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「ダンス・トライアル」キュレーターインタビュー 下村唯

ダンスボックスの新たな試みとして、2 名の若手アーティスト/制作者をキュレーターとしたダンス公演企画「ダンス・トライアル」を行います。キュレーター 2 名がそれぞれの企画テーマ/コンセプトに 基づいてアーティストを選出し、最小限の舞台環境のもとで行う、実験的なダンスショーケースです。

今回はそのキュレーターの一人、下村唯(しもむらゆう)さんにお話を伺いました。

企画詳細はこちら:https://db-dancebox.org/event/2758/

下村唯とは一体…?

 

――― 今日はよろしくお願いします。では、改めて自己紹介をお願い致します。

下村:下村唯と申します。振付家、ダンサー、あと舞台監督としてずっと活動しています。今は東京に住んでいて、コンテンポラリー・ダンス・カンパニー「SLEEPWELL」という団体の代表をしています。神戸はダンスボックスがやっている「国内ダンス留学@神戸」の二期ダンサーコースに参加して、そこからダンスボックスが主催している公演にダンサーとして出演させてもらったり、舞台のテクニカルスタッフとして関わらせてもらって、そこで色々と影響を受けることが多かったです。今は結婚して子供が一人、もうそろそろ二人目が生まれてくる、という感じでございます(笑)。

 

――― ご自身はダンサーとして、振付家として、また舞台監督として様々な舞台に関わっていらっしゃると思うのですが、キュレーションは初めてではないですよね?

下村:そうですね、東京で二回ほど自主公演をしていて、それは自分が踊るというよりは、「人の作品をどう取り扱うか」ということに着目してやっていました。一つは「じゃないフェスティバル」というのをやったんですけど、ダンサーや振付家のダンサーや振付家 “じゃない” 部分をピックアップして、例えば「この人は振付家だけどめちゃくちゃHIP-HOPが好き」だったら、HIP-HOPについて語ってもらった後にその人のダンスを観てもらう、とか。そういう “around” ダンス企画(= ダンス自体ではなく、ダンスの周辺にある部分に着目する)みたいなものをやったり。あとは「ひとをどる」という三組の他人のソロ作品を自分が一気に全部踊るやんちゃな企画、しんどいイベントをやったりとか(笑)。

 

――― 自分のその時の立場によって、企画/作品に対して関わり方が異なると思うのですが、キュレーションする時に意識していることはありますか?

下村:まずは「面白いかどうか」という線引きは凄くしていて。これが「社会のために必要かどうか」というのはあんまり意識していないですね。自分自身が皮肉屋みたいなところがあって、みんなが普通にやっていることが果たしてそれは面白いのだろうか?、とか、それ惰性というか慣性の法則に従ってやってませんか?というところに気になる部分があるので、すでに作られている作品とか、今すでにみんなが興味あるものをちょっと組み替えて何か新しいものに変換できたらいいなという意識は凄くあります。

 

なぜ「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」なのか

 

――― 今回のキュレーションの意図や立てた問いはありますか?

下村:まず三組のショーケースっていう縛りがあった中で、自分自身はダンサー/振付家として活動しているので、その中で自分たちがどのように評価を受けて、どのように観客に届いているのか、届けられているのかが最近見えないな、という凄く個人的な気持ちがあって。僕もコンペを見たり出たりしてるけど、なんで受賞したのかがいまいちよくわかっていない(笑)。あと、もっと前だと「トヨタ コレオグラフィーアワード *1」で受賞した人の受賞理由が「今後の日本のダンス界を担って欲しいから」という、作品とは全く違う感情で受賞していたりっていう経緯を目の当たりにしていて。じゃあ、ダンス作品ってなんなんだろうって凄く感じる。その「評価」を、人の評価ではなくて「作品の評価や自分たちの作品は一体どう見えているのか」にフォーカスを当てて見ていくにはどういう括りが面白いか、ということで今回「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」という企画にしてみました。

*1 社会貢献活動の一環として、芸術・文化の分野において国内での舞踊の振興をめざし、次代を担う振付家の発掘と育成を目的に、トヨタ自動車と世田谷パブリックシアターとの提携事業として2001年に設立。ジャンルやキャリアを超えたオリジナリティ溢れる次代のダンスを対象とし、その作品を創り出す振付家のステップアップ及び活動の場の拡大の支援を目的としたアワード。2017年までに10回開催した。

 

――― 下村さんがキュレーターとして作品を選んだわけですが、下村さんご自身も作品を発表します。表面的に見ると批判が起こってもおかしくないというか、凄く特権的に見えると思うのですが(笑)。

下村:(笑)

 

――― 今回、なぜ自身の作品を発表しよう、発表すべきと思ったのですか?

下村:普通のキュレーション企画だと、自分の作品をその中に入れるというのは強権的だなというのは僕も同じ気持ちですが、今回は出演者は人に点数を付けられるわけです。これは結構危ういというか、ダンサー/振付家にとっては怖いし、なるべくそこ(= 点数/評価)は曖昧にしておきたい気持ちが無くはないと思います。自分たちが評価される、品定めされる、順位付けされる場所に、僕だけが出ずに他の人を充てがう事の方がむしろ強権的な気がしていて。だったら自分もちゃんとアーティストとして評価を受けることで折り合いを付けたほうが良いのではないか。そうすることで、やっと参加してくれるアーティストとも対等になるんじゃないか、むしろこっちの方が軋轢が生まれないのではという意図があります。

 

 

出演者の選考理由とファシリテーターの重要性

 

――― 三組いる中で、髙さんを選んだ理由は?

下村:髙さんは「横浜ダンスコレクション *2」で受賞される前から僕の作品に出てもらったり、彼女の作品を僕のフェスティバルに呼んだり、彼女の作品を僕自身が踊ったり、作品も、ダンスも、ムーヴメントも含めて信頼している人です。なので今回、髙さんにはこの企画の構想段階からキュレーション内容についてダンサー/振付家の目線で話をしてもらっていて。僕は「作品に対してもっとフォーカスできるような企画をやりたい」と話をしていたんですが、彼女が「その作品にフォーカスできるっていうのは一体誰が?」という話になって。確かに「誰がなんだろう」と。アーティスト自体が作品にフォーカスしても良いし、観客が作品にフォーカスしても良い。じゃあ、どのような目線で観客に観てもらうのが一番良いかを彼女は凄く真剣に考えてくれて。後にこの企画を思いついて彼女に相談したら「凄く面白いですね」と言ってくれたので、「だったら出ます?」と(笑)。しかも、精神的に苦痛を伴う企画になると思うんですよ。ちゃんと完成された作品じゃないといけないし、ある種の主張やアイデンティティもさらけ出されてしまう。そういう企画だからこそ既に評価をされているアーティストを一人置いておくことで、観客に対して「今のところこの人の作る作品が東京で評価をされている」という提示にもなります。だからどうって訳でもないですが。それが神戸の観客層にはどう届くのか、一つのラインになる気もしますし、ダンサー/振付家がどれだけボロカスに言われても大丈夫っていう強靭なメンタルの持ち主かどうかも凄く重要ですかね(笑)。別に僕は誰かを傷つけたい訳じゃないので。ちゃんと評価に耐えられる、評価されたことがある人を入れておかないと、誰にとっても楽しくなくなってしまうんじゃないかな。

*2 世界的な振付コンクールの日本プラットフォームとして1996年にはじまったコンペティション

 

――― 三組の最後の枠を公募制、しかもジャンケンで決めたのは何故だったのでしょうか?

下村:キュレーションって普通は自分が面白いと思ったアーティストを充てがう訳じゃないですか。今回基本的に僕が充てがっているのは、観客とアーティストの関係性です。作品そのものよりも、もっと広い範囲をキュレーションしているので、自分の好きなアーティスト、興味のある振付家だけを入れると、そこに意図が生まれてしまう。自分が観てほしいアーティストからは少しズラしたいと思ったので、自分が全く意図していないアーティストに参加してもらうことによって、企画として観客とアーティストの関係性にフラットにフォーカス出来ると思い、今回は一組公募にしました。長野さんは今回初めて自分で作品を作るので、とても楽しみにしています。

 

――― ファシリテーターとして福田恵さんが存在します。ファシリテーターを入れた理由を教えてください。

下村:えっと、真面目にならないように(笑)。評価をするというのは、ある種学術的な部分もあり、ややもすればヒエラルキーが生まれてしまう可能性もあり、みんな凄く真面目になると思うんです。「評価するんだし、ちゃんとしないと」とか。でも、そういうことではない。むしろ点数を付けることによって、ダンスをより深く楽しむことが今回の凄く大きな目的の一つなので、とにかく評価する場を面白くしないといけない。なので、多分、大阪で一位二位を争うくらいのコメディエンヌであるレトルト内閣の福田さんに来てもらい、とにかく観客に楽しんでハッピーな気持ちで点数を付けてもらいたい。M-1グランプリみたいな、点数を付ける人も居るしそれを見る人もいるし、作品に対してワイワイ言える場作りに一役担ってもらおうと思いました。

 

 

――― では、最後に観客に向けてのメッセージをお願いします!

下村:そうですね、評価というと緊張するというか、本当に自分がしていいのかな?という思考に陥りがちで、また、ダンスは評価とかそういうことじゃないと思う人もいると思います。僕もそう思いますし。ただそこを前提として、ダンスに評価を与えるのではなくて、ダンス「作品」に評価を与えることでダンスを深掘りしていく。強権的に評価を与えていくというよりは、もっとダンスを深く楽しんでいく一つの試みとして、今回の企画を楽しんで欲しいと思っています。少しアンビバレントな感じがありますが、M-1も評価をするから面白い部分があると思います。評価をベースに何が良くて何が良くないのか、みんなで話すことができる。なんというか、少しいやらしい楽しみ方(笑)。曖昧に楽しむのもいいけど、ちょっとパリッと楽しむのも良い。少なくとも、今回参加する三組はあなたの評価を欲してます(笑)。そうやって、自分の作品が色んな咀嚼を受けて噛み砕かれることで、本質的なものが見えたり、そこで観客と対話をすることで作品を通してコミュニケーションが生まれていくことは、僕たちは全然ない機会だし本当に求めています。この曖昧な世界から僕たちを助けてください(笑)。そういった気持ちなので、ぜひお越しください!

 

――― 本日はありがとうございました!!

 

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ダンス・トライアル
下村唯キュレーション「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」

◉ 下村唯『シャーデンフロイデ日和』
◉ 髙瑞貴×堀之内真平『ROUTE_db』
◉ 長野里音『うみ、うむ』

杉本昇太キュレーション「弱さの可能性」

◉ 野田容瑛『1(忘)LDK』
◉ 堀川裕樹『fragile』
◉ nouses『nous』

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下村唯キュレーション「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」コンセプト

「芸術に点数をつけるのはあり?」「コンペって本当に必要なの?」「作品の感想って、みんなどんな感じで考えているの?」 ダンス作品はその抽象的な性質上、評価も曖昧になることがあります。本公演では、3作のダンス作品を実際に鑑賞し、その作品ごとに観客全員で点数をつけ、それを元にダンス作品を探求し、ダンス作品と、作品の作り手、受け手の適切な関係を考えます。 「ダンスとは何か」「なぜ踊るのか」「大切なことは何か」 ダンス作品をみんなで楽しみ尽くしながら、これからのダンスの行方を共に追っていきましょう。

―――

【日程】
◉下村唯キュレーション「ダンスの行方 ~みんなでダンス作品に点数をつけてみる~」
2024年3月23日(土)14:00

◉杉本昇太キュレーション「弱さの可能性」
2024年3月24日(日)14:00

企画詳細はこちら:https://db-dancebox.org/event/2758/

【会場】
ArtTheater dB KOBE(神戸市長田区久保町6-1-1アスタくにづか4番館4階)

【チケット詳細】
〈一般〉1日券 2,000円、2日券 2,500円
〈割引〉1日券 1,500円、2日券 2,000円
〈高校生以下〉1日券 500円、2日券 1,000円
〈未就学児〉無料
*割引対象:長田区民・会員・U25・障がい者・介助者・65歳以上
*当日券は各200円増し

【予約】
オンライン予約:https://dance-trial.peatix.com/ (Peatix)
もしくはDANCE BOXまで電話・メールにて受付

【お問合せ】
NPO法人DANCE BOX
電話:078-646-7044
メール:info-db@db-danecbox.org

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主催 : NPO法人DANCE BOX
企画・制作:NPO法人DANCE BOX
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(次代の文化を創造する新進芸術家育成事業))|独立行政法人日本芸術文化振興会

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