RRAレポート 山瀬茉莉

劇場〈ArtTheater dB KOBE〉を拠点に、自身の表現探求や身体の鍛錬のためのリサーチやダンストレーニングなどを行う『dBリサーチ・レジデンス・アーティスト』。2025年度は4月〜6月の約3か月間に16組のアーティストが滞在します。
今回は、6月13日〜6月19日にかけて滞在した山瀬茉莉さんの滞在記録を公開します。
山瀬茉莉
【滞在期間:6月13日(金)〜19日(木)】
6月13日
・新長田到着・打ち合わせ
・ベトナム料理を食べる
・バイソン※1 に行く
6月14日
・新長田の郷土料理、ぼっかけそばめしを食べる
・ベトナム旅行のまとめとスコアづくり
・神戸で異国料理を食べる
6月15日
・写真撮影
・点と線とチューブのボディーワーク
・読書会
・神戸散策
6月16日
・ゆる体操
・ボディワークの共有
・リミナルを探すための散策 @丸五市場付近
・Shifting Cray Work @港
6月17日
・神戸散策(食べ物と香り)
・Shifting Work @港
6月18日
・読書会
・Drawing Dance Session
・Drawing Dance Sessionの振り返り
6月19日
・ゆる体操
・ムーブメントリサーチとムーブメントメソッドの言語化
・まとめ&レジデンス振り返り
※1 工務店である西村組が、神戸の空き家を改修して作ったアーティストのための集落。リサーチパートナーの前川友萌香が住んでいる。
リサーチ7日目。ムーブメントリサーチの様子。
Q1 レジデンスの目的を教えてください
大学在学中に唯一3人でしたのが、卒業旅行でベトナムに行ったことだった。
そのベトナムで経験し感じた「うつろい・リミナル」を元に、ダンスならざるものを発端にどのようなプロセスを経てダンスが生成されていくのかを実験してみたかったから。
新長田はリミナルな場所が多く、下町だからこその余白が多い地域だからこそ、ベトナムに通じるところもある気がして今回レジデンスしようと思った。(山瀬)
(山瀬)茉莉が唱えているダンススコアの可能性を一緒に模索できる期間に立ち会いたかったから。共通言語を習得できたらいいなと思った。
また、動きのエネルギーが茉莉とはだいぶ異なっていると自覚しているが、それでもダンサーとして彼女と関われるのか知りたかった。(前川)
山瀬が取り組んでいるダンススコアを元にダンスを生成していることに関心があったから。
スコアとダンス、スコアと作品の距離を自分の中で近づけたかったから。
3人で何かをつくること自体が初めてで、3人でチームクリエーションできるのか知りたかったから。(松村)
リサーチ2日目。ベトナム旅行のスコア作りの様子。
Q2 どのようなリサーチや実験を行いましたか?
今回のレジデンスでは明確な何かに絞って針穴を突くようにリサーチを行うというよりかは、様々な媒体や手法を用いてダンスを手繰り寄せるような感覚でリサーチを行った。何かカタチにしてまとめるというよりかは、とにかく実験していく感じで行い、リサーチを通して雑多だったワークが一つの線になって腑に落ちていった。
大きく分けて5つのことを行いました。
・ベトナム旅行の言語化とスコア作成
・リミナルな場所を探しに新長田を散策する
・夕陽が沈んでいくうつろいのある時間帯に、粘土や身体にうつろいを記録させる
・5mほどのロール紙にタスクを設け、タスクを遂行しながら即興的にドローイングをしていき、紙面上でトリオをしていく。
・ボディーワークの共有と言語化・ムーブメントリサーチ
リサーチ4日目。Shifting Crey Workで作った日記代わりの粘土。
Q3 印象的な瞬間(エピソード)があれば教えてください。
新長田の持つ地域性なのかもしれないが、新長田にはグルメがいっぱいあるせいか、レジデンス中はしこたま呑んで、色んな料理をたらふく食べた。3人で全部の生活を共にして、生活が生々しく感じられたのが印象的。喧嘩もしてとても濃密だった。濃密だったからこそクリエーションのコンセプトの真髄に近づけた気がする。(松村)
Shifting Crey Workが一番印象的。港に座って話しながら、夕陽が沈む前から日没までの間、今日感じたこととか感覚とかを粘土でカタチにしていく時間がとても良かった。
あとshifting workの3人の終わり方。 私たちは同じ大学で4年間を過ごしてきたけど、振り返ってみたら意外と3人で都市に出かけたりご飯を食べたり長く喋ったりしたことがないことに気づきあっていた。お互いに思っていたけど伝えれていなかったことを答え合わせするかのようにお互いをスキャンする日々。shifting workの時間は妙に3人の差異が出現していてそこも面白かった。(前川)
身体にうつろいを記録したShifting Work、日が暮れてから探し求めていた灯台を見ることができた時、Drawing Dance Session、カフェバーサカヅキで呑んだ香水のようなレモンサワーの4つが印象に残っている。
ほとんどのリサーチを外でやっていたからこそ、Drawing Dance Sessionの時に、劇場という世界と切り離されているような閉ざされている空間で自分と他の2人、紙、ペンにノイズなく向き合えたのが非常に良かった。
人生で一番美味しいお酒に出会ってしまった。レモンサワーの革命。(山瀬)
リサーチ4日目。Shifting Crey Workで作った日記代わりの粘土。
Q4 今回のリサーチで収穫はありましたか?
最近私自身(山瀬)アートの環境に身を置きながら作品を作っていることもあって、より一層パフォーミングアーツの良さに気付かされた。他者と共に作品を作るからこそ一人では辿り着けないようなところまで深められるなと実感した。また他者と身体をメディアにした作品を作っていくことの意味や重要性も分かった気がする。そして今回のリサーチで、私自身は身体の捉え方や踊りを生み出すためのボディワークのようなまだ感覚的で未完成なものを、2人のおかげで納得するまで言語化することができたし、2人はボディーメンテナンスのスタイルや身体の捉え方を受け取ることができたようだ。今回のリサーチを通して、雑多でバラバラにやってきたものが一つの線としてまとまり、やっと霧の中に僅かな光を灯すことができたように感じる。
リサーチ6日目。Drawing Dance Sessionの全貌。
リサーチ6日目。Drawing Dance Sessionの1番最後の様子。身体がドローイングに介入した。
Q5 dBスタッフ鈴木と撮影した写真について / 撮影場所を決めた理由は?
「駒ヶ林公園」
撮影場所を駒ヶ林公園にした理由は、初日の夜にみんなで遊んだから。
撮影の時期がレジデンスの前半だったこともあって、ここが一番嘘がないなと、着飾らなくていける場所はここしかないとみんなで選んだ。
撮影がもっと後だったら、間違いなく新長田の町が見渡せる方の港にすると思う。
リサーチ3日目。撮影の後に妙に気になった電柱
Q6 今後の展望を教えてください。
次の集合場所は取手で!
リサーチパートナー(敬称略)
リサーチパートナー&ダンサー:
前川友萌香
松村寿々乃
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会