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矢﨑悠悟、北村成美の魅力について大谷燠が語る「長年活躍するダンサーの魅力と心得」

コンテンポラリーダンスに限らず、表現の世界で長年活躍することは”サバイバル”そのもの。ダンスのテクニックは言うまでもなく、好奇心、思考力、アーティストとしての哲学、舞台に立ち続ける覚悟など、生き抜くために必要なものは枚挙に暇がない。

DANCE BOXでは、2022年1月7日(金)、8日(土)に矢﨑悠悟×北村成美「リバイバル・リバイバル・サバイバル」を上演する。本公演の元となったのは、2010年、2012年にArtTheater dB KOBEにて上演した「Revival/ヤザキタケシ」、「Revaival/北村成美」である。このシリーズでは、振付家の初期の代表作と、中期の作品、新作の3演目を、世代や性別、バックグラウンドの異なるダンサーと振付家本人が踊った。これらの作品で、ダンス作品を踊り継いでいくことは可能か、また、時代の空気を含んだ作品を、今の時代に新たに再生することが試された。その舞台を10年ぶりに立ち上げる。

新年の幕開けにふさわしい、これからの時代を生きるすべての人に愛と勇気を送るステージ。関西のコンテンポラリーダンスシーンを牽引してきた二人のアーティストの、その人生をもサバイブしてきた生き様を魅せる場となるだろう。そこには、長く活躍するダンサーのヒントも隠れているのではないだろうか。DANCE BOX代表であり、二人の活動を近くで見てきた大谷燠が二人の魅力と、ダンスの世界でサバイブすることについて語った。

名作には再演を。ダンス作品を受け継ぐこと。

 

───10年前のダンス公演「Revival(以下、リバイバル)」シリーズはどのように生まれたのですか?

DANCE BOXが大阪でスタートしたのは1996年で、数多くのアーティストがそこで作品を発表していました。その中で名作と呼ばれる作品があって、それが『不条理の天使』であり、『i.d』でした。でも、せっかく作品を披露しても1回きりで終わってしまうことが多くて。良い作品は再演すべきだし、次の世代へ伝えていくことが大切。ただ、そのまま再演するのではなく、性別や世代の違うダンサーの身体を通して作品がどう成立するか見てみたいと思い「リバイバル」を企画しました。ヤザキ作品では森山未來さん、北村作品だと故黒沢美香さんも踊りましたね。ダンサーが違っても、作品として自立していてある種普遍性のある、作品の持っている世界観が出てきた一方で、別のダンサーが踊るとまた違った魅力が浮き上がる部分もあり、作品を違う角度から楽しめる公演でしたね。

(「Revival」・・・(1)(人の)生き返り (2)(伝統などの)復活、復興 (3)(劇の)再上演 (4)(元気などの)回復 (英和辞典「The ANCHOR」より)


写真:当時のフライヤー

 

───その頃のコンテンポラリーダンスのシーンはどのようでしたか?

非常に盛り上がっていた頃かな。ある意味今よりも活性化していたように思います。劇場などの場所があるから公演をするんじゃなくて、ダンサーにも共同体意識があるというか。踊る場所やダンスのシーンも自分たちでつくって行こう、という意識を強く持っていましたね。

 

色気とユーモア、愛嬌と真っ直ぐさを武器に踊る

 

―それぞれの作品を初めて見たときの印象を教えてください

まず『不条理の天使』を初めて見たのは伊丹のアイホールで上演された『GUYS』(1995)という公演でした。本当にエロスがありましたね。矢崎が踊ると、客席から黄色い歓声が飛んだ。それだけ魅力のある、色気のあるダンサーです。舞踏以外の作品で初めて「こんなダンスをやる人がいるんだ!」と感動した体験でした。

「そこまでやるか!」という凄みや、そう感じさせる身体の投げ出し方を初めて目の当たりにしたダンスが、北村成美(以下、しげやん)の『i.d.』です。しげやんはね、とにかく全力投球するアーティストで。とにかく作品に対して身体をぶつけていくということがすごくクリアにある人です。

矢﨑は客観的に自分のダンスが見れる人だと思うんですね。自分のやりたいことをやるだけではなくて、それがどう見えるのかっていうことも考えて作品を作っていると思います。

ソロ作品というのは、ダンサー以外にも照明や音楽の他の要素がある中で、その空間をどういう風に自分の味方につけて、自分だけではない空間を引き連れて提供できるかということが大事だと思います。空間の成り立たせ方として矢崎がユーモアの人だとしたら、しげやんは愛嬌。とにかく身体を動かして空間そのものを埋め尽くすんです。とにかく前に出てきて正面をきる。そこから愛嬌が生まれてくるんですよね。

 

───それぞれの作品を交換することにどのようなことを期待しますか

例えば『不条理の天使』の中にある男性である矢﨑のエロスを、女性のしげやんからどう立ち上がってくるかに期待しますし、『i.d.』の方は、矢﨑が倒れないかなと(笑)。体力勝負の作品なので。

 

長く愛されるダンサーの”おもてなし”

 

───大谷さんは、長年活躍するダンサーとはどんな人だと思いますか?

まずは踊りを続けるという意志がとても大切。そして、日常生活の中でも踊る意志が継続していること。90代まで踊り続けていた大野一雄さんは、ちょっとしたきっかけでもダンスの妄想が広がる人でした。想像力を超えた「妄想力」は作品をつくり続ける種になるなと思います。

あとは、踊り続けられる環境というのは、自分一人で作り出せるものじゃなくて、周りの人たちがいて初めてできてくると思うんですね。だからこそ、それだけの魅力を持っていないと、支え続けてもらうことがとても難しい。大野さんも、家族の支えがあり踊り続けていらっしゃいましたし、大野さん自身も周りの人をとても大切にする人でした。おもてなしの感覚が大切ですね。大野さんの稽古場に行くと、まずは横浜を案内してくださって、料理もどんどん振る舞ってくださってとにかくもてなされた。大野さんをはじめ、ご家族もそういった精神性のある方達でした。

そういう意味で言うと、二人もおもてなしの感覚の強いダンサーだと思います。観にきてくれたお客さんたちに、「自分たちが何を見せることができるのか」を考えて踊る人たちです。コンテンポラリーダンスって、初めて見たときは「難しくてわからない」と感じる人も多いと思うのですが、二人の作品では「訳がわからず帰る」ことはおそらくないと思います。だからと言って作品そのものが簡単な訳ではないんですけどね。そこまで考える二人の力量です。だからこそ今回の公演は、コンテンポラリーダンスを見たことのない人にもぜひ見て欲しいと思います。

 

聞き手・文:髙木晴香

この記事に登場する人

大谷燠

1996年に大阪でDANCE BOXを立ち上げ、多数のコンテンポラリーダンスの公演、ワークショップをプロデュース。2009年より神戸・新長田に拠点を移し、小劇場「ArtTheater dB 神戸」を運営。公演事業のみならず、「国内ダンス留学@神戸」をはじめ、若手アーティストの育成、子どもの豊かな感性を育てるプログラム、国内外のアーティスト・イン・レジデンス事業、地域と連携した事業を展開。ダンスの持つ力を通して、多様な人が共生する社会に向けて新たなビジョンを切り拓くアートプログラムを行っている。
これまでに、国際交流基金 地球市民賞、神戸市文化奨励賞、神戸長田文化賞、KOBE ART AWARDのほか、文化庁長官表彰、芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)、神戸市地域活動賞 受賞。
2017年より神戸アートビレッジセンター館長。(※2023年4月より「新開地アートひろば」に名称変更)

(photo by Junpei Iwamoto)

2023年4月17日 時点

矢﨑悠悟

寅年3月生まれ 四国出身 1981年俳優養成所入所 演劇、ダンスを始める。

俳優として劇団ミュージカルアカデミーに所属、数々の公演に出演。劇団パノラマアワー、おやこ劇場や学校公演に出演。1989年ニューヨーク、アルビンエイリーダンススクールへ留学。1998年バニョレ国際振付賞にノミネートされる。以降ダンサーとして、コレオグラファーとして自身の作品が数々の国際ダンスフェスティバル、アートフェス(パリ、リヨン、アビニョン、マルセイユ、ニューヨークなど他多数)に招請され公演する。2010年以降現代のリアル忍者を目指し、風に舞う木の葉の様に水に遊ぶ魚の様に踊る事を修行中。元大阪体育大学、近畿大学、立命館大学、京都造形芸術大学、非常勤講師。

直筆に「段々ダンス」があり絶賛発売中である。

2023年4月18日 時点

北村成美

通称、なにわのコリオグラファーしげやん。6歳よりバレエを始め、1992年英国ラバンセンターにて振付を学ぶ。「生きる喜びと痛みを謳歌するたくましいダンス」をモットーに国内外でソロダンス作品を上演するほか、日本各地で市民参加による大型コミュニティダンス作品を発表。小・中・高校・特別支援学校・福祉施設、ショッピングモール、ご家庭の居間、廃屋、電車、海、山、いつでもどこでもどなたとでも踊ることをライフワークとしている。演劇・ミュージカル・バレエ・ダンス作品の振付演出、音楽家や美術家との共同製作、CM振付や映像作品など数多く取り組む。2004年より障がいのある人とない人が共に踊り舞台をつくる「湖南ダンスカンパニー」においてディレクターを歴任。平成15年度大阪舞台芸術新人賞、平成22年度滋賀県文化奨励賞を受賞。一般財団法人地域創造ダンス活性化支援事業登録アーティスト。

2023年5月3日 時点

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