【国内ダンス留学@神戸】修了生インタビューvol.3
プロのダンサーや振付家、制作者を志す人を対象とした育成プログラム「国内ダンス留学@神戸」の8期生募集を開始しました。「国内ダンス留学@神戸」では、神戸・新長田の劇場ArtTheater dB KOBEを拠点に、2022年7月末から2023年3月までの8ヶ月間、座学・実技を通して徹底してダンスに取り組みます。
本企画では、ダンス留学修了生にインタビューをし、ダンス留学の8ヶ月を振り返るとともに、現在の活動や留学で得られた気づき、そしてこれからこのプログラムに挑戦しようとする8期生への想いなどを語っていただきます。
第3弾は2012年度に実施された国内ダンス留学@神戸1期生にインタビューを実施。1期では、ダンサーコース・振付家コースの2つのプログラムが用意され、全国からバラエティに富む16名(うち修了者は14名)が参加し、共に学びそれぞれの作品を創作・発表しました。そのなかでも今回は、松本鈴香さん、斉藤成美さん、そして中西ちさとさんにお話を伺います。
Q. 自己紹介と最近の活動を聞かせてください。
松本鈴香(以下、松本):松本鈴香(まつもとすずか)です。わたしは子どもの頃からクラシックバレエ一筋で踊ってきました。近畿大学の舞台芸術専攻に進学したことをきっかけに、コンテンポラリーダンスに出会い、その魅力に惹かれました。大学卒業後は就職せずにダンスの道を模索していたところ、国内ダンス留学のことを知り、新たな道への第一歩になるのではないかと思い、ダンサーコースに参加しました。ダンス留学修了後は、2014年にニューヨークのPeridance Capezio Centerへ留学し、4年間アメリカを拠点に活動していました。2018年に帰国してからは、関西を中心にダンサーや振付家として活動しています。最近は指導にも力を入れていて、バレエやコンテンポラリーダンスを中心に子どもだけでなく大人のダンス初心者の方にも指導をしています。最近の出演作品でいうと、今年2月に兵庫県洋舞家協会が主催する「洋舞スプリングコンサート」で冨川亜希子さんの「Beneath The Blue Sky」という作品に出演しました。
斉藤成美(以下、斉藤):国内ダンス留学1期のダンサーコースを修了した斉藤成美(さいとうなるみ)です。振付家やダンサーの活動と並行してデザイナーとしても活動しています。日本大学の芸術学部デザイン学科を卒業していて、似顔絵師として活動していました。その活動のなかで、絵を介さないコミュニケーションのあり方を探っていたところ、ダンスに行き着きました。もともとバレエの経験はあったので、もう一度ダンスの道に進もうと考え、会社を辞めてダンス留学に参加しました。ダンス留学修了後は、日本各地の土着芸能のフィールドワークを行っていて、滋賀県朽木古屋にある六斎念仏の継承活動や、長野県天龍村向方地区のおきよめ祭り、神奈川県小田原市の栢山田植歌の保存会などに参加しています。この活動を通じて、さまざまな文化の間で揺れ動く現代の身体について思考し、表現活動を行っています。また、Antibodies Collective(アンチボディコレクティブ)というパフォーマンスアーティストの集団にも所属しています。2019年には、東京墨田区で開催されたアートプロジェクトにて「列柱の詩」という隅田川沿いに眠る記憶や歴史を紡いだ儀礼際のようなダンス作品を創作し発表しました。
中西ちさと(以下、中西):振付家コースに参加した中西ちさと(なかにしちさと)です。わたしは近畿大学の演劇芸能専攻の演技コースで演劇を勉強しました。週に2コマあったダンスの授業で、ダンスの自由な表現に衝撃を受けて、それからダンスの創作をするようになりました。大学卒業後は、劇場を借りて作品の発表を行っていましたが、新たな出会いやもっといろんなダンスを知りたいという思いが募り、国内ダンス留学に参加しました。修了してからは、「ウミ下着」というパフォーマンスグループを立ち上げ、活動しています。初期の活動では、インタビューをもとに作品をつくるようなドキュメンタリータッチの作風で活動していました。今はダンスが立ち上がる過程を大事にしたいと思い、ダンス公演の仕組みから考え直したり試行を重ねています。2019年には「ダンスの天地」というショーケース公演で「Umishitagi 1st GIG」という作品を発表しました。この作品は、ダンスカンパニーに根付くヒエラルキーを解体して全員をバンドマンになぞらえ、セッションをしながら全員で創作しました。この作品は2021年の「ヨコハマダンスコレクション」にてファイナリストとして上演されました。最近は、長引くコロナ期間に滅入ってしまい、ポジティブな作品制作ができないことから、リハビリテーションと称して創作の糸口を探すような活動をインターネット上で行っていて、Instagramのライブ配信やnote、twitterで発信しています。
Q. ダンス留学の8ヶ月間を振り返って感想を教えてください。
松本:もう修了して10年になるんですね。わたしは関西に住んでいたので、家から通っていたけれど、参加するために移住してきた人たちとは感覚や覚悟が違ったんじゃないかなと思います。わたしは大学を卒業してすぐに参加したけれど、仕事を辞めて参加する人もいたし、スタートラインからモチベーションや感覚が違ったかもしれないです。
斉藤:わたしは、仕事を辞めて移住して参加したけど、参加を決意したきっかけはいろんなタイミングが重なってのたまたまでした。転職を考えていた時に、国内ダンス留学の白黒コピーのチラシを見つけて、おもしろそうだなって思ったのがきっかけです。新長田に移住してからは、同じダンス留学に参加していた、くはのゆきこさんと福森ちえみさんと一緒にDANCE BOXのレジデンス施設に住んでいました。喧嘩もたくさんあったけど、おもしろい思い出です。
中西:他の期と比べても1期は特に年齢の幅が広かったです。10代・20代の血気盛んな人たちから30代後半の落ち着いた人までさまざまな性格の16名が参加していました。バックグラウンドや活動拠点も全然違う人が集まったので、すごく刺激的で濃縮された8ヶ月間でした。講師や講座もすごくバラエティ豊かで、振付家だけでなく批評家の講師がいたり、お能について学ぶ機会があったりと、金額的な意味でも、個別のプログラムに参加するのでは得られない豊富な体験がぎゅっと凝縮されていました。
───8カ月間のなかで忘れられないエピソードはありますか?
松本:10年前のことですが、いろんな記憶が断片的に残っています。中でも自分の変化のきっかけになったエピソードがあります。1期では、WS(ワークショップ)や座学で学ぶプログラムが終わった後に、振付家がダンサーを選ぶ選考会の機会が何度かあったのですが、はじめての選考会の際に誰にも声をかけられなかったことが強烈なインパクトとして記憶に残っています。すごく悲しくて、その時の感情は今でも色濃く覚えているのですが、これが自分を見つめ直すきっかけになりました。10年経った今に思えば、ダンス留学に参加してよかったと思える出来事ですね。
斉藤:わたしは、暮らしながらダンスに向き合う両立がすごく大変だったことを思い出します。会社を辞めてダンス留学に参加したので、退職の3ヶ月後にもらえる雇用保険と貯金だけでやりくりしないといけなくて。もちろん働かないと生活できなかったので、新長田にある地元のスナックでバイトをしていました。それがすごく思い出深いです。自分とは縁もゆかりもない地域なのに、スナックで働くことで地域の人と接点が持てて、一緒にカラオケを歌ったりしていました。一つの拠点にどっぷりつかったからこそ、ダンスだけでなく、生活面でもさまざまな経験ができたと思います。
中西:わたしは今振り返ると、みんなすごい熱量で作品に向き合っていて、そういう切磋琢磨できる環境があったのはすごくよかったと思います。わたしは25歳のときにダンス留学に参加して、そのときはまだ直情的でクリエイションの時に人にきつくあたってしまうこともよくあったんですよね。そういう創作の仕方は最近はもう辞めたんですけど。だけど当時の、わたしがぶつけた想いにダンサーも全力でぶつかってきて、衝突しながらも一緒に作品を作る環境って今思うとすごいと思います。あの時は公演に対して採算を考えずに、純粋に創作のことだけを考える濃厚な時間でした。創作に勝ち負けはないけど、成果発表には7つの作品の中から2つ選べることになっていたので、静かにも明からさまにも闘志を燃やしながら同じ空間で刺激を受けて協働できたのはいい思い出です。10年たった今、もう一度そういう現場に身を投じてみるのもおもしろいかもと思っています。
松本:たしかにダンス留学でダンスへの姿勢が変わりました。みんな生半可な気持ちで作品に取り組んでいるわけじゃないからこそ、たくさん衝突もしましたね。だからこそ本番に向けて必然的に士気を高めて行けて、大学時代とは自分の作品への打ち込み方も周りの真剣さも全然違いました。経験も考え方も年齢も違う人たちが集まって、喧嘩しながらも意見を出し合い、常に作品のことを考え続けられたのは今までにない濃い経験だったと思います。
国内ダンス留学@神戸1期 成果公演 福森ちえみ振付『Without Sugar』より
Q. ダンス留学に参加したことでの効果や変化したことはありますか?
松本:わたしは先ほど話したエピソードと重なるのですが、ダンス留学では自分が変わる大きなきっかけを得たと思っています。ダンス留学中に答えが出たわけではなかったので、修了後もダンスを仕事として続けるか趣味としてわりきるか悩んでいました。その後参加した黒田育世さんのワークショップで、そのもやもやが晴れて見えたものがあって、ニューヨーク留学への決心につながっています。最終的にニューヨークで自分のダンススタイルが見つけられました。今思うと全てダンス留学での経験から生まれた流れだと感じています。
斉藤:わたしはダンス留学中に受けた座学からたくさん影響を受けています。ダンス批評家の武藤大祐さんの講座でアジアのダンスの背景をめぐる映像や、手塚夏子さんの「ダンス解体新書(伝統芸能)」の講座で学んだことが、今の土着芸能のフィールドワークの活動につながっています。身体を動かすだけでなく、座学によって知識を得たことで、人の身体や動きは何をもとにして生まれたのだろうか?といった今の創作活動の根本になる疑問が生まれました。岡登志子さんのコンテンポラリーダンスのレギュラークラスで学んだドイツ表現主義のメソッドもすごく好きでした。だから東京に戻ってからも岡さんが主宰するEnsemble Sonne(アンサンブルゾネ)に所属する岡本さんと、そのメソッドを用いた研究会を開催しました。ダンス留学で生まれた繋がりは今もとても活きています。
中西:わたしはダンス留学に参加したことで得られた同期とのつながりがすごく財産だなと思います。いろんな年齢の人たちと同じ体験を共有し、ライバル意識を持ちながら8ヶ月間過ごしたので、自分にとってすごく刺激を受ける人たちです。だから修了後も独特の感覚でみんなの活動を見つめていることに気づきました。仲間意識なのかライバル意識なのか、他で出会ったアーティストの繋がりとは違う感覚です。長く話をしていなくても、動向が気になるし、活躍をしていたら自分ごとのように嬉しいし、力をもらえます。今同期の西岡樹里さんと木村玲奈さんと2期生の内田結花さんと毎週1回グラハム・テクニックを学ぶ会をしてます。トレーニング後に軽く話したりしますが、同じ留学経験者だからこそ腹を割ってなんでも言える間柄だなと思います。
Q. 最後に、ダンス留学8期を目指すみなさんにメッセージをお願いします!
松本:わたしは自分の経験から、ダンスに携わることに対して生半可な気持ちではなく覚悟を持って参加して欲しいと思います。だけど、ダンスの道に迷いがある人にこそ受けてもらいたいとも思っています。ダンスに対して自分がどう向き合うのかわからない人、すでに自分の中に確立したものを持っている人、どちらの人でもダンス留学に参加することで新たな視点やプラスになることが必ずあると思います。ダンス留学中にはっきりと答えが見つかるわけではないかもしれないけど、わたしのように次のステップへのきっかけとなる体験があると思います。
斉藤:わたしはダンス留学はいろんな人に影響を受けるいい機会になると思っています。講師や同じ留学生、テクニカルスタッフ、DANCE BOXスタッフ、そして生活の周りにいる人などにたくさん触れ、自分の中に新たな価値観が生まれる期間になると思います。ダンスは頭より身体で感じるイメージがあるかもしれませんが、ダンスは思考や対話もすごく大事だなと気づきました。なので、いろんな人たちと一緒にダンスについて掘り下げて思考していける機会があるのはすごくいい体験だと思います。
中西:8ヶ月間の移住や通学は、金銭的にもいろいろと不安があるかもしれません。実際苦労することも多いと思います。だけどそれはこれからダンスの道を進むならついて回る問題です。わたしはダンス留学のなかで生活とダンスをどう繋げていくかを実践しすごく勉強になりました。ダンス留学は場所と時間と人がすごく濃い密度でつながっている期間で、きっと参加したことを後悔しないと思います。一度ギャンブルで飛び込んでみるのはいかがですかと背中を押したいです。
プロフィール
左から 松本鈴香、斉藤成美、中西ちさと
松本鈴香(まつもと・すずか)
幼少の頃よりクラシックバレエを習う。近畿大学文芸学部舞台芸術専攻卒業。 2014年、米国Peridance Capezio Center に留学。その後NYを中心にプロフェッショナルダンサーとして活躍し、現在は日本を拠点にダンサー 、振付家、指導者として活動を継続。 Julia Ehrstrand、冨川亜希子、新屋滋之、その他振付家の作品に多数出演。 2019年にはSeed Dance Company(台湾)と作品を制作、提供する。 Peridance Capezio Center(NY)、ジョフリーバレエスクール(NY)、Steps on Broadway(NY)、Broadway Dance Center(NY)、台南應用科技大学(台湾)にて指導及びアシスタント経験を持つ。
斉藤成美(さいとう・なるみ)
振付家・ダンサー・デザイナー。日芸デザイン学科卒。ダンス留学@神戸1期卒。来たるべき田楽研究会。元似顔絵師。現Webデザイナー。Antibodies Collectiveメンバー。 クラシックバレエ等西洋のメソッドに親しみながら、日本各地の土着の儀例祭のフィールドワークや、山伏の修行、滋賀県朽木古屋六斎念仏の継承活動、長野県天龍村向方地区のおきよめ祭り、神奈川県小田原市栢山田植え歌等に参加し、様々な文化の間で揺れ動く現代の身体について思考しています。
中西ちさと(なかにし・ちさと)
振付家・ダンサー。大学在学中にダンスに出会い、創作を始める。パフォーマンスグループウミ下着主宰。国内ダンス留学@神戸一期生。2013年〜釜ヶ崎芸術大学ダンス部顧問。西宮市キャラクターへの振付、子供向け劇場ツアーの演出、演劇への出演、平均年齢70歳のダンスグループの指導など活動は多岐に渡る。2021年ヨコハマダンスコレクションファイナリスト。
「国内ダンス留学@神戸」とは・・・
プロのダンサーや振付家、制作者を志望する人を対象に、2022年7月末から2023年3月までの8ヶ月間、神戸・新長田の劇場を拠点にして、座学・実技を通して徹底してダンスに取り組むプログラムです。2012年度から実施し、これまで67名のアーティスト、制作者を輩出しています。国内外の第一線で活躍する豪華講師陣による講座やワークショップ、また、振付家を招聘しての公演、作品制作、成果上演など、8ヶ月かけて自身の身体や思考を駆使し、日々ダンスに打ち込みます。