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【成果上演インタビュー①】8期振付家コース 安本亜佐美

国内ダンス留学@神戸8期成果上演『Escapist』へ向けて、振付を担当する8期振付家コースの安本亜佐美さんへインタビューを実施しました。

(トップ画像:岩本順平)

───今回は、安本さんが専門とされてきたエアリアル(空中)パフォーマンスを取り入れたダンス作品とのことですね。安本さんは、どのような経緯でエアリアルの世界に飛び込んだのでしょうか?

 

安本:昔から、不思議なものやファンタジーの世界観が好きで、小さい頃は本を読むか、夢を見るためにひたすら寝ているような子どもでした。子どもの頃はバレエを習っていたので、テーマパークのダンサーになりたいと思っていた時期もありましたが、絵を描くことも好きで、大学では日本画を専攻しました。舞台を題材に作品を描くようになって、卒業制作では赤いカーテンの絵を提出しました。舞台の緞帳ですね。緞帳はあちらとこちらの境界のようにも感じていて、向こう側へ行ってみたいと憧れる世界でもありました。サーカスも絵の題材として扱っていたのですが、あるときエアリアルを習えることを知り、やってみたらすっかり夢中になってしまったんです。それからずっと続けてきました。大阪で3年やって、イギリスのサーカス学校に留学し、帰国後はスタジオを運営しながら自分の活動を続けています。

 
 

『落下する夢』2008年

 
 

───ご自分でもエアリアルの作品を作って活動されてきたなかで、どのような理由で「国内ダンス留学@神戸」に参加されましたか?

 

安本:コロナ禍の2021年に「Cover Your Mouth」という作品を作ったんです。モノクロームサーカスさんにその作品の共同演出として入っていただけることになり、1年かけて40分の作品に仕上げました。それが賞をいただいて、京都だけでなく埼玉や海外でも上演することができました。今後は自分の作品の幅を広げられるように、コンテンポラリーダンスの文脈から来たダンサーや振付家の方々ともコラボレーションしていきたいと思ったのですが、自分一人でどこまでできるか自信がない事に気付きました。地上と空中を繋ぐことのできる、エンターテイメントの枠に収まらない作品を構築するための技術が必要だなと思い、国内ダンス留学に参加しました。

 

『Cover your mouth』2021 photo:Bozzo

 

安本:イギリスのサーカス学校では、コンテンポラリーダンスで用いられるようなクリエーションの方法を学んだこともありました。けれどそこからどうやって作品を構築するか、どこに面白さを感じて作品として成立させるかというところまで、まだ理解が及んでいなかったんです。そのギャップを、国内ダンス留学を通してようやく埋められそうな気がしています。

 

───これまで作ってきた現代サーカスの作品とコンテンポラリーダンスとでは、どんな違いがあるのでしょうか?

 

安本:一口に現代サーカスと言っても、とても幅広いんです。実は現代サーカスも、コンテンポラリーダンスと同じく1970年代のフランスの文化政策から変化が始まっています。これまでのサーカスではないものを作ろうとして興ったものなので、文脈は似ているんですよ。サーカスとダンスとの違いとして言われる事のひとつが、サーカスでは体と道具との関係が基盤になることが多いという事があります。空中芸など道具がないと成り立たないパフォーマンスが多いですね。物体だけでなく、相手の体をモノとして扱って技を成立させるものもあります。

 

 今回の作品では、ロープとハーネスを使って空中でパフォーマンスをする「バーティカルダンス」という手法を使っています。バーティカルダンスはトリシャ・ブラウンのパフォーマンスが元だという説もありますし、現代サーカスとダンスを融合させたフィリップ・ドゥクフレの作品もあります。現代サーカスのカンパニーにブレイクダンス出身のダンサーがいたり、NDT(Netherlands Dance Theatre)にサーカスの人が振り付けしていたり。身体表現としてお互いにお互いの要素を取り入れる事例も多くあります。

 

 

 

英国ブリストル サーカス学校Circomediaでの写真

 

───今回の作品のタイトルや、コンセプトについて教えてください。

 

安本:今回のタイトル「Escapist(エスケイピスト)」は、escapeする人、「夢想家」とか「逃避癖のある人」という意味です。“逃避”というのはネガティブな意味を持つ単語ですが、一種楽しさを含む単語でもあると思うんです。例えば、多くの人が日常から離れて非日常を楽しむために旅行に行きますよね。それは一種の逃避だと言えるんじゃないでしょうか。また現実に帰っていくための束の間の逃避です。

 

 今回、作品を創るにあたって、“どうして空中パフォーマンスが好きなのか?”ということを考える機会があったのですが、自分は空中パフォーマンスを一種の逃避としても捉えているんだと気づきました。空中にいるその瞬間は、ふわふわしていて心地よく、それに高さや不安定さから出るアドレナリンや、自分が人とは違う特別な事をしているという優越感など、色々な感情が沸き起こってきます。日常の感覚から遠く離れて非日常に身を置く、そういう所が好きなんだと。

 あとこれは空中パフォーマンスをやっていて楽しいことのひとつなんですが、劇場のキャットウォーク(高所作業用の足場)に登れるということがあります。そういう普通なら立ち入れない場所に踏み入る特別感は、「逃避」の背徳感や愉悦にも似ているなと思います。

 それから、マジシャンの箱から抜け出す人のことを「escape artist」と呼んだりします。空中パフォーマンスにはマジックと似ている側面があって、実際に現実で起こらないことを起こるように見せることで、見る人を日常から非日常に連れて行くことのできる手法だと思っていますね。

 

『VERTICAL DANCE @KAGANHOTEL』2021

 

安本:私は自分の性格を、夢見がちで逃避癖がある現実主義者だと思っています。サーカスやダンスをやって生きていこうなんて、世間一般のイメージからすればある意味で地に足の付かない、“逃避”の人生ですよね。でもその為には高所作業の資格をとったり、助成金を申請したりと、非日常を得るために現実に向き合って行動しないといけません。それって私だけでなく、誰しもがそれぞれ違った二律背反的なものを持って過ごしているはずで、そのどちらも含んだ曖昧な部分を今回の作品では表現出来たら良いなと。

 

成果上演 クリエーションの様子

 

───今、クリエーションの進み具合はいかがですか?

 

安本:先日までは一度コンセプトから離れて振付を試していましたが、今はまたコンセプトに戻ってきています。ダンサーのみんなとは、「重力」や「引力」を可視化させることや、「逃げる方法」について話しています。

空中に浮くことや空を飛ぶことって、夢のような世界ではあるけれど、実はロープとハーネスによってしっかり繋ぎ止められることによって初めて宙に浮くことができるので、ある意味で不自由であるとも言える。不自由から得られる自由ってなんだかロマンティックな言葉ですが。そこから逃げるのか、逃げないのか、とかそういった細かい事を一つずつ、形に出来る様に進めている最中です。

クリエーションでは表現だけでなく、道具の扱いもとても重要で、一つ間違えると大事故につながりかねません。エアリアルはどれだけ正確に、安全に出来るかどうかが大切なんです。なので私も皆も体以上に頭を使う場面が多くあり、皆にはとても頑張ってもらっています。

 

 

───なるほど。「空中へ逃げる」という願望と、エアリアルの手法との間に矛盾があるのが面白いですね。そしてどれだけ空中に逃避したくても、無事に地上へ降りてくることを大前提にしているということですね。

 

安本:そうですね。地上という現実を放り出したいわけではないんですよね。放り出してしまうと大変だってことが解っているから、足の下には現実がちゃんとある。でもちょっと逃避しないと、やってられないんですよね。

クリエイションの初期に“空を飛ぶ夢”について皆と話したのですが、空を飛ぶ夢を見たことがある人でも、自由に飛べる人とそうでない人とがいて、私は後者なんです。誰かに追われて必死で飛ぼうとするけど、腰辺りの低い位置でしか飛べない。両手を前に出して体を水平にして後ろの足を浮かせたら浮くんですけど、それ以上は上に行けないんです。自由なんだけれど自由になれないもどかしさをとても感じています。

 

 

───ダンス留学を経て、空中パフォーマンスへの意識や感覚は変わりましたか?

 

安本:はい、とても変わりました。ダンスを見るとき、「身体が見えてくるかどうか」という言い方で語られることがありますが、同じように空中パフォーマンスの場合でも、見る人に強烈に訴えかけるような身体そのものを一体どうすれば見せられるのだろうかと考えるようになりましたね。空中に浮いている体ってそれだけで強烈だと前から思っていたんですが、どう扱えば良いのかがあまりはっきりとわかっていなかったというか。今はそれだけでは「ダンス」にはならないと思っています。だから、作品を作ろうと思うとやっぱり「身体が見えるかどうか」を探してしまう。バーティカルダンスは両手を離して踊れる分、体を動かす自由度が他のエアリアルよりも高いので、身体を見せることへの親和性は高いと思っています。それが踊りとして見えているのか物体として見えているのかはまだわからないですが、踊りを超えたところで身体自体の存在感をどうすれば出せるのか、空中で探ってみたいと思っています。

 

 

───最後に作品への意気込みを聞かせてください。

 
安本見たことのないもの、非日常の世界を作り出したいです。

普段からアクセスしづらい場所によじ登っていくような稽古を繰り返しているので、外を歩いていてもつい上を見てしまいます。登れそうなところがあると、あそこの入り口までどうやって行くんだろう?とか、ビルの外側に梯子がついているところも多くて、あそこを通ってメンテナンスしてるんだな、とか。そんな風に、見てくださった方にとって現実の捉え方が少し広がるとか、ちょっと非日常に足を踏み入れられるような体験を作りたいと思っています。

この記事に登場する人

Ayumi

安本亜佐美

京都市出身、在住。京都市立芸術大学院を卒業後、絵のモチーフの一つとして選んだサーカスに魅了され、英国サーカス学校へ。帰国後、京都を拠点に現代サーカス・アーティストとして活動。現代サーカス団体『Co.SCOoPP』、及びエアリアルスタジオ『関西エアリアル』代表。産業ロープアクセス国際資格IRATA level.1を所持。
ロープや布、プラスチックシートなどの「モノ」と「身体」の関係性を追求し、幻想的な作品を発表している。浮く事が好きで建物や樹にぶら下がってみたり、人を空中に引き上げがち。「国内ダンス留学@神戸8期」修了。

2023年4月5日 時点

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