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敷地理インタビュー|身体と身体のあいだから、ダンスをつくる

彫刻の素材を見つめていたはずが、その素材に触れる自分の身体へと関心が向かっていく。美術を入り口にパフォーマンスへ進み、ヨーロッパと日本で活動する振付家・ダンサー、敷地理。

「国内ダンス留学@神戸12期」のCreation Residence Artistとして、2026年12月25日、26日に新作『新しい神経の生花 | A Floral Lightning of New Nerves』を発表する。神戸でのリサーチと、これから本格化するクリエーション。身体をどのように捉え、他者と何をつくろうとしているのか。新作へ向かう現在地を聞いた。

─身体を使った表現を始めたきっかけから、聞かせてください。

もともとは写真や映像などのビジュアルアートから入って、大学では彫刻を学びました。彫刻の授業には、石や木、石膏、プラスチックなど、いろいろな素材に触れる時間があるんです。そこから工房に分かれて、一つの素材と向き合っていく。自分が何を扱う人になるのかを、選んでいくような過程です。

でも、そのなかで、あまり興味を持てる素材がなかったんです。粘土を触っているときも、その粘土がどんな形になるかということより、自分の手がどう触れて、どう形をつくっていくのか。その過程を見ていました。

そこで、自分が興味を持っているのは、素材の手前にある自分の身体なんだと気づきました。自分や相手の身体を素材にして、作品をつくってみようと思ったんです。人間の身体で彫刻をつくるようなところから、パフォーマンスが始まりました。

やっていくうちに、行為や意味だけでなく、形や音楽性そのものを面白く見せるダンスへの憧れも出てきて。ベルリンへ交換留学していた頃に、本格的にこの方向でやっていこうと決めました。

パフォーマンスは、自分の生活に近い表現でもあったんだと思います。美術作品を買ったり、所有したりすることが身近にある家庭ではなかったので、ものをつくって、ずっと保存しておくことに、あまり実感がなかった。一方で、人間の身体を使うことは、もっと日常に近かったんです。

 


“ur phantom eyes, our crystallized pains” with Ching Shu Huang & Géraldine Haas | photo by Anya Fedoronchuk @Rosas Performance Space 2024 September

 

─彫刻からダンスへ、表現の変化はスムーズだったんですか。

スムーズにはいかなかったですね。写真と映像が違うように、時間軸を持つ表現になると、考え方も変わってきます。

自分が何年かかけて取り組んできた動きも、最初は形をベースにつくっていました。やっぱり、静止画のようにものを捉える感覚が、バックグラウンドにあるんだと思います。そこで難しかったのが、ある形から別の形へ移っていく過程です。

AからBへ移る、そのあいだの方が、AやBそのものより大事なことがある。動きの素材をどうつなぐかが、素材そのものより重要になることもある。それは、ベルギーのP.A.R.T.S.で学んだことの一つです。

一方で、彫刻とパフォーマンスには、その場所へ行ってみなければわからない、という近さもあると思います。物質としてそこにあることや、空間のなかで経験すること。複製や保存が難しいというところにも、共通点があると思います。

 

─いま、作品をつくるときには、どんなことが出発点になりますか。

年代によって、つくり方や動機は変わってきました。20代前半は、「これをやってみたい」というアイデアから始めることが多かったです。最近は、やりたいことがいくつか並行していて、声をかけてもらったり、サポートを受けられたりする機会に、そこへ取り組んでいく感じです。

時間が重なると、作品も、育てていくものになってきます。植物のように、二年、三年、四年と、続けていることをどう育てていくか。今度上演する作品にも、五、六年前からの振付の実践を、ソロやトリオにしながら、少しずつ変えて続けているものがあります。

 

─作品のなかで音や空間について、どのように考えているのでしょうか。

もともと興味があるのは、空間としての音です。音楽のビートに動きを合わせるということをしてきていないので、音楽の使い方には、いまも苦戦するところがあります。

例えば、ポケットのiPhoneから出ていた音が、劇場の空間へ広がって、また縮んでいく。プロジェクターやスピーカーなど、いくつもの音源が、空間のなかに配置されている。そのとき、感覚がどう変わるのか。そういうことを考えています。

大学院にいた頃はフィールドレコーディングにもはまっていて、夜の街へ音を録りに行っていました。その音を再生しながら、もう一度録音することもやっていました。音に重力をかけるような感覚です。実際に、作品のなかでスピーカーを振り回したこともあります。

自分が何を見たいのか、何に感動するのかは、やっぱり大きいと思います。特定の場所と結びついた作品や、空間そのものを感じるような作品に惹かれる。それは、彫刻やインスタレーションから入ってきたこととも関係しているのかもしれません。

 

─新作『新しい神経の生花』は、どこから始まったんですか。

以前、作品の紹介文を考えていたときに、「複数の人間で神経系を新しく組み直して、立ち上げる」という説明をしたことがあったんです。その言葉が、自分のなかでしっくりきて。「神経系を組み直す」というイメージが残っていました。

複数人で一つの身体をつくるエクササイズも、ずっとやってきています。例えば、自分の身体の一部をいったん手放して、そこに誰かの左腕を接ぎ木するように考える。自分のものではない身体を使って、一つの形をつくっていくんです。

ワークショップでは、「生け花のように、自分の身体を相手の身体の一部として生けてみてください」と話すこともあります。そこから、生け花の天地人の考え方や余白など、基本的なアイデアについて話すようになりました。その二つが絡み合って、このタイトルにつながっています。

もう一つ、自分がやっているパフォーマンスが、幻肢痛に対する鏡療法に似ていると、人から言われたことがありました。そこから幻肢痛について調べるようになり、人工身体にも関心が広がっていきました。

 


8月に実施されたワークショップにて。鏡療法をモチーフにしたワーク。

 

─神戸では、どんなリサーチをしているのでしょうか。

まず、スタジオの外で、人工身体について知っていこうと思いました。神戸市内の義肢製作所では、工房のなかで、どうやってつくられているのかを見せてもらいました。大阪の製作所にも行って、義肢の歴史や、キリンなど、人間以外の動物の義足についても展示を見せてもらっています。

知らなかったことを知ると、「義肢」という言葉の重みや、そこから思い浮かべるものが変わります。例えば、エクササイズで自分の手を相手の手として扱ってみるときに、義肢がどんな過程でつくられているかを知っていると、やり方も変わってくるのかもしれません。

そのうえで、実際に使っている人にも話を聞きたいと思っています。つくられたものが、どう身体と組み合わさって、その人の身体の一部になっていくのか。そこに、自分の関心があるんだと感じています。

ただ、リサーチによって作品が変わりそうかと言われると、正直、まだそこまでは感じていません。もっとスタジオの外で過ごす時間が必要だと思っています。ただ、今回は一人でつくるわけではないので、スタジオのなかで、ほかの人との実践から進めていくこともできると思っています。

スタジオで過ごす時間は、とても大切です。でも、新しいものをつくるなら、やったことのないことをしないといけない。何になるかわからないことを、頑張ってやってみる。最近は、本を読んだり、出かけたり、人に話を聞いたりする時間を大事にしています。

 

─ 一緒につくるダンサーには、どんなことを求めていますか。

今回は、関西や神戸の近くで活動している人たちと出会うことも含めて、ワークショップをしました。個別に会いに行った人もいます。そのなかで、いろいろなバランスを見ながら、一緒につくる人を選んでいきました。

藤田彩佳さんとは、以前の作品でも一緒にやってきました。すごく信頼できる人ですし、過去の積み重ねを共有している人に、入ってもらいたいという気持ちがありました。また、仲宗根葵さん、住ノ江わあいさんもDANCE BOXのプログラムのなかで、一緒にワークショップを受けたり、同じ時間を過ごしていることも大きいです。そこで培った人間関係や、共有したものをベースに、クリエーションをしたいと思っています。ワークショップで経験したことを、少し変えて、リサーチやエクササイズに使うこともできるので。

ダンサーにできあがった動きを、どれだけきれいにやってもらうか、ということではなく、一緒にどうインスピレーションを生み出していけるか、ということを考えています。

 


9月に行われたクリエーションの様子。

 

─ 敷地さん自身も、自分の作品に出演し続けていますね。

これまでは、ほぼすべての作品に出ています。外から見ていると簡単そうに思えても、実際にやってみると、そうではないことがありますよね。「もっとシャープに」と言われても、やっている立場からすると違ったり、そもそも、やりたくないことだったりする。

自分の身体で何かをしなければならないことには、ある種の暴力性もあると思うんです。だから、その立場を自分でも共有することは、一つの責任の持ち方なのかもしれません。

それと、作品を内側から覚えておきたい、という気持ちもあります。

一方で、外から見なければつくれないところもある。自分も出たいし、外からも見なければいけない。その両方を、どうにか成立させたいと思っています。

 

─ 滞在してみて、新長田の街はどうでしたか。

個人的に、すごく好きです。まず神戸が、山も海もあって、街のサイズ感もちょうどよくて。

新長田には住んでいる知り合いがいるので、その人の生活や、住んでいる人同士の距離感を見ることができました。料理をつくって、フライパンのまま友達の家へ持っていくんです。昔の映画では見たことがあるけれど、一人暮らしで、フライパンを持って行ける距離に友達が住んでいるのは、結構珍しいと思うんです。ほかにも、自転車で走っていると、挨拶をされる。そういうコミュニティの強さを感じました。

 

─ 最後に、今回のクリエーションで大事にしたいことを教えてください。

いい意味で、リスクを取ることだと思います。作り方も、見せ方も含めて。

安全に進める方法はいろいろあると思うんです。でも、どの方向へ、どうリスクを取りに行くのか。それが大事だし、今回、期待されていることでもあるのかなと思っています。

 


 
編集者コメント

東京藝術大学大学院と、ベルギーのP.A.R.T.S.を修了し、横浜ダンスコレクション2020では若手振付家のための在日フランス大使館賞を受賞。敷地理は、美術とダンスの双方で経験を重ねながら、身体をめぐる表現を探ってきた。

今回の話で印象に残ったのは、身体の捉え方と、他者とつくるときの姿勢がつながっていることだった。相手の腕を、自分の身体の一部として扱ってみる。同時に、振付を渡す側である自分も、踊る側の立場を引き受ける。身体について考えることが、制作の方法にも及んでいる。

粘土に触れる手から始まった関心は、いま、ほかの身体へと広がっている。その積み重ねが、劇場でどのような形や時間になるのか。まだ見たことのない身体の関係を、客席から確かめたい。

聞き手・構成・文:岩本順平

 


 

国内ダンス留学@神戸12期 Newcomer / Showcase#2
Creation Residence Artist

敷地理 振付作品『新しい神経の生花 | A Floral Lightning of New Nerves』

日時:2026年12月25日(金) 19:00、12月26日(土) 14:00 *両日ともアフタートークあり
会場:ArtTheater dB KOBE

振付・演出:敷地理
出演:藤田彩佳、仲宗根葵、住之江わあい、敷地理

公演詳細:https://db-dancebox.org/event/12755/
ご予約:https://12ki-ns2.peatix.com/

この記事に登場する人

敷地理

振付家・ダンサー。コンテンポラリーダンスと現代美術の両分野で劇場や美術館・ギャラリーまたその他の公共空間や野外でパフォーマンスや展示を行う。その作品は私たちが当たり前のものとして捉える人間の身体そのものに問いを投げかけ、身体の自己所有という所与の概念に挑むところから始まる。匿名化する身体と奇妙な官能的緊張感を帯びた動きを探究し、自他の身体を識別するあらゆる方法をぼかしリミックスすることで、私たちの身体について抱く思い込みが、観客の視線によってどのようにコード化されているのか、そしてその眼差しの政治性と暴力性について考察している。東京藝術大学大学院またP.A.R.T.S (Performing Arts Research and Training Studio) ブリュッセル、ベルギー修了。主な受賞歴に横浜ダンスコレクション2020若手振付家の為の在日フランス大使館賞など。

https://linktr.ee/osamu_shikichi

2026年7月11日 時点

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