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10期公演インタビュー Newcomer/Showcase#2 石田満理佳、小國陽佑

国内ダンス留学@神戸10期では、 Newcomer/Showcase#2 石田満理佳『たゆたえども、沈まず』2月1日(土)・2日(日)にArtTheater dB KOBEにて上演します。

本公演は「写真」と「身体」の関係性を表現の軸とする石田満理佳さんが、dBクリエーション・レジデンス・アーティストとして新作を発表します。
今回は公演に向けて、新長田を拠点に活動するNPO法人 芸法の理事長で、神戸六甲ミーツ・アート2024 beyondのキュレーターや下町芸術祭のディレクターとしても活躍している小國陽佑さんをゲストに迎え対談を行いました。
小國さんは石田さんがレジデンス中のアトリエとして利用しているジョブスペースラボのオーナーでもあります。
今回はその対談の様子をお届けします。

公演の詳細は【こちら】

石田満理佳さんの遍歴
−「写真」と「身体」をテーマにするまで−

―――石田さんの経歴を教えてください。

石田:石田満理佳(いしだみりか)です。東京芸術大学 先端芸術表現学科 修士2年です。「写真」と「身体」をテーマに作品を制作しています。多摩美術大学の演劇舞踊デザイン学科で舞踊を専攻していて、卒業制作前に骨折しました。手術して舞台には上がったのですが踊れなくなった身体で今後どうするか、自分以外の体でどうダンスを表現しようかと考え、写真という媒体を選びました。その前に2,3年フリーで舞台写真家をしていました。いろんなダンスの撮影や海外公演の帯同スタッフをさせていただく中で海外に行きたいと思い、1年間ノルウェーへの交換留学を中心にヨーロッパ各国での活動をして、去年の8月末に帰国しました。

小國:出自が面白いですね。途中でうまいことハイブリッドしてますね。

石田:幼少期からバレエをやってたんですけど、高校生で身体の限界を感じました。そのときに勅使川原三郎さんに出会い、彼が教鞭を取っている大学に入学しました。自分の持ってるクラシックバレエの概念を解放したり崩すことから始めていき、勅使川原さんのメソッドを4年間学びました。

小國:多岐に渡って枝わかれしていくんですね。

石田:今は写真を身体表現としてどう作品化するかを考えています。アナログ写真における暗室作業は、とてもダンスに似てると思っています。暗室という箱の中。そこで自分が撮った写真と向き合うこと。印画紙を現像液に浸していく作業の中で「これだ」と思う黒白のトーンを選択するというテストを繰り返していきます。それがダンスにおける鏡や身体と向き合い、自分の中で“何か”を見つける作業とリンクしました。今回はそのプロセスを劇場で立ち上げることを実験的にやっています。

小國:暗室いわゆる密室性を解放する。本来は見せる場じゃないそれをあえて公開するというのは挑戦的ですね。
今まで暗室化されてたものを他者と共有し、そのプロセスで外部とどう接続して拡張していくかですよね。それは石田さんが写真とかメディアをたくさん扱っているからですか。あるいは自分がもともと外部に開いてたんですか?

石田:きっかけはどうやって舞台芸術を他の人に広めていくかというところからです。その時コロナ禍だったので、Instagramなどの見て読み取れるもの、視覚的な効果のあるコンテンツが流行っていました。あと両親の影響でフィルムカメラに触れられる環境が身近にありました。だから写真をちゃんと勉強したいと思っていました。
写真は作者のエゴとして1枚で切り取られているところがダンスと真逆だと思います。ダンスは見ている人の視点に委ねられている。けれど写真は1枚のフレームの中でなにが起こってるかを考える。だからあえて同じ場でやろうと思ったんです。
最初に「写真」と「身体」をテーマに作った作品は、私のセルフポートレートを等身大にプリントしたものを舞台美術として扱いました。そのポートレートは、カメラに向き合い私がパフォーマンスしている所を撮ったものです。モノクロで撮ったので現像するまでなにが起こっているかわからないという不確かなことを続けていきました。その写真を舞台美術として置いて、撮影の時に起きた出来事や動きを、自分自身が写真の影響を受けながらパフォーマンスをする作品を作りました。また、パフォーマンスをしてない時間も写真は展示として成り立ちます。
ダンス公演は時間が制約としてあるので、どうしてもお客さんの時間を縛ってしまう。でも展示は時間に縛られることなく存在することができる。それに可能性を感じて私は映像ではなく写真を選んだ。そして今の表現に繋がっています。

小國:かつてそこにあったものは、それを目撃した人も「目に焼き付ける」という不確かなものでしか捉えることができない。だから見る視点によって捉え方が異なる。要素として写真とパフォーマンスを並列させるのが面白いですね。
あと、舞台芸術を広めるきっかけで写真を選んだとおっしゃっていましたね。写真を導入として舞台を見ると眼差しも変わると思います。舞台を見る時にカメラ的な視点になるとか、見るモードやフィルターが変わりそうだし、レイヤーとして写真という要素が一つあると捉え方が何層にも変わると思います。
写真はインスタレーションとして舞台上に共存させるということですか?

石田:そうです。そういうものを修士とか留学中もつくっていたんですが、インスタレーションではできないことを劇場でどう立ち上げるのかをこの作品では取り扱いたい。

 

 

サイアノタイプという手法

石田:今回、写真をどうやって舞台美術として表現しようかと思ったときに「サイアノタイプ」という写真の手法を使おうと思っています。

小國:「サイアノタイプ」?

石田:日本ではやっている人があまりいないんです。まず紙に光を吸収する薬剤を塗ります。その上に転写したい像を置いて30分ぐらい日光に当てておく。そうすると青い像が浮き上がる。「サイアノタイプ」は、薬剤が塗れれば転写する素材は選ばないことが強みです。今回はガラスに転写しようとしています。新長田の「旭屋ガラス」さんからガラスの端材をいただいて、そこに像を定着させたものを美術として扱いたい。それを写真として表現できたらと思っています。その製作を、お借りしているジョブスペースラボで行なっています。

小國:実は、昨日の夜に別の美術をジョブスペースラボから搬出してたんですよ。その時に入口のシャッターを開けた途端風がふわーっと入ってきて、そしたら、何かがふぁーっと、ふぁーっとね、舞ったみたいで……。それがどうやらガラスに載せていた紙が飛んでしまったようで。どうしようとなって……。それを今この場で謝ろうと。

―――いまそれを言うんですか(笑)

一同笑

石田:そうなんです。載せてるだけなので定着しないんですよ。ゼラチンを混ぜているんですが、乾きすぎるとめくれてきて。その処理をどうしようかと思って。

小國:すみませんでした。

石田:全然大丈夫です(笑)あれは本当にテストなので。

小國:他のスタッフとこれはなんだろうと話してて(笑)。よく見ると写真で、ガラス自体に細工するのは すごく面白いですね。鏡面というところで、ジョブスペースラボも見る・見られるの関係を反転させるというか、お互いの協働になるような仕掛けの部屋にしてたので、今話を聞いていると、ぜひあの場所に石田さんの作品を展示してほしいと思いました。

 

 

「たゆたえども、沈まず」というタイトルについて

小國:「たゆたえども、沈まず」というタイトルもいいですね。

石田:フランスのことわざです。セーヌ川の船乗りの言葉で「どんなに激しい天候でも、船さえ沈まなければ大丈夫」という意味です。それは自分が怪我をしたときに先生に言われたことでした。一直線にやるのではなく、違う方向から枝分かれのようにダンスに関わっていくことがこの言葉とリンクしました。「たゆたう」という言葉の持つ「ゆらめいている」という意味も、ダンスに置き換えられそうな気がしています。タイトルの「沈まず」というのが、「たゆたう」中に残る“写真”だと思っています。つまり、時間が流れていくなかで残るのが「沈まないもの」、つまり「写真」みたいな記録として残されていくものなのかなと解釈しました。
このタイトルを出すのが本当に大変でした。私はいろんな人に話すなかで見えてくるので、写真とダンスの両方面の人に構想や、それを包括するタイトルはどうやって出てくるのかの話をしていました。そうしたらある時ふっと出てきたんですよ。誰かが言ったとかではなく、新長田に向かう新幹線の中で調べ物をしているときに出てきて。「やばい、今日タイトル出さなきゃ」みたいなときに(笑)

小國:いいですね。人と人の合間に挟まれて。いろんな解釈ができるけど、「たゆたう」という言葉の意味もいいなと思います。石田さんのこれまでの歩みも、どれかに一本化するのではなくいろんな分岐があって、それらを肯定しながら狭間をたゆたっている。それらの視座から見たものの解釈は多様であるのと同時に、一方の見方に対して他方にもなれるのが面白いですね。「たゆたう」というのは「揺れる」とも違うし振り幅があるわけでもない。「たゆたう」という動きにいろんなものが内包されていますね。

 

 

小國さんが新長田を拠点にした理由

―――石田さんから小國さんに質問はありますか?

石田:小國さんはなぜ新長田に拠点を移したのかお聞きしたいです。

小國:それもまさにたゆたうようなもんですよ。僕は豊岡出身で、いま演劇の街として盛り上がっていますが、出自としてはあまり関係なくて。
僕は新長田の路地がすごく好きで。なぜかというと子供のころ根暗な人間で、友達がいなかった。家にも学校も居場所がなくて、家と家の間でスティーヴン・キングの本とかをずっと読んでました(笑)。それが居心地よくて。ふすまの中とか人の目が入らない、プライベートとプライベートの狭間というか「間」みたいなところが好きで。新長田の路地はいいなと。その境界線上で、みんなが会話したり、ダンスしたり、洗濯物を干してたりという様相が面白くて。新長田に拠点を移す前の話ですけども、私が代表を務める芸法で、面白い場所で展示を企画したいなと思い、新長田まちづくり株式会社の人に丸五市場を教えてもらいました。そのあと、数珠つなぎにふたば学舎になる前の旧二葉小学校や角野邸という面白い場所があるよと。
だから当初は新長田を選んだ意図はあまりなくて(笑)。でもせっかくいただいた縁を無駄にしたくないので、今になってこれまでしてきた活動の意味を捉え直しています。でも実際は、このまちなんか心地いいなっていう素朴な感覚でやってますね。
始めた当時は特に若手アーティストを中心にサポートしてたんで、いきなりサイトスペシフィックなものをやると戸惑う。そういうときに新長田のスケール感は何かを立ち上げるにはちょうどまちや古民家のサイズ感がよかった。隣接してるけれど互いに脅かさないという距離感があります。それで地域の皆さんやDANCE BOXさんとの協力でなんとかなっています。

 

 

「たゆたう」とは新長田の町そのもの

―――レジデンス中のアトリエとして使用しているジョブスペースラボはいかがですか?

石田:本当に良い空間で、かつレジデンス施設からも近いのですごく環境が良くて。ああいう場所を自分でも持ちたいなと思います。

小國:ジョブスペースラボの設計は、壁に穴を開けて正方形のガラスを入れるのが一番大変でした。でもどうしても窓を開けたかったんです。
地域の人と話をすると、芸術やアーティストに関心はあるけど話すための共通項がない。でもアーティストは地域のおばちゃんの生き様とか、バックボーンをすごく見たいと思っている。その関係性の分離をすこしでも解消したかった。スクエアのガラスはバリアのようにも見えるけど、お互いがお互いを見れるような構造にしました。あとカフェの機能も作りました。カフェにいるおじいちゃんおばあちゃんはアーティストのやっていることも見れる。言葉を介さなくても、とりあえず見るだけでいいという。
あと「まちなか防災空地」を作りました。この防災空地も誰のものとも言えないみんなの場所。非常時は避難場所でもあり、平時は子供の遊び場でもある。そのようなたゆたえる場所を作りました。「たゆたう」って、まさに新長田そのものですね。僕自身このまちにあまり意図せずとも漂流してきたような人間かもしれない。その場にとどまっているように見えても、不動というわけじゃなくてちょっと微細にゆれ動いている。地団駄踏んでる感じにも見えるし、ぐずってる感じも見える。でもそんな自分をこのまちは肯定してくれてるように感じましたし、このまちに救われた人もきっといるんじゃないかなあと感じます。
昨日、行政の方に「現代アートって中二病ですね」と言われて(笑)。他の人にも、こんなに自由な活動を行政の委託ではなかなかさせてもらえないですよと言われたり。そんなたゆたう時間をもたらしてくれているというか、その状態を一旦よしとしてくれる。その感じはすごくいいなと。「たゆたうからこそ沈まない」というのも、人の活動全体に言えることですね。また、このタイミング(インタビューは阪神淡路大震災30年目の前日1/16に実施)もあって、震災のこととたゆたうという言葉になにか関係性を感じます。

 

 

 

作品の見どころ

―――石田さん、最後に作品の見どころを教えてください。

石田:今回、私を含めて4人が出演します。東京・神戸のさまざまなバックグラウンドをもった出演者たちが繰り返し「何か」を提示します。その中での変化を見てほしい。わかりやすく言うと、写真でいう現像のあり方を見てもらえたらいいのかなと。

写真は瞬時に全体を見ることができる。けれどそこにはデジタルでは表せない工程をたくさん積んでいます。その工程を積むことを4人がやっている。その内的なものをどう拡張して自分のパーソナルな部分が立ち上がってくるのか、写真や空間を通して共有していく場を見てほしい。だから、ダンス作品というよりは、時間の経過を楽しんでもらいたいですね。楽しみ方は人それぞれでいいんです。現代アートを時間をかけて見るようなイメージですね。それを見て想起するものや、記憶を照らし合わせたりして、少しでもものの見方が変わるような作品にできたら良いなと思います。

―――ありがとうございました。

 

 

 


国内ダンス留学@神戸10期 Newcomer/Showcase#2
石田満理佳『たゆたえども、沈まず』

2025/2/1(土)18:00-、2/2(日)14:00-
会場:ArtTheater dB KOBE

公演詳細はこちらからご覧ください。

 

▲チラシ画像(表)(裏)

この記事に登場する人

石田満理佳

1996年、東京生まれ。幼少期から谷桃子バレエ団研究所でバレエを学ぶ。自身の怪我によって「踊れない身体」を経験し、「写真」と「身体」を融合させた新たな視覚体験を創造する作品作りに取り組む。留学を通じ、国内外のアートシーンで多岐に渡る写真展示やパフォーマンスを経験。これを活かし、多様な文化や視点を作品に取り入れ、常に新しい視野での挑戦を続けている。多摩美術大学演劇デザイン学科を一期生として卒業し、現在は東京藝術大学先端芸術表現科修士課程に在籍中。

2024年8月26日 時点

小國陽佑

1984年兵庫県豊岡市生まれ・神戸市在住。近年ではNPO法人芸法として長田区駒ヶ林町に拠点を移し、様々な地域活動を通じてアーティストの表現活動の支援を行う。また、関西圏内でのアートプロジェクトのディレクターも兼任(下町芸術祭、生野ルートダルジャン芸術祭、川西まちなか美術館、学園前アートフェスタなど)。
https://npo-geiho.jimdofree.com/

2023年4月6日 時点

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