イム チエ滞在制作 2024 から続く道: ソウルでのパフォーマンス&展示 レポート
イム チエ滞在制作 2024 から続く道:
ソウルでのパフォーマンス&展示 レポート
2024 年 10 月に、新長田をホームにして実施した「イム チエ滞在制作 2024」。
紆余曲折を経ながら、この春、ソウルに足跡を残すことになりました。
このプログラムの道のりを辿りながら、ソウルでのパフォーマンス&展示の模様をお伝えします。
始まりはコロナ渦中。
コロナ渦中の2020年、韓国を拠点に活動するインディペンデント・プロデューサーであるコ・ジュヨンさんがディレクションしたオンラインのトーク・プログラムに、ベルリン在住のイム チエさんが登壇、そこに趙恵美さんを紹介したことが始まりです。その時のテーマが「ディアスポラ」。このトークの中で共有した趙恵美さんの紹介映像はいまだに記憶に鮮やかです。暑い盛りのなか新長田駅前の噴水広場で遊ぶご子息、近くの市場のお姉さま方との会話、スタジオ・長田教坊でのコリアンダンスのレッスンの様子等が映し出されていきます。この街での“日常”と彼女の“舞”の活動が編み込まれていきます。
オンラインのトークは、〈新長田:ArtTheater dB KOBE〉と〈ベルリン〉と〈ソウル〉をつないで行われました。こちらでは、劇場ロビーにて趙恵美さんが登壇し、劇場の中ではライブ映像が投影されDANCE BOXスタッフや関係者の子どもたちが見守るという状況。すでに様々なハザマを行き来していた現場でした。

その後、イム チエさんはベルリンから韓国への一時帰国のあいだに新長田へ立ち寄られました。わずか数日間の滞在でしたが、趙恵美さん夫婦が運営する「スタジオ・長田教坊」で寝泊まりし、初めてはっぴーの家ろっけんに訪問した時はお葬式が行われ、他にもいろんな施設や場所を訪れたのでした。
「イム チエ新長田滞在制作2024」
その後、満を持してイム チエさんの新長田滞在制作がスタート。趙恵美さんがリサーチ・パートナーとなり、がっつりと協働した2024年10月2日~30日。

「朝鮮舞踊」を関心の起点に、在日コリアンの様々なコミュニティにおいて舞や文化がどのように継承されているのか、数々の現場に訪問し、関係者に会いインタビューを行う日々。高齢者向けのデイサービスにも赴き、エクササイズをナビゲートする機会も三度ほど。在日コリアンの高齢者が多く通うデイサービスでは、エクササイズから、ゆるやかに唄がはじまり、舞が伝播していった瞬間のなんと美しかったことか。
この滞在制作では作品などの形にせず、チエさんが見聞きしたことを共有するトーク・プログラムで滞在制作のラストをしめました。
「イム チエ滞在制作2024」の一年後
このプログラムは2024年の滞在制作で終わらず、ソウル市立西ソウル美術館から声がかかり、開館記念プログラムへの参加が決まりました。当初は2025年11月に実施される予定でした。また、10月中旬に「ウトロ・アートフェスティバル2025」への出演も決まっていたことから、再びイム チエさんは約3週間の新長田での滞在制作を行います。しかし、この滞在中に、ソウル市立西ソウル美術館から「開館時期を延期せざるを得ない状況になった」の報が入ります。一堂ひっくり返りましたが、延期の対応に追われていきます。イム チエさんも趙恵美さんも絶賛子育て中、それぞれの活動は、家族のスケジュールや体制と密接に連動していくのです。
滞在制作の最後に、ArtTheater dB KOBEにて、ウトロ・アートフェスティバルで上演された二人(チエさん&恵美さん)のパフォーマンスをワーク・イン・プログレスとして見せていただき、2025年の滞在制作は終了。

© Utoro Art Festival 2025, KIM Jiwoon_ Goethe-Institut Villa Kamogawa
ソウル市立西ソウル美術館開館記念公演|SeMA Performance Breathing
『바다를 사이에 두고 응시하는 섬들처럼|海をハザマにじっとみつめる島たちのように』
임지애 イム チエ(2026年4月3日~5日)
前段が長くなりましたが、いよいよソウルへ。
今回の会場であるソウル市立西美術館の立地は、もとアメリカ軍の基地があり、現在は大企業のロッテが運営する高層マンションが建ち並ぶ地域にあります。そこから徒歩5分ほどのところには中国からの朝鮮族のコミュニティが暮らす地域があり、活気ある市場の路地が長く続いていきます。

開館したばかりの美術館は、大きく3つの棟から成り、ガラス張りの空間が特徴的。美術館の中と外とが地続きになるような場づくりに、アート関係者や愛好家だけではなく、地域住民等にとっても身近な場所であってほしい美術館の狙いが見えてきます。

今回の取り組みでは、外の様子が全開で見えるガラス張りの空間を活かした形で、展示とパフォーマンスが構成されました。外の賑やかさに対して、中では静寂な時間が流れています。決して大きな声ではない肉声を、個人から個人へと宛てられた言葉を、現在と過去を行き来しながら、読むようにして聞いていきます。複数の人数が同じ場にいるけど、一人で、私個人で、それらと出会っていくような場の力が佇んでいます。
展示では、趙恵美さんとイム チエさんとの往復書簡、趙恵美さんの学生時代に使われていた舞踊ノート等が開かれています。

©Photography: Choi Hyungrak, Seo-Seoul Museum of Art
パフォーマンスは、ハングルと日本語による二人の語りから始まります。二人の舞踊歴、それぞれにとっての舞踊観、二人が共にいることで身体や舞踊が感覚したこと。二言語で語られる時間の流れは、人によっては長く感じるかもしれません。でも、その長さこそが肝で、観客も一つ以上のハザマを体感していくことにつながるのです。

©Photography: Choi Hyungrak, Seo-Seoul Museum of Art
暮らしも子育ても舞踊も困難も喜びもひっくるめて積み上げられた二人の無数の対話。それらは言葉によって舞踊によって重ねられ、「呼吸」へと行き着きます。そして、呼吸を起点に、二人はゆっくりと踊り始めるのです。

©Photography: Choi Hyungrak, Seo-Seoul Museum of Art
3日間のパフォーマンスは、作品の骨格は変わりませんが、毎回引き立ってくるシーンが変わりました。お客さんの様子、中から見える外の風景、天気や気温等とも呼応するかのように、様々な思いや感情を重ね合わせていきました。
私は舞や歌や音が支えてきたものに思いを馳せました。暮らしや人と人とのつながり、記憶、言葉に尽くせぬもの。人と人とが介して、舞や歌や音をつむいで、伝え共有してきたのでしょう。しかし、渡り鳥のように舞や歌や音が人のなかを移り飛び、人々の暮らしを支えてきた、主語が逆転したような感覚を抱きました。
冒頭の語りにある言葉「一つ以上の都市、一つ以上の言語、一つ以上のリズム、一つ以上の感覚…」。いくつもあるハザマが混ざり合っていく中で、それらを分類していくのではなく、それらの根っこにあることを、観客も共に身体を通して探っていく、そのような時間でした。

©Photography: Choi Hyungrak, Seo-Seoul Museum of Art
最後に余談です。全ての公演が終了した後に、噂でずっと気になっていた「コーラテッ|Colatec」と呼ばれる韓国のディスコへ行きました。高齢者の方々が通われる踊り場です。私たちが訪問したのは、美術館から地下鉄で20分ぐらいのところ。衝撃的すぎました。そこでは社交ダンスが軸となっていました。日本と同様に高齢化が進む韓国にて、高齢者の多い地域にはあるらしく、場所によって特色がありそうです。新長田で展開できれば面白いかもしれないと思い行ってみましたが、もうちょっと時間がかかるかも。どんな場所であったかは、DANCE BOXにいらした時に聞いてください!!

アーティスト:イム チエ、趙恵美
プロデューサー:コ・ジュヨン、横堀ふみ
主催:ソウル市立西ソウル美術館
共同制作:NPO法人DANCE BOX
フライトグラント:公益財団法人セゾン文化財団
この記事に登場する人
趙恵美
コリアンダンサー/コリアンパーカッショニスト 9歳から舞踊を始め、日本、韓国で様々な舞台に出演。 現在はコリアンダンサーとして、朝鮮と韓国舞踊に軸を置き創作活動を行う。 韓国伝統打楽器奏者としても音楽講師を務める。 舞の旅プロジェクトでは、国籍を外した本当の自分を追求し、舞を通してあるがままの自分を正直に表現する。
2024年5月27日 時点
イム チエ
イム チエはベルリンとソウルを拠点に活動する振付家/ダンサー。ソウルで韓国の伝統舞踊を学び、ベルリン芸術大学にてソロ/ダンス/オーサーシップの修士号を取得。長年にわたり、コンテンポラリーダンスと伝統舞踊という2つの言語の間で、独特の振付を実践してきた。
彼女の芸術的な関心は、身体を動くアーカイブとして捉えることです。つまり、伝統と現代性、個人の思い出と文化的な記憶、移動性とホームとの関係における文化的な経験と記憶の担い手としての身体を観察することにあります。彼女の作品の原動力は、彼女自身の移民経験にあり、彼女はそれをダンスで身体的に反映させています。
彼女は2024年のピナ・バウシュ・フェローシップを受賞し、ドイツのtanz Magazineで2014年にHoffnungsträgerin(有望なアーティスト)に、韓国のGaeksuk Magazineで2015年にYoung Leading Artistに選ばれた。
写真:Olivia Kowk
2024年10月8日 時点


