、国籍的には中国ですがハンガリーで生まれてイタリアで育って、今は同じく藝大に通われてます。色んな価値観や文化的な背景を経験してこられた方なので、今回お願いしました。
横堀:現在、インタビューを行っている劇場には、dBでもあまり見ない形のせり出した舞台が仮設で設置されていますね。それはLiisaさんの案ですか?
橋本:せり出した舞台自体は私の案なんですが、横断歩道が外へと、あるいは観客席へと拡張するようなデザインをお願いしています。私たちの日常生活における道路の風景を捉えつつも、それを斜めに越えるような空間を創れたらと思っています。

※せり出し舞台の仮組み
横堀:映像の洪孟承さん、写真の鄧璞さんについても教えてください。
橋本:今回の作品では台湾の「ひまわり学生運動」や「香港民主化デモ」を参照していますが、映像の洪さんは「ひまわり学生運動」を実際に目撃されていて、写真の鄧さんは「香港民主化デモ」を研究しながら作品を制作されている方です。私自身はどちらも現地で経験していないので、お二人から学ばせていただきつつ作品の強度をあげるためにお呼びしています。
横堀:劇場ロビーでは写真の展示も予定していますね。公演の中では、例えば台湾での映像が流れたりするんでしょうか。
橋本:はい、少し抽象的な表現になるかもしれませんが、映像は要素として取り入れる予定です。

※台湾でのひまわり学生運動の時の写真/©洪孟承

※「香港民主化デモ」を研究しながら制作した作品/©鄧璞
人々が行き交う横断歩道 私の「デモ」
横堀:先ほどの話にも出てきましたが、チラシのメインビジュアルに横断歩道が象徴的に入っていますよね。横断歩道はどういったところで、この作品に関わっていますか?
橋本:ひとつは、私が「デモ」というものに興味をもって考えていく中で、横断歩道が私たちの日常と重なるイメージとして思い浮かんだということがあります。あと、自分が横断歩道を歩いているとき、いろいろな文化を持った人や様々な状況の人たちが交差して、その中に自分の身体があるという感覚を強く持ちました。そこへチラシのビジュアルにあるように、「三角コーンを被る」、そして少し立ち止まってみる、というような。日々せわしない中で一度立ち止まって考えてみるというイメージでビジュアルを作りました。
横堀:三角コーンもですが、今回は黄色を印象的に使っていますね。
橋本:黄色には「注意」や「危険」といったイメージがあると思いますが、参照している「ひまわり学生運動」や、その年に香港で起こった「雨傘運動」も全部黄色を使っているんですよね。そこからイメージを引用したものでもあります。
横堀:これは橋本さんなりのデモとも言えるんでしょうか。
橋本:そうかもしれないです。黄色いコーンを被っているのは私かもしれないなと思っています。
横堀:この社会に対して、若い世代も含め、デモなどの形で異議申し立てのために立ち上がる運動がある一方で、日本ではそういうことが遠い場所で起こっているような感覚があるように感じますよね。
橋本:そうですね、そういう感覚はやっぱりあると思います。もちろん考えている学生もたくさんいる。皆さんそれぞれで考えてはいると思うんですけど。
横堀:その一歩が出るかどうかって、すごく大きな違いだという気がしますね。
橋本:作品紹介に書いてある「ためらうのはなぜか」という言葉、そしてそれはいいことなのか、よくないことなのかという問いを、DANCE BOXで作品についてお話しするなかで投げかけていただきました。ためらうことは必ずしも悪いことではない。それは相手のことを考えての結果であることも多いと思うんです。でも、だからといって諦めたり放棄したりするのは違うと思っています。台湾にいたときとは違って、日本では友達と気軽に「次の選挙誰にする?」という話がなかなかできない。この一歩が出ないのはなぜなんだろう。今回の作品は、自分なりにその方法を探すようなことだと思っています。
横堀:横断歩道の話を聞いて考えたことを質問させてください。色んなルーツや考え方を持つ人が交差するなかで、その中に自分が飛び込むというイメージが浮かんだんですが、そのときの自分の振る舞い方はどうあろうとしていますか? というのも、私の夫はベトナム人なんですが、(個人の関係性のなかで)ベトナムと日本という国家の枠組みに振り回されたくないという思いがありながらも、大いに影響されるときもあります。日本ではマジョリティである日本人としての私と、マイノリティであるベトナムのアイデンティティを持つ夫という、非常に不均衡で非対称な関係のなかに日常があって、その中でどう振る舞うかってすごく難しいと考えていて。
橋本:難しいですよね。それを考えたいというのが、まさにこの作品における私の課題でもあります。どれだけコミュニケーションを取っても分かり合えない部分は互いにある。そのなかで、じゃあどっちが譲歩するのかとか、本当に難しいですね。でも自分の姿勢としては、あらゆる物事や人に対して偏った見方をするよりも、なるべく真ん中に立って、平等に対等に物事を見つめるということは、ひとつ大事にしたいなと思っています。
横堀:公演を楽しみにしています。ありがとうございました。

※本公演のチラシ
インタビュアー:横堀ふみ / 編集:野田容瑛
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国内ダンス留学@神戸11期 Newcomer/Showcase#2
橋本真那『In the Distance』
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振付・演出:橋本真那
出演:伊村千奈美、植田円、許東鈞
音楽:伊藤耕太
美術:Liisa
映像:洪孟承
写真:鄧璞
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公演概要
今年度のdBクリエーション・レジデンス・アーティスト、橋本真那による新作公演です。
台湾で学生時代を過ごし、日本とアジアの他国との重なりと隔たりを肌で感じた橋本が抱いた問い
――「なぜ私たちは語ることをためらうのか。」
単純化できない社会の状況の中で、自分はいまどこに立ち、何を発すればいいのか。
帰国後もその“行き場のない身体”は問い続けます。
公演情報:
国内ダンス留学@神戸11期Newcomer/Showcase#2 橋本真那 『In the Distance』
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【日程】2026年2月7日(土)19:00、2月8日(日)14:00
【会場】ArtTheater dB KOBE
【料金】
一般:3000円
割引:2000円(対象:長田区民、U25、学生、障がい者、介助者、65歳以上、丼クラブ会員)
中高生:1000円
小学生以下:無料
※当日券は、各200円増し
※未就学児の入場は、予約の際にお知らせください。
チケット購入:https://dbryugaku11ns1dra.peatix.com(Peatix)
【お問合せ】
NPO法人DANCE BOX
TEL:078-646-7044(平日10:00-17:00)
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主催:NPO法人DANCE BOX
企画・制作:NPO法人DANCE BOX
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会、
National Culture and Arts Foundation(財団法人国家文化芸術基金会)
協力:驫舞劇場
この記事に登場する人
橋本真那
2000年神奈川出身。国立台湾芸術大学表演芸術学部舞踊学科卒業。東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻在籍。他者を通じて自己を知ることを創作の軸に、主にコンテンポラリーダンスを用いたパフォーマンス作品の制作や交流プロジェクトの実施を行う。クマ財団8、9期生。急な坂スタジオサポートアーティスト。
2025年7月21日 時点
横堀ふみ
神戸・新長田在住。劇場Art Theater dB神戸が活動拠点。ダンス・プログラムを中心に、ほぼ全ての作品/企画を新長田での滞在制作によって実施する。同時に、世界の様々な地域をルーツとする多文化が混在する新長田にて、独自の国際プログラムを志向する。新長田アートマフィア仕掛人・構成員。日越の文化芸術交流を目指したユニット「VIAN」メンバー。京都市立芸術大学非常勤講師。ON-PAM(舞台芸術制作者オープンネットワーク)理事。
photo by Junpei Iwamoto



