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振付家インタビュー #1 寺田みさこさん、佐藤健大郎さん

国内ダンス留学@神戸8期生のプログラム「Newcomer/Showcase#1」では、寺田みさこさん振付・演出の『Fugue dB version』を上演します。

J・S・バッハの「フーガの技法」コントラプンクトゥス第1番に合わせた約3分半の振付に、数年にわたって取り組んでおられる寺田さん。今回はその振付に8期生とdBアソシエイト・ダンサーが挑み、ダンスボックス・バージョンとして作品を展開します。5日目のリハーサル後に、寺田みさこさん、アシスタントの佐藤健大郎さんにお話を伺いました。

(トップ画像:岩本順平)

───今回の作品『フーガ』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

 

寺田:京都でリリーステクニックなどのモダンダンスのクラスを教えていたときに、コンビネーションの振付としてつくったのが始まりです。それまではドラムの音やリズムに合わせたコンビネーションを考えていたのですが、本当に自分が面白いと思う振り付けだけをやってみたくなり作りました。実は初めは全然別の曲で振り付けていました。けれども試してみたら、曲のテンポが速くてみんなやりにくそうだったので、たまたまその時もっていたバッハの音楽の中から「フーガの技法」を合わせてみたら、これは面白くなるかもと思い、そこから展開していったんです。

 
 

───フーガの技法に興味を持って、それをダンスにしようとしたのではないと。

 

寺田:はい、後付けです(笑)。そこからはしばらくクラスの中で振付を練習していたのですが、もう少し「フーガの技法」で作っていきたいなと思って、改めて楽譜を見たり調べたりして、これは音楽の構造を色々引用できることに気がついて、そこから広げていきました。

 
 

───3分半の振付を断続的に5年以上続けてこられたとのことですが、寺田さんはどのような部分で「フーガ」に惹かれているのでしょうか。

 

寺田:私は音楽の理論を勉強しているわけでもなく、この振付は音楽にものすごく寄っているわけでもありません。フーガの4声をそれぞれに分けて振りを付けているのですが、フーガのように「メロディー」と「伴奏」がわかりやすく分かれていない音楽のあり方というのが、「フラットであること」や「等価性」という私の関心事の 1 つとリンクしたところがありました。これまでのダンサーとしての経験のなかで、舞台上で観客の視線を集めるような表現を多くしてきましたが、そうではない居方に関心を持ち始めたんです。年齢を重ねてくると、力技で魅せるという方向に体がいこうとしません。自然体という言葉はあまり好きではないけど、いろんなものと融合するみたいなことへの関心の方が膨らみ、そこから、「動きそのもの、振付そのものの何を美しいと思うか」というところに発展していきました。

今回まっさらの人たちに振りうつしをしていると、私自身がすごく更新されている実感があります。基本は同じ振りですが、今回多少変えているところもあります。それは動きの難易度を下げるためではなく、ここの動きはもっとこうだ、こんな風にもできるんだという発見に終わりがないんです。私自身が全ての答えを知っているわけではないので、相手とやり取りしながらじゃないと見つからない。振付家とダンサー、互いに対等な立場から解析し合う。そういうやりとりが延々と続いているので、いつまでも終わらないんですね。

 

 

───寺田さんがダンスをつくる、または踊る上で、音楽はどんな役割を担っていますか?

 

寺田:私にとって音楽はものすごく大きな要素です。音楽と関係を持ちながら踊るときには、音楽に従属せず、音楽とともに歩むというか、出たり引いたりしながら、どういう風に関係性を作っていこうとするかを計算します。強弱の出し方やちょっとした引っ張り方とか、速度感を出したい時は音楽より少し先行して動くとか、そういうことは相当計算して動いていると思います。

あと音楽はインスピレーションを与えてくれるものでもあります。フーガでは、音楽をダンスで表現しようみたいな発想はあまりなく、音とセッションするようにどのような反応をお互いに起こしていけるかという感じです。CDから流れているだけでも、音楽をより豊かに聴かせることも踊り方次第でできるんじゃないかという気がしています。

 
 

───今回、アシスタントを担当している佐藤さんから、この作品の魅力を教えていただけますか?

 

佐藤:8期生含め出演者の皆さんは、ちょっとした言葉ひとつや、動きを見せてあげることで劇的に体が変わります。そしてフーガは、ダンサーが変わっていくことが作品に直結する作品だと思います。演出しているということがわかりやすい作品ではなくて、ダンスと振付だけがあるという構造で、シンプルだから、その人の感じているものが表に出やすい。ということは、どれだけダンサーが自分の感覚を拾い集められるか、それにかかっていると思います。それがこの作品の面白いところですね。

 
 

───国内ダンス留学8期生のダンサーとしての印象を教えてください。

 

寺田:リーダーシップを強く発揮するタイプの人がいないんじゃないかと。それがフーガにとってはとてもいいんです。今見えている限りの印象ですが、何かに簡単に迎合しようとする感じも少ない。自分の主張の持ち方と、人にも主張があることを感覚するバランスがいいという雰囲気がありますね。例えば、誰もが持っているであろう自己承認欲求を人に押し付けず自分で抱えられる、孤独に耐えられる人たちという印象です。そのことが、最初に言っていた「等価性」とか「フラットであること」と相性がいいんじゃないかなと思っています。アソシエイト・ダンサーの存在もいい影響を与えているのだと思います。

 

 

───FugueのdB versionとして、挑戦したいことはなんでしょうか?

 

寺田:正直な話をすると、舞台作品として演出にどれぐらい色を付けるかということと、ダンサーたちの技術を高めていくこと、その比重に迷っています。でもこれは来週以降進行していけば、多分やり方が見えてくるだろうなと思っています。今は一通りの振りうつしが終わり、昨日からは体の使い方の更新をするという作業を一対一で順番に取り組んでいます。そこではじめてダンサーたちの体が「変わる」ということが見えてきています。体の「解像度」を上げる感覚を掴んでくれるのかもしれないという手応えを感じています。

 
 

───それは、ほぼ毎日行っている寺田さんによる朝のクラスの効果がでているのでは。

 

寺田:そんな気がします。クラスの内容にフーガのことも絡めていて、バレエならバレエで私の手助けではなく完全に外側にある「型」の使い方をみんなで共有している。みんながそれぞれの体で型をやってみる時間が、結構有効なのかもしれないですね。今回は基礎をやってきた人が多いけど、日頃の繰り返しのトレーニングをやらない若いダンサーが多いじゃないですか。元の基礎があれば、そのことがどのように有効なのかということを身をもって知っているけど、そのことをキャッチできないまま、継続したトレーニングをしないでもったいないなということってありますよね。今回はその積み重ねがわかりやすくできている気がします。

 

佐藤:フーガの振付は情報量が本当に多くて、僕もしんどい。フーガを踊る上では、条件になるのが本人が仮説を立てることだと思っています。自分が実際にやったことと、頭で理解していることの、何がズレてるのかを知ることができないと難しい。彼らがやっていくにつれて欲求が増していくようになって、感覚がどんどん増えていくことの喜びみたいなものが芽生えてきたら、また変わっていくはずだと思います。今の段階ではみさこさんの言っていることをスポンジのように吸収しているけど、それを自分のために、自分が良くなっていくことを感じたいとか、この人の世界を感じたいという欲求が湧き上がってきたり、そのバランスがどんどん変わってくると思います。もう少し本人たちの実感が増えていけば、それと並行して作品が動いていくような気もしています。

 

寺田:私のプロフィールにも書いている、「解像度」をあげる楽しみというのをみんなには知って欲しいと思っています。しんどい作業の部分もあるけど、この作品とは全然違うタイプの踊りでも、解像度に関しては高いに越したことはないと。そして「フーガ」に関しては解像度が命だったりするので、これがプログラムの一番最初の公演だというのはよかったのではないかと思っています。ここまでは体に向き合ってきたけれど、ダンサーたちがこのトライアルにどういう意義を感じられるか、これからの稽古でそういう話を聞きたいなと思います。そうして本番に一緒に向かっていきたいですね。

この記事に登場する人

Yujiro Sagami

寺田みさこ

幼少よりバレエを学ぶ。1987年より石井アカデミー・ド・バレエにて、石井潤振付の主要レパートリーに多数主演。1991年より砂連尾理とダンスユニットを結成し国内外で作品を発表。2002年「トヨタ コレオグラフィーアワード2002」にて、次代を担う振付家賞(グランプリ)、オーディエンス賞をダブル受賞。平成16年度京都市芸術文化特別奨励者。2006年以降ソロ活動を開始し、山田せつ子、山下残、白井剛、笠井叡振付作品の他、渡邊守章演出作品などに出演。自身の作品としては、2007年ソロ作品「愛音」@世田谷シアタートラム(独舞シリーズ)/びわ湖ホール(夏のダンスフェスティバル)、2013年グループ作品「アリア」@伊丹AIホール、2018年3人の振付家(マルセロ・エヴェリン/チョン・ヨンドゥ/塚原悠也)によるソロ作品「3部作」@DANCE BOX/横浜ダンスコレクション、等を発表。アカデミックな技法をオリジナリティへと昇華させた解像度の高い踊りに定評がある。また2007年〜2015年まで京都造形芸術大学にて准教授を勤める他、各地でワークショップなどを行い、後進の育成に勤める。

2023年4月7日 時点

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