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「ダンス・トライアル」キュレーターインタビュー 杉本昇太

ダンスボックスの新たな試みとして、2名の若手アーティスト/制作者をキュレーターとしたダンス公演企画「ダンス・トライアル」を行います。キュレーター2名がそれぞれの企画テーマ/コンセプトに 基づいてアーティストを選出し、最小限の舞台環境のもとで行う、実験的なダンスショーケースです。

今回はダンスボックスでインターンとして働きながら、自身初となるキュレーションに挑む杉本昇太さん(以下、杉ちゃん)と、杉ちゃんが選ぶ新長田の好きな場所を巡りながらお話を伺いました。

企画詳細はこちら:https://db-dancebox.org/event/2758/

コンテンポラリーダンスとの出会いと新長田への移住

 

――― 本日はよろしくお願い致します。杉ちゃんが新長田に引っ越してきて約七ヶ月が経ちましたが、新長田、そしてダンスボックスでの日々はどうですか?

杉本:地元の岡山から新長田に引っ越してきてから初めての経験ばかりで、情報量が多すぎて(笑)。引っ越してきて一ヶ月も経たないうちに「Don Don Thanks Party! *1」と「みんなのフェスティバル *2」という大きな経験をして、それからすぐに国内ダンス留学@神戸9期が始まり、本当に毎日ドタバタです。その中で色々と失敗をしてきたのですが、ダンスボックスの皆さんやこの街の人たちは凄く温かくて。その温かさの中でこの七ヶ月を過ごしています。

*1 dbサポートパートナー「丼クラブ(どんぶりぐらぶ)」会員の皆様への感謝と交流、意見交換の機会として開催される一年に一度の会員のための大感謝祭。

*2 「ローカルフェスティバル=下町の遊び場」として、アート×教育×福祉×多文化共生×まちづくりの視点を融合させた、大人も子供も知らなかったまちのカタチや人・ことに出会うフェスティバル。

 

――― 杉ちゃんが初めてコンテンポラリーダンスと出会ったのはいつなのでしょうか?

杉本:僕がコンテンポラリーダンスに出会ったのは大学時代です。演劇やコンテンポラリーダンスを学ぶ「身体表現ゼミナール」というところに所属していました。通っていた大学が凄く特殊で、表向きは日本文学科なので日本文学とか日本語学とかを学ぶのですが、創作を学ぶコースもあって、小説や評論を書く中に、身体表現ゼミがあるという面白い学科でした。その卒業制作発表会でコンテンポラリーダンスを見たのが初めての出会いになります。

 

――― 杉ちゃん自身も踊っていたんですか?

杉本:はい。卒業制作として自分で作品を創作して発表し、踊りました。

 

――― 他の人のダンスを見る時に杉ちゃんはどういう視点で見ますか?

杉本:そうですね。僕は舞踊評論家を目指しています。だから作品を見るときも批評的な観点で見るようにしています。じゃあ批評的な観点ってなんなのということになるんですが、たとえば作品をダンス史のどこに位置付けるのかとかいろいろあって、僕もまだまだ勉強中なのですが。いま僕の中で考えているのは、ダンサーやパフォーマーの身体、あるいは小道具や照明といった作品を構成するあらゆる要素から立ち現れる「なにか」を感覚し、言語化していく。そして、コンテンポラリー(同時代性)というだけあって、この「なにか」がいったい今の現代にとってどんな価値があるのかという視点から作品を見ています。

 

――― そもそもなぜ批評家/舞踊評論家を目指そうと思ったのでしょう。

杉本:初めてコンテンポラリーダンスを見て「なんだこれは!?」と(笑)。全くわからなくて。でもわからないから惹かれるというか。わからないなりに理解したいという欲求が凄くあって。コンテンポラリーダンスをいろいろと見るようになりました。大学の課題で作品の感想やレポートを書いていく内に批評を書くことの方に興味がでてきました。作品の意義や価値を考察することは、作品を育てていくことに繫がると思っています。また、観客に作品の見方を提示したり思考を促したり、作り手にとっては、作品の再考のきっかけや宣伝にもなる。あとは、未来に向けてのアーカイブの役目もありますよね。観客や作り手との橋渡し的な役割にとても意義を感じ、舞踊評論家を志すようになりました。

 

(杉ちゃんの新長田の好きな場所 ①駒ヶ林漁港:夕陽に照らされながら海を見つめると心がとても落ち着きます。)

 

「弱さの可能性」というテーマの出発点

 

――― 今回、杉ちゃんにとって初めてのキュレーション企画です。テーマが「弱さの可能性」ということですが、なぜこのテーマでキュレーションをしようと思ったのか教えてください。

杉本:まず前提として、今回「弱さの可能性」をテーマにしていますが、選んだ作品自体は「弱さ」をテーマにしているとは限らないんです。僕の中で「弱さ」は凄く多義的でいろんな意味で捉えています。例えば「儚さ」とか「繊細さ」、「優しさ」も「弱さ」と捉えています。作品から立ち現れるさまざまな「弱さ」を感覚し、感じてほしいと考えています。

僕自身、コミュニケーションや人付き合いが苦手でずっと疎外感をもって生きてきました。自分のことを「弱い」存在だと思ってきました。でもコンテンポラリーダンスに出会って「なんで自分はこんなにもコンテンポラリーダンスに惹かれるんだろうか」と考えた時に、コンテンポラリーダンスとは型がなくて曖昧で、さまざまな新しい可能性を探っていくという繊細なことをしている。ある意味「弱い」ところから立ち上がってくるものだと思います。そこに惹かれたんだろうなと思います。

それから、ダンスボックスの皆さんや地域の皆さんが持っている色々な人を受け入れながら共に生きる柔軟さや逞しさが、自分にはすごく居心地がよくて満たされる感覚がありました。そうやってだんだん新長田になじんできたときに「下町芸術祭2023 *3」がはじまって、さらに深く町の人たちと関わりだしました。ある時「はっぴーの家ろっけん」に寄ったときにカメラマンの永田収さんとお話する機会がありました。収さんは新長田の下町の写真を長年撮ってきた方で、下町の姿をずっと見てきた方です。「下町の人々は、助け合って生きてきた。そうしないと生きていけなかった。もちろん人間だから好き嫌いはあるけれど、それでも排除せずに向き合って生きてきた」という話を聞いてすごく良い話だなと。

*3 2015年から隔年開催されてきた地域芸術祭。「多文化共生」をテーマに表現ジャンルのみならず、業種やコミュニティの垣根を越えて、地域が協働して開催し、神戸・新長田に点在している古民家や福祉施設、町工場などを舞台に、現代アートやパフォーマンスの展示・公演を行っている。

 

――― 杉ちゃんが新長田、そしてダンスボックスで経験してきたことがかなり密接にテーマに関わっているんですね。

杉本:「下町芸術祭2023」では、会場となる場所のオーナーや関係者が共同でディレクターとなり、それぞれ20の会場を使ってアーティストが作品を発表します。本業をもっていながら行うわけですからディレクター陣はすごく負担がかかります。ある時、芸術祭期間中のトークイベントの質疑応答で「こんなに大変なのに、なぜこんなことをするのか」という質問に対してディレクターの合田昌宏さんが「僕がこの町に来た時に、町の先輩たちが助けてくれた。だからその恩返しみたいなものですね。」とおっしゃっていたことが印象深くて。この町の温かさというか、来るものを拒まず様々な人を受け入れ共に生きることの本質が見えた気がしました。あとは、丸五市場にある「めいりん」に行ったときに、常連のおばさんが初対面の僕にビールをおごってくれたりもしましたね。新長田という町は、多種多様な存在をやさしく受け入れる寛容性のある町だと思っています。

しかし、そういった弱さというものは、今の社会では排除されていくような傾向にあるのではないかと僕は感じています。そうじゃなくてそれを受け入れることによって次に進んでいくというか。より良い未来への可能性があるのではないかと思い始めるようになったのが、今回のテーマの出発点です。

 

(杉ちゃんの新長田の好きな場所 ②めいりん:マルゴイチバ内にある中華料理のお店。いつも常連さんで賑わう店内で味わう手作り水餃子は絶品。)

――― テーマにある「弱さ」という言葉は、一般的によく使われる言葉だと思います。ネガティブな印象を持つ言葉であるが故に、その言葉を選ぶことに危険性があり誤解を生む可能性もあります。今回、キュレーションしていく中で、またコンセプト文を考えていく中で気をつけたことや難しかったことはありますか?

杉本:確かに、「弱さ」という言葉にはリスクがあると思います。「正常と異常」「優性と劣性」などの二項対立を想起させやすいですし、差別問題に接続しかねないすごく敏感で抽象的な言葉です。もうちょっと適切な言葉を探したけれど見つからなかった。正直このテーマを選んだことを後悔しています(笑)。 もちろん、このテーマを選んだからにはきちんと向き合わなくてはいけない。いまもまだ向き合っている最中です。

コンセプト文を通して気を付けたことは、弱さとは優劣をつけるものではないということはすごく意識しました。「弱さ」は多義的な意味を含んでおり「弱さ」を受け入れることは、新しい可能性を生み出すきっかけになるということを今回のキュレーションを通して伝えたいと思っています。

 

野田容瑛、堀川裕樹、nousesを選んだ理由

 

――― そのテーマの中で今回3組のアーティストを選んだわけですが、それぞれ選んだ理由を教えてください。

杉本:堀川裕樹さんは僕が通っていた大学の卒業生で先輩にあたります。今回の作品『fragile』は10年以上前に堀川さんが卒業制作で発表した作品です。なので、僕はビデオでしか見ていないのですが(笑)。タイトルの「fragile」は「傷つきやすさ」とか「壊れやすさ」という意味で文字通り「弱さ」をテーマにした作品になります。暗闇の中をひとり孤独にたゆたう姿や、慎重に光に関わろうとゆらゆらと手を動かす姿は、ビデオ越しで見てもとても繊細で美しかった。この企画が決まった時に真っ先にこの作品が思い浮かびました。ただ、堀川さん自身がコロナ禍以降踊っていない、かつ10年以上前の作品の再演ということで、どうなるのかわからないのですが、そこも楽しみにしていただけたらと思います。

国内ダンス留学@神戸4期を修了している野田容瑛さんには『1(忘)LDK』を上演していただきます。演出家・劇作家の山田カイルさんが書いたインストラクション(“不自由にするもの”)を基にパフォーマーが振付を考え、どう上演(“自由にすること”)をするかというコンセプトで、野田さんがインストラクションに誠実に向き合い作品を構成していた姿が印象的でした。まず、パフォーマンスする場所が3m×3mと決まっているんです。ミニマムな空間でどれだけのことができるのかということ、そしてネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、自由にする方法に儚さを感じて、そこが「弱さの可能性」を感じさせる作品だなと思い選びました。

nousesは、山本晃さんとワトリー理恩さんのダンスチームで、今回踊っていただく『nous』は「横浜ダンスコレクション2021」で「アーキタンツ・アーティスト・サポート賞」を獲得した作品でもあります。即興の作品になります。ふたりはこれまで歩んできた人生が振付にもなると捉えていて、自分や自分たちの人生(すべて)を受け入れた上で自然音の中で踊る。もちろん、2人の深い信頼関係がないとできないことですし、相手のすべてを受容し、踊ることに没頭する姿は思わず心が動かされます。弱さも含めてすべてを受け入れてからこそ生まれるものがあるということを感じさせてくれる作品だと思っています。

 

(杉ちゃんの新長田の好きな場所 ③萬歳湯:昭和20年創業の老舗銭湯。熱めのお湯に身体を浸せば1日の疲れもあっという間に吹き飛びます!)

杉本:僕自身、昔から弱さには力があると思いながらも、それを実感できずにいました。しかし、新長田に来て初めてそれを実感し始めたので、この街の存在はとても大きい。それは、先に述べた下町の助け合い精神、それから阪神淡路大震災の経験や移民との共生といった経験が町自体に寛容性を生んでいるんだと思います。この時代に、この寛容性について向き合うことは、未来の社会を考える上でとても重要だと感じています。コンテンポラリーダンスという媒体を通じて、その寛容性を描いてみたい。3つの作品を通じて「弱さ」のもつ力について感覚し考えていく、そんなショーケースにしたいと思います。

 

――― 本日はありがとうございました!

 

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ダンス・トライアル
杉本昇太キュレーション「弱さの可能性」

◉ 野田容瑛『1(忘)LDK』
◉ 堀川裕樹『fragile』
◉ nouses『nous』

下村唯キュレーション「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」

◉ 下村唯『シャーデンフロイデ日和』
◉ 髙瑞貴×堀之内真平『ROUTE_db』
◉ 長野里音『うみ、うむ』

 

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杉本昇太キュレーション「弱さの可能性」コンセプト

自分のことをずっと「弱い」存在だと思ってきました。他人が怖くて、傷つきやすくて、心のどこかに疎外感や孤独感をもって生きてきました。しかし、新長田に来てDANCE BOXやこの町の人たちは僕を温かく迎えてくれました。初めて自分の「弱さ」を受け入れてくれた感覚がありました。
コンテンポラリーダンスは、既存のダンスを参照しつつ新たなダンスを模索する芸術です。型がなく曖昧で、ある意味「弱い」ところから立ち上がっていくものといえるのではないでしょうか。
弱さのもつ力を受け入れること。それは新たな可能性を生み出すきっかけになります。
今回は3つの作品を紹介します。移民との共生や阪神・淡路大震災を経験し寛容性を持つ新長田という町で「弱さ」について静かに向き合いたいと思います。

―――

【日程】
◉下村唯キュレーション「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」
2024年3月23日(土)14:00

◉杉本昇太キュレーション「弱さの可能性」
2024年3月24日(日)14:00

企画詳細はこちら:https://db-dancebox.org/event/2758/

【会場】
ArtTheater dB KOBE(神戸市長田区久保町6-1-1アスタくにづか4番館4階)

【チケット詳細】
〈一般〉1日券 2,000円、2日券 2,500円
〈割引〉1日券 1,500円、2日券 2,000円
〈高校生以下〉1日券 500円、2日券 1,000円
〈未就学児〉無料
*割引対象:長田区民・会員・U25・障がい者・介助者・65歳以上
*当日券は各200円増し

【予約】
オンライン予約:https://dance-trial.peatix.com/ (Peatix)
もしくはDANCE BOXまで電話・メールにて受付

【お問合せ】
NPO法人DANCE BOX
電話:078-646-7044
メール:info-db@db-danecbox.org

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主催 : NPO法人DANCE BOX
企画・制作:NPO法人DANCE BOX
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(次代の文化を創造する新進芸術家育成事業))|独立行政法人日本芸術文化振興会

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