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北村成美×紅玉
『子どもダンス留学@神戸2021』対談

8月23日より、「子どもダンス留学@神戸2021」がスタートしました。3回目となる今回は、小学生を対象としたジュニアコースと、中高生を対象としたユースコースの2コースに分けて実施します。今回は、ジュニアコースのコンテンポラリーダンス作品の振付を担当した北村成美さん、ユースコースの舞踏作品の振付を担当した紅玉さんに、1日目終了後、お二人でお話しいただきました。

生身の身体が持つエネルギーと、存在の尊さ

―初日を終えてみてどうでしたか

紅玉:今までこの年代に振付したことがないですし、やはり難しいですね。彼らを見ていて気がついたのは、やっぱり身体が硬いこと。素早く動くことはできるけど、スーッと脱力することがとっても苦手。この期間に、ただ歩くのではなく歩かされることや、動かされる身体のありようを手に入れて欲しいですね。今日やったのは、アリス・リデルの写真や、ルノワール、ムンクの絵や鳥獣戯画を見せて、それを身体にうつして、短く繋いでいくっていうものだったんですが…いいんですよ、これが。特にアリス・リデルやルノワールをやったときに、彼女たちの年代にしか出せない表情が現れて。

北村:コロナ禍になって、公演が中止になり憂き目に遭う中で、学校で子どもたちと踊る機会があったんです。そのときに、子どもたちの身体から生きている熱のようなものを感じて。人って、こういうエネルギーを求めてるんだなと感じたんです。その中で、「子どもダンス留学@神戸2021」のお話をいただいて、絶対やる!と。長田に集まる子どもたちと何がしたいのか、何ができるのか考えてみると、コロナ以前から各地の子どもたちと戦争をテーマにつくってきた「くるみ割り風人形と二十日ぐらいねずみの大運動会☆キャー!!」が思い浮かんで。今の時代を生きる子どもたちの身体に対峙して、これを新しくつくりたいと思ったんです。今日、初めて子どもたちと会って、どうやってクリエーションを始めようかなと色々と考えていたんですが、始まると、自分の本能と感性のままに踊り出すしかなかったですね(笑)

紅玉:いつものこっちゃ(笑)

北村:それに対して子どもたちも「ワーッ!」と集まってくれて。そうこうしている間にダンスが立ち上がっていったんです。時代がどう変わっても、どんな制約があっても、止められない身体や感性がやっぱりあるなって。じゃあ、この制限下でどれだけ私たちの世界がつくれるのかが、今回のクリエーションの肝になるのかなと思いました。

紅玉:いいですね。生の舞台で見せる機会はかなり減っていて、オンラインでもできるけど、やっぱり物足りない。生身の身体がそこにあるだけである意味豪華じゃないですか。そういう存在の尊さが誰にでもあって。それぞれの尊さを、ダンスや舞台芸術は引き出せる可能性があるなと。

それぞれの年代が持つ魅力とダンス

―子どもたちは、ダンスの経験があっても、自分から出てくる動きを体験することはあまりなかったのかなと思います。そんな子どもたちだからこその魅力って何なんでしょうか。

北村:私の振付する作品は、もともとストーリーがちゃんとあるんですけど、私が決めた通りに動くんじゃなくて、「自分はどうやってた?」というところから始めます。身支度をするシーンの時は、「みんなは靴下を立ったまま履く?座って履く?家で確認してきて。」と。最終的にはそれが人それぞれの振付になっていくんです。みんなに同じ振付をするんですけど、同じ動きである必要はなくて。その人でいて欲しいと思うから。だから、普段どうしてる?がすごく重要。そこから自分の身体や、人の動きに興味を持って欲しいなと思っています。

クリエーション中、動きを何回か繰り返していくうちに、どんどん自分で開発していくんです。作中に射的のシーンがあって、全員がそれぞれ何の景品になるか決めて、形を決めるんですが、「コアラのマーチ」になろうとした子がいて。でも、足の形がしっくりこない。「私だったらこうする」とは絶対に言わずに、毎回足の形を変えてとお願いして、何回も何回もポーズしていくと、「それや!!」っていうのが出たんです。そういう素直な身体に立ち会うと、私自身も振付ってこうだなと発見があります。ジュニアコースの年代は素直ですね。反対にユースコースの年代は、すぐには出てこなかったりしますよね。

紅玉:今日やってみて、表現することへの恥じらいはまだあるんですけど、それも含めてちゃんと表現になっている。ええ塩梅やったなあ。その曖昧なトーンが美しかったんです。あの年代にしか出せないものがやっぱりある。それはジュニアにもあって。それをストレートに表現できるのがダンスなのかもしれないと思います。

身体の中に宇宙がある

―このプログラム全体を通じて、子どもたちに体感して欲しいことや、得て欲しいことはありますか

紅玉:普段自分が生活している中で、何か見えないものが見えてくるような、例えば美しいものや愛情、その反対も含めて、それらを表現することで何か獲得して欲しいなと思います。決められたことをやって、よくできましたと褒められるのとは違う感動を持ち帰って欲しいなと思っています。

北村:そうですね。今の時代、ほとんどのことがインターネットの世界にあって、今見ているものが本当に起こったことなのか、作られたものなのか、即座にわからない状況です。実体のない見えない敵を恐れて、人を傷つけたり憎んだりしてしまう。そういう時代だからこそ、自分の身体こそが真実で、身体こそが自分を助けてくれる。私たちはそんな大事な身体を一生持ち続けているんだという感覚をぜひ持ち帰って欲しいです。世の中がどんどん複雑になっていけばいくほど、やっぱり信じられるのは自分の身体と相手の身体ということ。

紅玉:昔ね、大野一雄さんが「身体の中に宇宙がある。そのことがわからないから戦争をする」とおっしゃっていましたね。

北村:まさしくそうですね。そのことがわかっていたら、相手のことを簡単に傷つけたりできないはず。見えない敵と立ち向かうことを考えた時、自分の身体を使って懸けるものがある人は強くいられると思うんです。私はダンスでそれをやっている。そういう人をもっと増やしたいと思っていますし、そのことを目一杯伝えていけたらと思っています。


子どもたちは、この5日間を通してどんなものを得られるのでしょうか。北村さんのクリエーション中「ダンスをやっていたら、人を憎んだりする暇ないよ」と言っていたことに多くの子どもたちがうなずいていて、身体の中の宇宙の片鱗を掴み始めた様子でした。いよいよ明日は成果公演が待っています。子どもたちの成長と、今の彼らにしかない魅力をお見逃しなく!

この記事に登場する人

紅玉

大阪生まれ。1972年土方巽の舞踏に出会って以来、独自に舞踏を研究し始め、74年より北方舞踏派の設立に参加。 舞踏手として山形・北海道を拠点に活動。2000年、演出・振付家として「千日前青空ダンス倶楽部」を結成。 代表作「夏の器」「水の底」は国内外で多数上演。2005年、大阪市咲くやこの花賞受賞。動くのではなく、動かされる身体に着目。形にならない至らない気配から、踊り手の存在、美しさを引き出す。踊りの根源を見据えつつ、同時代におけるダンスの可能性を探求している。

2023年4月10日 時点

北村成美

通称、なにわのコリオグラファーしげやん。6歳よりバレエを始め、1992年英国ラバンセンターにて振付を学ぶ。「生きる喜びと痛みを謳歌するたくましいダンス」をモットーに国内外でソロダンス作品を上演するほか、日本各地で市民参加による大型コミュニティダンス作品を発表。小・中・高校・特別支援学校・福祉施設、ショッピングモール、ご家庭の居間、廃屋、電車、海、山、いつでもどこでもどなたとでも踊ることをライフワークとしている。演劇・ミュージカル・バレエ・ダンス作品の振付演出、音楽家や美術家との共同製作、CM振付や映像作品など数多く取り組む。2004年より障がいのある人とない人が共に踊り舞台をつくる「湖南ダンスカンパニー」においてディレクターを歴任。平成15年度大阪舞台芸術新人賞、平成22年度滋賀県文化奨励賞を受賞。一般財団法人地域創造ダンス活性化支援事業登録アーティスト。

2023年5月3日 時点

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