垣尾優×余越保子
Newcomer/Showcases#1『たん、たん、魂』インタビュー

「国内ダンス留学@神戸7期」が始まって3ヶ月。7期生は思考・身体ともに鍛錬を積み上げています。
彼らはこれから1月までに全3回、振付家と協働して作品を上演するNewcomer/Showcase#1〜3に取り組みます。Newcomer/Showcase#1の振付家は、ダンサー/振付家として独特の手法と世界観を持つ垣尾優氏です。
『愛のゆくえ』『それから』と、ソロ作品で関西のダンスシーンを魅了した垣尾氏は、本公演では「群舞」を手掛けると言います。様々な視点を吸収した7期生の身体と、垣尾氏の振付から、どのような作品が立ち上がるのか。今回、クリエーションに入る前の垣尾氏と、本プログラムの統括ディレクターの余越保子氏に対談インタビュー行いました。
───余越さんから見て、垣尾さんはどのようなアーティストだと感じますか?
余越:NYから日本に戻ってきて様々な公演を観ましたが、KYOTO EXPERIMENTで垣尾さんの『それから』を観て、「こんな作家がいたんだ!」と衝撃を受けました。何がすごいかというと、空間と身体とモノの関係性のつくり方が他に類を見ない。手法はシンプルなんですが、それらの特殊な関係性を見つけて、関係性の突っ込み方が結構執拗。忖度しないその追っかけ具合に、作家としての強靭性をとても感じました。あと、自分に酔わない。自己陶酔が一切ない冷酷な感じの身体や自我の持ち方が素晴らしいと感じました。
───垣尾さんはソロ作品のイメージが強いですが、今回なぜ群舞にしようと思ったのですか?
垣尾:ソロ作品は本格的なものはここ3年くらいで発表しています。『愛のゆくえ』『それから』をやってみて、なんとなく「これは自分のスタイルになりうるかも」という感覚を掴みました。自分のソロの作り方を、何人かで実践したらどうなるかやってたい、という思いもありました。あと、個人的に群舞が好きで。単純な動きを合わせるだけでも一体感のあるやりとりが好きで。久しぶりにやりたいなと思いました。
───今回、クリエーションに入る前に作品のデッサンや意図を7期生と共有した際に、「ダンスの上達には思いやりが必要」と書かれていました。詳しく教えてください。
垣尾:「思いやり」という言葉と言い切っていいのかという迷いもありますが…。
余越:他者への思いやり?
垣尾:他者と言いますか、自分以外になると言いますか。そういう感覚のことを「思いやり」という言葉で表しました。自分の”在り方”が踊りに関わる、といつも考えているんです。今回「思いやり」という言葉を使いましたが、他者を思いやるというよりは、自分の状態のことを言っているのかも。自分を捨てるってよく言いますけど、それって本当はどういうことなのかって。自分の存在が、すごく演技を邪魔してると感じることが多いんです。自分が踊る時は、バイアスや先入観を捨てることがどこまでできるのか、そんなことは可能なのかと考えています。
余越:思いやりと聞くと、優しさなどの柔らかい感じがしますが、そこを含めた上での人間の奥行きの理解がダンスの持つ凄みだと思います。
───今回、7期生と協働するにあたり大事にしたいことはありますか?
垣尾:お互いにとって良い影響があれば良いなと思います。とにかく自分が「こういう風につくっています」という姿勢を見せたいですね。勝ち負けとは少し違いますが、芸術にも「負けないやり方」みたいなものがあると思うんです。押さえるところは押さえる、というような。そういうやり方も良いし、すごく大事だと思います。でも今回は、勝つか負けるかわからないけど、自分の中にある直球を投げるという態度でいたいですね。
───これからクリエーションが始まりますが、今回どのようなことを期待しますか?
余越:どうなっていくのかとっても気になるし、どうなっても楽しみです。垣尾さんの世界観にどっぷり浸かっていくのは、7期生にとって素晴らしい機会だと思います。垣尾さんのアーティストの活動にも大きな影響があると思いますし。そのプロセスに注目したいですね。7期生にはおおらかに、楽しんでほしいですね。
公演まで残り1週間。絶賛クリエーション中です。垣尾氏は一人一人を丁寧に観察し、群舞が立ち上がっています。現場は不可思議さと朗らかさが充満しつつも、ダンスの炎が燃え滾っています。7期生のお披露目公演、お見逃しなく。
この記事に登場する人
垣尾優
モダンダンスや大野一雄の舞踏などに強く影響を受けながら、音楽や哲学、映画やストリートカルチャーなどの現代の様々な分野の表現にも影響を受け、独自に解釈し身体化した動きに定評がある。
山下残振付作品『透明人間』、岡登志子主宰Ensemble Sonne作品、松本雄吉+ジュン·グエン=ハツシバ + 垣尾優共同制作『sea water』、砂連尾理振付作品『猿とモルターレ』、JCDN国際ダンス・イン・レジデンス・エクスチェンジ・プロジェクト 日本/フィンランド共同制作 エルビィ・シレン 及び 日本/米国共同制作ノーラ・チッポムラ日本滞在制作公演、等に出演。
2006年から2009年までcontact Gonzoとして活動。
FIDCDMX (メキシコ) ソロダンスコンペティションに選出 (2018) 。Dance Boxにて垣尾優ソロダンス『愛のゆくえ』 (2019) 、京都国際舞台芸術祭 2021 SPRINGにて『それから』を発表。京都精華大学非常勤講師 (2022 後期 表現研究II) 。
2023年4月16日 時点
余越保子
舞踊家、振付・演出家、映像作家。広島県出身。
1987年から2014年までダンサー、振付家としてニューヨークとアムステルダムを拠点に活動。ソロパーフォーマンス作品『SHUFFLE』で2004年にアメリカの優れた舞台芸術作品に授与されるベッシー賞を受賞。2003年より日本舞踊の世家真流に入門。日本の古典芸能の身体を基礎としたコンテンポラリーと伝統を巡る国際共同ダンス3部作品を10年に渡りNYにて企画制制作し、ベッシー賞、グッゲンハイム・フェローシップ、ファウンデーション・フォー・コンテンポラリーアートアワードを授与。2015年にNYのダンススペースプロジェクトにて発表された『ZERO ONE』はニューヨークタイムズ 紙の批評家が選ぶ2015年度ベストテンダンスに掲げられた。上記の活動は、ニューヨークのダンスコミュニティにおいて、アジア人の身体性の新しい視点を西欧文化圏に投げかけるきっかけを作った。
2015年より京都に拠点を移す。日本舞踊の身体訓練を継続しつつ、観世流シテ方能楽師の田茂井廣道氏に師事。踊りや舞の古典の型、振付や技法をキネシオロジー(運動学)的視点から解析度を上げるペタゴジィ(教授法、訓練法)、アーカイブ(継承)をダンサーの身体で思考する活動を独自に展開している。舞台制作の他に、映像作家として、黒沢美香、首くくり栲象、川村浪子主演映画「Hangman Takuzo」(余越保子監督)を企画制作。 小山登美夫ギャラリー、シアター・イメージフォーラム(Dance NewAir主催)、神戸映画資料館、Nooderzone Performing Arts Festival(オランダ)などで上映。また、自身が書いたエッセイ集「一生に一度だけの」が森鴎外記念自分史文学賞大賞を受賞(学研出版)するなど創作活動は多岐に渡る。近年は、羽鳥ヨダ嘉郎著『リンチ(戯曲)』の第20回愛知県芸術劇場主催AFF戯曲賞受賞記念公演(2022)の演出・振付を手がけ、2024年度のKYOTO EXPERIMENT京都国際舞台芸術祭に招聘された。
2025年5月12日 時点