10期公演インタビュー(後編)中村蓉、山下桃花、天野朝陽、中村風香、長野里音
国内ダンス留学@神戸10期では、2024年12月21日(土),22日(日)に新作Newcomer/ Showcase#1 中村蓉『フーーーーーーガ!』を上演します。
J.S.バッハの「フーガ」を出発点に、疾走感とユーモアに満ちた世界観を立ち上げます。クリエーションが始まって1週目も終わりに差し掛かかった11月下旬。振付・演出を務める中村蓉さんとdBアソシエイト・ダンサーにインタビューを行いました。
その様子を前編・後編に分けてお届けします。
後編では、中村蓉さん、振付アシスタントの長野里音さん、dBアソシエイト・ダンサーから山下桃花さん、天野朝陽さん、中村風香さんに話を聞きました。
▶︎10期公演インタビュー(前編)はこちら
もはや「逃げる」にネガティブなイメージはない
―――今日のクリエーションの様子を教えてください。
中村(蓉):今日は皆さんといろいろ実験しました。みんながシェアハウスで共同生活をしているので、そこからインスピレーションを得て生まれた動きとフーガの相性を見ていました。動きをフーガの曲とどう合わせたら面白いかを探っていたんですが一癖あるなと思いました。でも共同生活を日常のルーティンと捉えると、フーガの主題=繰り返しと通じるものがあるはず。フーガをどういう捉え方をするかという私の課題がでてきました。
そして逃げることについてみんなと考えていました。フーガの語源はイタリア語で「逃げる」という意味であると前回お話しました。「逃げる」には一般的にネガティブなイメージがありますが、ポジティブに捉えるとどんなアイデアがありますかと聞いたら、色々出てきました。もう「逃げる」にネガティブなイメージはないですね(笑)。ファンタジーやセクシー、逃げる=生きるとか。あとナウシカとか。皆さんすっかりアイディアマンで面白かったです。
―――ナウシカというと?
中村(蓉):そこ気になりますか(笑)?これはちょっと変換が必要なんですけど、「逃げる」というより「逃す(にがす)」っていうと、途端にナウシカらしくなる。虫を逃すとか王蟲や鳥を逃すとか。優しさが生まれてナウシカの慈愛に近づけるという。逃げるにもいろんな分類があるということに気づかされました。逃げるという意味が豊かになったのでフーガ自体の捉え方も豊かになったらいいなと思っています。
―――リハーサルを見学させていただきましたが、ダンサーの個性を生かしたクリエーションをされていますね。
中村(蓉):皆をよく観察しています。私、楽しみ上手なんです。基本的に何事にも興味があるから見つけられる。だからすごく前のめりなんです。あとは愛ですね。愛を持って人を見れば必ずいいところとかここを生かしたいというのが見つかる。個性を見つけたいなら、愛を持てということだと思います。
―――長野理音さんは振付アシスタントとして蓉さんのクリエーションを近くで見ていて感じることはありますか?
長野:もういっぱいありすぎて情報処理が追いつかないのですが、やはり演出の細かさがすごいなと思います。ダンサーが出してくれたことに対して反応をまずはちゃんとする。それに対して蓉さんがしっかり演出をするとこうなる!というマジックを1週間たくさん見させてもらったなと思っています。頭の先からつま先までしっかりと細かく演出する。そばにいるからこそ分かるきめ細やかさがとても勉強になります。
ダンサーたちの個性を引き出してより生かしたい
―――国内ダンス留学@神戸10期のdBアソシエイト・ダンサーは、個性的なメンバーが集まっています。ダンサーたちの印象を教えていただけますか。
中村(蓉):本当に個性豊かなメンバーが集まっている。「マトリョーシカ」のようにいっぱい顔をもっている人もいれば、「唯一無二のセンス」をもった人もいる。違う次元、違う星に生きているけど周りの空気を読む「謙虚な異星人」みたいな人もいる。
だからみんなのことをもっと知りたい。違う星の素晴らしさを教えてもらいたい。意外なところにボン!とはまる人もいるので、そのスイッチを押せるようになりたい。強い個性があるからこそ、もっと自分を裏切ったらもっと魅力的になるなと思う人もいる。
だからマトリョーシカをいっぱい並べて、あるいはいっぱいボタンを押して、あるいはどうスライスして裏切ってみるかみたいな、それぞれが持っている個性をどう引き出して、さらにそれをより生かすためにどうすればよいのか。ちょっと忙しいですけどそんなことを考えています。ということで私は皆のことを非常に信頼しております。
―――ダンサーの皆さんから見た蓉さんの印象を教えてください。
山下:蓉さんは「びっくり箱」だと思います。今日もリハーサルで何度も実験したんですが、毎回全然違う角度からきたり、クリエーションのスタイルもそうだし、誰かがなにかを出した時の蓉さんの切り返しとか応答も「そういう視点なんだ!」とビビッドで楽しいものがいつも出てくるみたいな印象があります。
中村(風香):論理的にも抽象的にも色々な考えをもたれている方なんだと思っています。頭の中ではすごく難しいことを考えているかもしれないけど、伝えるときはとてもわかりやすく言ってくださる。あとはテンションが常に高くて、朝から創作のためのエネルギーをもらっています。
天野:一言で例えると「昭和時代の子供」です。いい意味で(笑)。昭和の子供ってめちゃくちゃ頭いいじゃないですか。一升瓶の蓋をコマにして遊んだり。あるもので工夫をこらして遊ぶ。クリエーションの中でどう生かすんだろうというものでも「意外と面白いかも!」と遊び心をもって、振付家・演出家として昇華させていく。そういうセンスや美学のある人なのだなと思っています。
中村(蓉):嬉しい!ありがとうございます。びっくり箱とか昭和の子供とかレトロなフィルターがかかってますけど(笑)
23人のアーティスト/講師から得た学びとこれからの挑戦。
―――ダンサーの皆さんは、9月から5週間計23名のアーティスト/講師による「集中プログラム」を受けてから、このクリエーションに臨んでいます。集中プログラムではどんなことを学びましたか?そしてどのようにクリエーションに生かしていきたいですか?
中村(風香):自分を客観的に見る、客体化していく方法をいろんな講師の方に教えてもらったと思います。平原慎太郎さんのコンポジションのWSはもちろん、青木尚哉さんのポイントワークも体を自分のものではなく骨として見ることなど勉強になりました。
山下:どのワークショップもぜんぶ繋がっているんです。自分を一度客観的に見てどう出力していくか。どういう方向でどんな体のあり方で臨んでいくか。いろんなやり方があると教えてもらいました。
天野:僕は以前まで主観的・表層的に踊っていた感覚がありました。西村未奈さんのWSでは、体の衝動とか内側に耳を傾ける態度を学ぶことができました。
それをクリエーションにどう生かすかを考えた時、ダンサーとしてただ舞台の上に存在するだけでは意味がない。自分の衝動や内側の感覚という外からは見えない部分を、観客の人や蓉さんに伝えるダンサーでいたいと思っています。
―――ダンサーの皆さんの課題を教えてください。(近くでインタビューを聞いているダンサーも含めて)
天野:「遊び心がない。もっと遊べ」と集中プログラムの講師の康本雅子さんにも言われました。どうやって遊んだらいいんだろうと思っています。蓉さんから、テーマに関係なさそうで実は関係あるというギリギリを攻める面白さを盗もうと思っています。
ami muto:私にとって一か月間のクリエーションは今までで一番長い制作期間です。一つの事に集中的に深くやっていくことと、初めての経験なのでどれだけ吸収できるかが個人的な課題です。
―――ダンサーの皆さんの作品への意気込みを教えてください。(近くインタビューを聞いているダンサーも含めて)
中村(風香):皆の踊り方も吸収したいと思うような動きばかり。だからやり切りたい。あと一か月ないのが寂しいくらいなんですが、もらえるものはもらい切りたいし、出せるものは全部出し切りたいです。
山下:本当に心強い皆さんと蓉さんが引っ張っていってくれている。蓉さんの独特の世界、その世界の中で一番作品に合った状態でいられるようにしたいなと思っています。
宇津木:食らいついていくだけじゃなくて、自分から発信や提案できるものをどんどん現場に出していきたい。もちろん本番中でも同じです。
長野:私も振付アシスタントとして皆さんのサポートはもちろん、いちダンサーとして、10期の皆さんや蓉さんの作品に対する姿勢や振付、演出の手法などクリエイションに関する全てのことを盗み学びたいと思っています。
―――最後に蓉さんへ質問です。クリエーション1週目を終えての感想や今後の構想を教えてください。
中村(蓉):今週は振付を渡しつつも、ここはダンサーに振付をお願いしようと筋道を立てたり、アイデアをいろんな角度から出していきました。このメンバーだからこそけじめのついた作品になるかなと思っています。踊るときは踊るし、違う要素で斬新な角度から作品を掲示する部分もある。私もいつもの手札じゃないことに取り組んでみたいとも思っています。
あとは10期のダンサーたちを応援する気持ちを忘れずにいたいです。たとえ現時点では花が咲かなくても理解してもらえなくても、振り返った時に「あれはこういうことだったんだ」とお土産にしてもらえるような作品にしたい。ただ私はプロとして、しっかり面白いものを作るというゴールもあって、2つの使命を背負って日々のクリエーションに臨んでいます。
―――どんな作品になるのかとても楽しみです。ありがとうございました。
聞き手・編集:杉本昇太
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国内ダンス留学@神戸10期 Newcomer/Showcase#1
『フーーーーーーガ!』
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逃げる!追う!めくるめく流転ダンス!
中村蓉、関西初公演。新進気鋭のダンサー6名と鮮烈なる挑戦、流転の先を目指す!
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振付・演出:中村蓉
出演:dBアソシエイト・ダンサー 天野朝陽、ami muto、宇津木千穂、杉浦ゆら、中村風香、山下桃花
振付アシスタント:長野里音
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公演概要
本公演は、2024年8月末のオーディションにより選出した個性溢れるdBアソシエイト・ダンサー6名と、招聘振付家の中村蓉が協働し、新作を発表します。これまで古典や近代文学のテキストを元に、様々な手法で舞台作品を幅広く手がけてきた中村蓉。今回は「フーガ」という概念を出発点に、若手ダンサー6名の躍動する身体で、疾走感とユーモアに満ちた世界観を立ち上げます。2024年の締めくくりに是非お立ち合いください!
公演情報:Newcomer/Showcase#1 中村蓉『フーーーーーーガ!』
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【日程】2024年12月21日(土)18:00/22日(日)14:00
【会場】ArtTheater dB KOBE
※受付開始は開演の30分前を予定しております。
※上演時間は約50分を想定して創作を進めております。
※いずれの日程も終演後に、アフタートークを実施します。
【料金】
一般:3,000円
割引:2,000円
高校生以下:1,000円
未就学児:無料
※割引対象:長田区民・U25・障がい者・介助者・65歳以上・丼クラブ会員
※未就学児をお連れのお客様はお申込みの際にご相談ください
※当日券は、各200円増し
チケット購入:https://10ki-ns1.peatix.com/(Peatix)
【お問合せ】
NPO法人DANCE BOX
電話:078-646-7044
メール:info-db@db-danecbox.org
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主催 : NPO法人DANCE BOX
企画・制作:NPO法人DANCE BOX
宣伝美術:DOR | 写真:岩本順平
モデル:中村蓉、渋谷陽菜、高瀬瑶子、長野里音
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会
この記事に登場する人
中村蓉
早稲田大学在学中にコンテンポラリーダンスを始める。国際芸術祭あいち2022、シビウ国際演劇祭などで作品を上演。サンリオピューロランドのショー、演劇集団円、国内外のオペラ作品、北九州市芸術文化振興財団職員が踊るオリジナルダンスなど幅広く振付を手掛ける。近年では東京二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『セルセ』『デイダミーア』の演出・振付を担当。芸劇danceワークショップ2023では講師・構成・振付を務め『√オーランドー』を発表。第1回セッションベスト賞、横浜ダンスコレクションEX2013審査員賞、第5回エルスール財団新人賞などを受賞。
2024年5月22日 時点
長野里音
兵庫県出身、在住。幼少よりバレエを習う。
文化庁・NPO法人DANCE BOX主催 国内ダンス留学@神戸8期に参加。
2023年度 DANCE BOXアソシエイト・ダンサー。
多種多様なダンスとの出会いをきっかけに、ダンスによる自身のアイデンティティー形成に興味を持ち、ダンサーとして活動している。
2023年9月10日 時点
山下桃花
東京都出身。幼い頃より新体操を始める。訪れた場所に身を浸す暮らしを通し、〈場に影響されるカラダ〉に興味を持つ。国内ダンス留学@神戸8期にて、寺田みさこ、Monochrome Circus、森下真樹、安本亜佐美の作品に参加。直近では、千日前青空ダンス倶楽部にダンサーとして携わる。現在も、様々な土地・文化圏を訪れながら、身のまわりとカラダの関係を引き続き探っている。
2024年9月26日 時点
天野朝陽
10歳からHIPHOPダンスを始め、 ジャズ、フリースタイル、POPPIN、KRUMP、アニメーションなどを経験した後、コンテンポラリーダンスと出会う。 その後、自作品が国内のダンスコンペで様々な賞を受賞し、数多くの振付家の舞台や映像作品等に出演。 近年では、失いかけている”陰翳”や”余白”を重んじる日本的美意識に、現代アートの世界観や、ストリートダンスの即興性やグルーヴを融合した踊りを探求している。
2024年9月26日 時点
中村風香
広島出身・幼少より中田千湖バレエシアターにて中田千湖に師事。クラシックバレエを軸としつつ、様々な身体表現について学ぶ。 2017年平原慎太郎のワークショップ/パフォーマンスに参加。 大学進学後は大阪を中心に、留学先のアメリカ・ニューヨークでもモダン、コンテンポラリーダンスを探求。
2024年9月26日 時点