【9期成果上演】 振付家インタビュー② ハラサオリさん、塚原悠也さん
「国内ダンス留学@神戸」では、2024年3月9日・10日に成果上演として、9期コレオグラファーの安永ひよりとハラサオリによる新作2作品を上演します。
今回は新作『鉄球』を振り付ける9期コレオグラファーのハラサオリと、メンターを務めるcontact Gonzoの塚原悠也さんにお話を伺いました。
(撮影:Yu Suzuki)
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ダンスを作るということについて
―――今日はよろしくお願いします。はじめに作品タイトルについて伺いたいのですが、『鉄球』とつけた経緯や理由を教えてください。
ハラ:最初にダンス留学に応募したときからタイトルは『鉄球』と決めていました。私はどの作品でも、タイトルを最初に付けます。タイトルが決まらないとすごく不安ですね。
まず「重さ」を扱うということ。重力、下に向かっていくことや、取り返しのつかないといったイメージのある「不可逆性」というコンセプトが第一にありました。
―――お二人は作品をつくるとき、どんなところから発想を得たり、どのように創作を進めていきますか?
塚原:ミュージシャンの池田亮司さんと食事した際に、「俺たちの仕事は幸せなんだ」と話されていて。というのは、ある作品制作に取り掛かっている時に、次にやりたいことが2、3個見つかるのだと。僕もそれには共感して、ある作品について考えている時、その時使える素材が出てくると同時に、使えない案もどんどん出てくる。でもその使えない案を展開・拡張すれば別の作品になるぞというのは見えていて。だからやればやるほどアイディアがどんどん増えていくんです。僕も活動を始めて20年近く経ってまさにそういう状態です。
あとは作品を鑑賞している時、目の前の作品と全然違うことを考えてしまって、自分の発想につながることも多いです。そして、それはいい作品を見ている時によく起こります。
ハラ:私も作品を見てる時は色々考えますね。いろいろ刺激を受けています。あと、寝る前に作品に筋が通ることがよくあります。昼間は刺激と情報が多いので考えすぎてたり、逆に思考停止してたりするんですが、夜ベッドに入って仰向けで天井を見ていると、突然「あ、わかった」という時間がくる。でたらめな思考に筋が通り始めるんですね。その瞬間を大事にしてます。
私が意識しているのは、ダンス作品を参考にしてダンスを作らないことです。「こんなことをやってみたい」をダンスからは絶対に持ってこない。共通言語や資料としてダンスのアーカイブ映像を共有したりすることはありますが、自分の着想はダンスとなるべく断絶していくことを意識しています。
―――contact Gonzoのパフォーマンスはダンスから着想することはありますか?
塚原:あまりないですね。僕たちの場合は、ダンスから着想せず、遊びやスポーツからの方が影響はあるかもしれない。もちろんダンスを見て、いいなとは思いますが、ダンサーのように僕らが動けるわけではないので。
―――お二人にとってダンスとはなんですか?
塚原:それはいい意味で分かってなくて。大学生の頃、美学科で学んでいた時も色々調べたんですが、結局誰も「ダンスとは何か」っていうのを定義出来てないんですよね。それだけははっきりしてて。それだけ難しいけれども、一方であらゆるものにダンスを見ようとするロマンチックな見方もあって、それもあるよなと思っています。
今回ハラさんが試みようとしてることも、その議論をもう一度始めるきっかけになればいいんじゃないかと思います。「物が倒れた瞬間にダンスを見たような気がした」とか「全然わからなかった」とか、いろんな意見があっていいと思うし、一番大事なのはそこを話し合うことだと思います。
ハラ:これはあくまで自分の思考のためですが、ダンスのことは「現象」と定義しています。「現象」は「作品」ではない。それは作品のマテリアルで、目的やゴールでもない。それを発生させるための振付が、自分にとっての作品なんだと思います。
―――その現象を発生させるための振付とはなんですか?
ハラ:言い換えるなら、関係性でしょうか。たとえば「木が揺れて綺麗だね。ダンスみたい」というより、木の葉を揺らしているこの風がどこからどのように吹いているのか?ということを考えると私は充実します。
現象は見ていて楽しいのですが、私はなぜその現象が起きるのかを理解して、現象そのものを起こすための仕組みを開発したいです。
塚原:ハラさんがいう現象というのは僕らでいうアクシデントみたいな感じだと思います。contact Gonzo的には事故/ハプニングが起きるのが一番望ましい。アクシデントは予測できないですよね。どんなことが起こるかシミュレーションできたとしても、起こる瞬間やなぜ起こったのかとか、どういうアクシデントなのかというのはなかなか当てられない。それはプレイヤー側もそうです。自分たちが驚くようなことが起これば、お客さんも驚くだろうという方法論ですね。もっと荒削りかもしれないけれども。
じゃあ、それをどうやって起こすか?わざと倒れてみようみたいなことは絶対バレるし、それは僕らがそういう訓練を受けてないこともあり、それをやるつもりはない。本物のアクシデントに近いようなことをどう起こすかなんです。
だからできるだけリハ―サルをしないとか、曖昧な構成にしておくとか。あと、何が起こってもいいという心持ちでやる、誤魔化さない。小さくてもいいからアクシデントが起こりやすい状況を作っていくということですかね。その状況の中でメンバー同士でアイデアを出しあっていく。そして、それが綺麗になりすぎないようにデザインして作品化していく感じです。
振付家とパフォーマーの線引き、運について
―――ハラさんは、これまですでに東京やベルリンを拠点に活動し作品を発表し続けてきていますが、今回のダンス留学では、改めて自分の手法を探るための時間を作りに来たように感じています。
ハラ:このダンス留学は、ここまでがむしゃらにやってきた自分の美学って結局なんなんだろうな、という素朴な問いについて考えてます。活動をしていく中で文脈化って大事な作業ですが、最近そのテンポが自分の身体を完全に追い越してる実感があって。一度立ち止まらないと壊れてしまうと思いました。
あとは、作家(振付家/演出家)とプレイヤー(ダンサー/パフォーマー)としての自分の線引きをはっきりさせるという目的もありました。物の触れ方ひとつにしても、私には絶対に外せないやり方があって、それが他のプレイヤーにはなかなか伝わらないことがあります。この部分に関しての線引きがこれまで甘かったと思います。どこまでが作家で、どこまでがプレイヤーとしての価値観なのか?活動を始める最初の年にハラサオリって自分で芸名をつけましたが(本名は原沙織)その定義がいまだに曖昧だったんですね。
塚原:でも、結果そこに繋がっていくような気がします。
ハラ:本当にこれだと言う手法を使って作品を作りたいのか?とか、パフォーマーで居続けたいのか?という疑問もあります。振付の仕組みだけでやっていけるなら、そういう作家になりたいと思っていたりもしますが、実際のところは分からないです。
塚原さんはパフォーマンスするのは好きですか?スポーツ的な楽しみのような感じですか?
塚原:スポーツとは違いますね。スポーツには明確なルールがあり勝敗がある。自分の限界もすぐわかるし、結果もはっきりしている。全部が明解。でも表現行為の場合は何が正解で何が不正解かを自分で決めるしかない。もちろん、見てくれた人がこう感じてるだろうというのはあります。しかし、もっと抽象的です。尚且つ、変な方向に行った時に自分たちで軌道修正をするけれども、それがどうやったら成り立つのかも分からない。頑張ればいいというわけでもないし。状況との駆け引きみたいなことですよね。うまくいったと思っていても、たまたま運がよかっただけの時もある。だから、“運”について勉強したりしてみて、とりあえず墓参りだけ行こうかみたいな(笑)。
ハラ:大谷翔平ですね。彼は運もトレーニングと同列に扱ってるんですよね。
塚原:どう考えても運がよい人の方が有利なんですよ。偶然、街角で出会った人が仕事くれるとかあるんですよ。それで、その仕事をたまたま見に来た人が「今度はイギリスで」とか言ってくれるんですよ。まあ、努力が運を呼ぶみたいなことも言えるかもしれない。そういう意味で運にすごく注目しています。
対称的な2人、リスクを取ること
ハラ:デザインをやっていた時期も含めると、私の初作品は、パソコンで作ったグラフィックでした。もちろん、受験でデッサンはありました。でもそれは課題であってコンセプトはありません。自分が創造主として生み出す原体験がパソコンを使ったものだったことが、創作する上で強い影響を与えています。だから、ゲージとかパーセンテージとか、コントラストを上げてとかいう言葉を使ったり、目的のレイヤーはこれだから、みたいな感覚で人を動かしている。どうしても俯瞰して操作して、コンポジションをするというのが根底の欲求にあります。
あと、昔から一人遊びが好きで、ぬいぐるみ遊びがパソコンに移行して、さらに劇場に拡張していったんだなと思います。だから、会話からなにかが生まれていくとか、ふざけた末になんか「それ面白いかも。ちょっとやってみてよ。あ、できた!」みたいな喜びを知ったのはわりと最近ですね。
―――今回、塚原さんにメンターをお願いしたのは、ハラさんからのご指名だったのですが、話を聞いてると対照的なお二人ですね。
ハラ:そうですね。最近デザインのように制御していく禁欲的な振付はもういいやと思ってました。contact Gonzoのパフォーマンスはとても振付だけど、ぜんぜん制御されていない。こういうアーティストから見て、私のやっていることや興味にどれぐらい可能性があるのかを聞いてみたいと思っていました。
塚原:さっきのリハーサル後のフィードバックで、二人の間にある興味の差とか、クロスオーバーするところがはっきり見えたかなとも思うし、その点に関して僕からは一旦渡せたのかなと思いますね。
―――塚原さんから見てハラさんの特徴や魅力はなんですか?
塚原:国内外で色々見てきた経験も豊富ですし、それに対する自分のスタンスが明確にあることが、十分な強みだと思っています。これまでの知識や探究心、あとやりたいことがはっきりしてるのは最低条件でもあるし、十分条件でもあると思う。だからそんなに心配はしてないです。
ハラ:心配はしてないって私はこういうプログラムで絶対言われるんですよ。そして放置されて人知れず枯れていくという(笑)。もうちょっとかまって欲しい。
―――ハラさんのようなこれだけの実績をもったアーティストが国内ダンス留学@神戸に参加したのは初めてなんですが、でも、キャリアに関わらず更なる飛躍をしたいという切実さは他の参加者と変わらないですよね。
塚原:でもそれで言うと、僕は自分のキャリアを中長期的に考えられたことは、あんまりないんです。行き当たりばったりですよね。だからそういうアドバイスはあんまりしない方がいいなとは思っています。でも、どこかのタイミングで自分が思っている以上のリスクを取らないといけない瞬間があるはずなんですよ。
それがどういうことかと言うと、自分が思ってもみなかったことをするということです。それはデザインセンスに長けた人にとっては結構ハードルが高い時もある。それがどれぐらいのリスクとか、どのタイミングなのかって、本当に人それぞれだから、一概に教えられることでもない。でもその瞬間が来るんですよね。その時に思い切ったことをやる。ある作品は、もしかしたら8割の人には全く響かないものかもしれない。けれども残りの2割の人に引っかかるフックになる。それを作るんだみたいなことが必要です。それが全てではないと思うし、いきなりやる必要も無い。今回の作品は多分そういうタイミングの2つくらい手前の準備段階なんじゃないかなという気はしてます。
国内ダンス留学はそういうことをシミュレーションするのに、とてもいい企画だと思います。だからハラさんは参加しているのかなという気がします。
ハラ: いまの「2割の人に引っかかる、刺さる人には刺さる」みたいなことに、これまでは飛び込んでこなかったと思います。私が勉強していたデザインの世界では伝わらないとだめなんです。100 人いたら全員に伝わらないといけない。6年間そういう場所にいて、競争させられました。そこに囚われたままダンスを作り始めて10年経つけど、解放がうまくいかない。でも、絶対自分になにかがあるからここにいる。そういう根拠のない確信を一番大事にして、今年はそれをやり始めたかったという思いがあります。
―――最後に、『鉄球』は、成果上演で発表した後、さらにどうなればいいと思いますか?
ハラ:contact Gonzoのメンバーで再演ですかね(笑)
塚原:それはすぐできるんじゃ。うまくできるかわからないけど(笑)
ハラ:この作品は、再演をされて完成といえるのかな。長田のおじいちゃん3人バージョンも考えたり(笑)。でも『鉄球』は東京でもやりたいし、自分から手放したいというのがすごくあります。さっき言ったパフォーマーとして自分の冴えや質感を駆使していくということと、作品を作るということを分ける。それらの配分を分かった上で活動していきたいです。
―――貴重なお話ありがとうございました。まだクリエーションは続きますが上演までよろしくお願いします。
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国内ダンス留学@神戸9期「成果上演」
ハラサオリ『鉄球』/ 安永ひより『橋の上をおよぐ』
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鉄球
想像してください。あなたの頭の中にはいま、平らな床があります。その床に対して、垂直な壁を2枚、向かい合わせに立ててください。そして、両壁のちょうど真ん中に、重さ5kgの鉄でできた球を真上から落としてください。空間に大きな音が響きました。
ここで質問させてください。あなたは今、空間のどこでその音を聴きましたか。
「鉄球」は、私たちの身体とそれを囲む環境の間に横たわる知覚とイメージを探求する振付作品です。日常で発見される人、モノ、空間の交差が引き起こす運動現象の切り取りと再構成を通して、身体の物質的な在と不在の実感を目指します。
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振付:ハラサオリ
出演:秦知恵里、西岡樹里、ハラサオリ
演出助手:加藤典子
メンター:塚原悠也
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公演概要
9期目となる本成果上演は、9期コレオグラファーによる2つの公演を行います。
デザインの理論を用いて環境から影響を受ける身体へのアプローチを試みるハラサオリ、
新しい街に移り住み様々なアーティストの身体と行動をリサーチする安永ひより。
2名の作家による新作に9期ダンサーとアソシエイト・ダンサーらが協働します。
8ヶ月の集大成であり新たな出発点となる2つの公演にどうぞご期待ください。
両公演の間の時間は、新長田の風景と美味しい食べ物をお楽しみください。
特設サイト:https://danceryugaku.wixsite.com/main9
【日程】
◉ハラサオリ『鉄球』
2024年3月9日(土)13:00〜、3月10日(日)17:00〜
◉安永ひより『橋の上をおよぐ』
2024年3月9日(土)17:00〜、3月10日(日)13:00〜
【会場】
ArtTheater dB KOBE(神戸市長田区久保町6-1-1アスタくにづか4番館4階)
【チケット詳細】
〈一般〉1公演2,500円、2公演セット3,000円
〈割引〉1公演2,000円、2公演セット2,500円
〈高校生以下〉1公演500円、2公演セット1,000円
〈未就学児〉無料
※割引対象:長田区民・会員・U25・障がい者・介助者・65歳以上
※2公演セット券は、同じ作品を組み合わせることはできません。
※当日券は、各200円増し
【予約】
オンライン予約:https://9ki-final.peatix.com (Peatix)
もしくはDANCE BOXまで電話・メールにて受付
【お問合せ】
NPO法人DANCE BOX
電話:078-646-7044
メール:info-db@db-danecbox.org
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主催 : NPO法人DANCE BOX
企画・制作:NPO法人DANCE BOX
宣伝美術:DOR 写真:岩本順平
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(次代の文化を創造する新進芸術家育成事業))|独立行政法人日本芸術文化振興会
9期の日々のレポートはこちらから
この記事に登場する人
ハラサオリ
ハラサオリ:1988年東京生まれ。美術家、振付家、ダンサー。「環境と身体」をテーマに、自らの身体、光、音、テキスト、ドローイングなど多様なメディアを用いた上演型作品を制作する。約10年に渡るベルリン滞在を経て、2023年より東京、横浜、神戸、京都など国内各都市で活動を行う。2015年東京藝術大学デザイン科修士、2018年ベルリン芸術大学舞踊科ソロパフォーマンス専攻修了。
2024年9月10日 時点
塚原悠也
2002年よりNPO法人 DANCEBOXにボランティアスタッフ、運営スタッフとして参加したあと、2006年にパフォーマンス集団contact Gonzoの活動をダンサーの垣尾優と開始、これまでパフォーマンス作品やインスタレーションを国内外で多数制作。現在Kyoto Experiment共同ディレクターとしても活動。
2020年にセノグラフィと振付を手がけた「プラータナー:憑依のポートレート」(岡田利規演出)で読売演劇大賞の優秀スタッフ賞を受賞。contact Gonzoとしては、咲くやこの花賞(美術部門)、タカシマヤ賞、京都市新人賞等を受賞。
2024年1月15日 時点
秦知恵里
1994年香川県出身、鹿児島県屋久島在住。 大学で観光まちづくりを専攻し、「地域×アート」の可能性を研究する。愛媛県大洲市を舞台にしたダンスカンパニーノマド~sによる『山としゃべって川おどる』や、高知県いの町「紙の博物館」で開催された参加型アート公演『わ(た)したちのお道具箱』にダンサーとして出演。地域を舞台に、地域課題に着目したり、地域資源を扱ったり、地域の人と踊ることに興味がある。
2023年9月10日 時点
西岡樹里
からだからしか汲み上げられない表現や、物や環境との関わりで新しい物語がみえてくること、繋がらないはずのものが関係を結ぶこと。生身のからだをまぜた表現方法によって、ついさっきまでみえていなかった物や事がリアルタイムにみえるようになってしまうことに驚きを感じて、学生の頃にこのからだを扱う表現を志しました。国内ダンス留学@神戸1期を修了。これまでに砂連尾理、チョン・ヨンドゥ、余越保子などの作品に出演。また近年は様々な世代の障害を持つ方や持たない方とのダンス体験の場を展開。
2023年9月10日 時点
加藤典子
新潟県出身。幼少よりジャズダンス・HIPHOPを始め、次第にコンテンポラリーダンスに惹かれ上京。舞台芸術の学校(P.A.I)にて、個性豊かな講師のもと、研鑽を積む。卒業後、白神ももこ、藤田善宏(コンドルズ)他多数の振付・演出家の作品に出演する傍ら、演出助手やアンダースタディも務める。特技は剣道。色白、鼻高、すごいなで肩。
2023年9月10日 時点