振付家インタビュー#2 モノクロームサーカス 坂本公成さん、森裕子さん
「Newcomer/Showcase#2」では、モノクロームサーカスの代表作『怪物』と『きざはし』を上演します。これまで多くのダンサーによって踊り継がれてきた両作品に、今回は8期生とdBアソシエイト・ダンサーが挑みます。選抜メンバーを決めるための濃密な1週間を過ごしたリハーサル5日目の夜、振付の坂本公成さん、森裕子さんのお二人にお話を伺いました。
(トップ画像:岩本順平)
───今回の作品『怪物』と『きざはし』はどのような経緯で生まれた作品ですか?
坂本:いずれも2006年の作品ですが、当時は『Refined Colors』という作品でワールドツアーをしていた時期でもありました。その時の心境として、フルレングスの大きな作品だけでなく作家が作りたい長さ、作品が必要とする長さで、好きな大きさの作品も作りたいと思っていたこともあり、「掌編ダンス集」というシリーズを2005年から作り始め、『怪物』はシリーズの第2作目、『きざはし』は第4作目に当たります。
『怪物』は、カンパニーに佐伯有香というニュートラルでアライメントの美しいダンサーがいて、彼女をどう化けさせることができるか、その大化けする様を見たいという思いから始まった作品です。
『きざはし』は、机を使った男女のデュオですが、その前の同じく机を使った作品『水の家』では、男女2名が机の上で踊り、絶対に降りないという制約がありました。『きざはし』では、机の上に女性、下に男性を配置して、いずれも降りること出ることができないという制約を課した中で、どんなコミュニケーションができるか、どのような現象が生まれるかを見たくて作品を作りました。
───同じ振付をいろんなダンサーが踊っていくなかで、作品に対して新たな発見などはありましたか?
坂本:今回のNewcomer/Showcaseで踊ってもらうのが、『怪物』が8人目、『きざはし』が5組目になります。リハーサルをしていると改めて思いますが、作品にとって何が本質で何が枝葉なのかを、毎回直面して問われるような感じがしています。作品として達成してほしい部分や、それぞれのダンサーの個性として残しておいていい部分と、反対に削いだ方がいいという部分もあり、そういうことをダンサーが変わるたびに再発見している感じがします。それを経ることで、作品の本質に対する理解が自分の中でも深まっていくので、作品の強度もその度に増していると思います。
森:『怪物』も『きざはし』も、今回のようにダンサー8人で一斉にトライするというのは初めてです。この部分はこの人が面白いけど、ここはこの人の方が面白いなというように、大勢でやっているからこそより見えやすく、影響を受け取りやすい。だから今回の進め方は新鮮ですね。
───『怪物』は当初、佐伯有香さんの内側を外に出したいというところから始まったとのことですが、その出てくるものはダンサーによってそれぞれ違うかと思います。ダンサーのどういう部分が見えた時に、「怪物が出てきた」と思いますか?
坂本:例えば、即興のときに止まることってすごく難しいんですよね。思わぬところでふっと止まられると「やられた」と思います。あとは、思わぬ解釈が投入されてくると、体の中に真空が生じたように感じる瞬間があって、思わず中に引き込まれそうになります。即興をしながら次はこのツールを使おうと考えてやっている段階では面白くないんです。考えていなかったことでも、体が反応してしまうように、自分自身も驚きながら踊っている状態が 8 分間持続すると、見る側も踊らされるというか、体が共振するような現象が起こることがあります。多分、自分を裏切りながら踊る瞬間というのに引き込まれるのだと思います。しかしこれは相当踊り込まないと出てこないですけどね。
───ダンサーに振付を渡す時に大切にされていることは何でしょうか?
森:与えられた振付を、その人から生まれたかのような動きにして舞台に立ってほしい。決して誰かの真似をするということではなく、振付という 1 つのツールの中をくぐり抜けながら作品のなかでいきいきと生きていてほしいという思いがあります。
───自分がその作品の中で生きるための方法について、もう一歩踏み込んでダンサーに声をかけるとしたらなんでしょうか?
坂本:僕たちもありとあらゆる情報をダンサーに与えようしています。例えば『怪物』では、4, 5人の画家の作品を引用したり、各シーンの背景にサブコンテクストがあるので、そういう情報も解釈して噛み砕いてもらいたいです。それと、音楽も大きなインスピレーションを与えてくれるので、グルーヴを受け止めて音楽を乗りこなすということも舞台上で生きるための手がかりになると思います。また、どのような空間にどの角度でどこを向いて立つかを意識してほしいです。実際に舞台で踊っていると、照明や観客の顔が見えたりします。空間や振付そのもの、そこに盛り込まれている思想、コンセプト、ディテールの解釈、音楽性、あらゆるものを総動員して利用してほしいです。ダンサー自身も、その人なりのオリジナリティーを持ち込んでくれればいいですね。たとえば『きざはし』だと机の角(エッジ)に足を揃えて立って踊る「灯台」と呼んでいるシーンがあります。そこからどんな景色が見えるのか、それぞれが自分のリアリティを持ってエッジに立ってほしいです。
───今回参加している8期生と、アソシエイト・ダンサーの印象を教えていただけますか?
>坂本:第一印象は、やはりダンスに対してすごく熱心で情熱的な人たちが集まっていると思いました。リハーサルをしていても、静かな野心と情熱をふつふつと燃やしているのが感じられます。貪欲なのもいいと思う。ダンサーとして大切なのは、与えられた情報や振付をまずは一度受け入れることができる素直さと、貪欲であるということで、そういう条件は全部満たしている人たちだと思います。
森:私はずっとカンパニーのレッスンを牽引してきたのですが、最近は公成さんと2人でしかレッスンをしてなくて、久しぶりにたくさんの人たちとできてすごく嬉しいです。エネルギーが全然違う。
坂本:朝のレッスンだけ取っても、1ヶ月という時間を過ごせばその精度も上がっていくし、そうすると最終的に立ち上げられるものがまったく違ってくると思います。
森:ダンサーたちが、少なくともこの 8 ヶ月は絶対これに懸けるという覚悟が決まっているというのは、とても重要なことだと思います。そういう人たちと仕事ができるのは幸せなこと。1人1人の経験値が違うので、これからどのようなことをすればそれぞれの役に立つのかということも含めて考えていきたいと思っています。
坂本:8期生のいいキャッチコピーを思いついた!「覚悟に裏打ちされた素直さ」。これは最強の武器じゃないですか!
一同:おおー。
森:今の私の傾向として、ダンサーの個性ばかりを引き出すことはしません。個性は自然と出てくるものなので、その人自身が出やすい身体を作りたいと思っています。まっさらに「白くなれる身体」というのかもしれない。毎回新鮮に感じられることというのは、実はシンプルで難しいことでもあると思います。どうしても自分が持っているものに守られたいと思うので、もう一度白くなれるかどうか。たとえキャリアがあったとしても、白くなろうという意志を今回のダンサーそれぞれに感じています。
──最後に、作品の見どころを教えてください。
坂本:『怪物』の冒頭の8分間は、踊りとしては1分で踊れてしまうんです。そこに様々なフィルターがかかり、ダンサーがそれを本能的に取捨選択しつつ、8分かけて即興的に踊る。ジャズプレイヤーのように技量が試されると言うことです。プレイヤーとしての力量とダンサーの化けっぷりを見てほしいです。
『きざはし』は、作品の中を生きるということ、ただそこに存在するということに集中する作品なので、そういう意味では『怪物』よりもっとジワっと見る作品なのかもしれない。2人の間に机があり、さらに250本ものナイフが 机の上に置いてある。障害物によって関係が一旦分断されている中で、どのようなコミュニケーションが 2人の間で起こるかということに注目してほしいです。
森:日々ダンサーたちの変容を楽しみにしています。毎日変われるのだから、羨ましい!
振付をとおして様々な情報を全身でキャッチし、解釈し、アップデートし続けるクリエーション期間。各作品の出演者も決定し、リハーサルは次の段階へ向けて動き出しています。8期生とアソシエイト・ダンサーの「今」の踊りを、上演にてぜひ目撃してください!
この記事に登場する人
Monochrome Circus(坂本公成+森裕子)
拠点、京都。90年代後半「ダンスの出前」で有名な『収穫祭』シリーズでワールド・デビュー、海外、国内で300回を超える上演を行う。リヨン・ビエンナーレ(仏)、ベイツ・ダンス・フェスティバル(USA)、SI Dance Festival(韓国)、Full Moon Dance Festival(フィンランド)、フェスティバル・ドートンヌ(仏)、瀬戸内国際芸術祭、混浴温泉世界、鳥の芸術祭など国内外で活躍。藤本隆行氏(dumb type)、真鍋大度氏(Rhizomatix)やgrafなどとのコラボレーション作品や、’05年から開始した『掌編ダンス集』という大小の作品群を持つ。2023年度は詩人の和合亮一氏とのコラボレーションや、結成33周年記念公演に取り組む予定。
2023年4月6日 時点