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森山未來×児玉北斗
「成長とは、変化を促し受け入れること」【後編】

Newcomer/Showcase#3 森山未來×国内ダンス留学7期生『Re: Incarnation in Nagata』上演に向けた、森山未來氏、児玉北斗氏の対談の第2弾。前半では、Newcomer/Showcase#1-3のテーマでもある「協働すること」について語った様子をお届けした。立場や実力の差を超えて「対等」であるということはどのような関係性なのか、今回のクリエーションやお二人の経験から、その糸口を探っていった。森山氏は「使い古された言葉だけど、コミュニケーションとリスペクト」と語った。しかし、その言葉を紐解くと、本作品における森山氏のクリエーションへの姿勢が垣間見れた。

さて、後編ではお二人に「自分で自分を育成するときの心得」について伺った。Newcomer/Showcase#1-3は育成プログラム「国内ダンス留学@神戸」の企画である。本プログラムは、育成プログラムであるが、アーティストたちにとっては自ら自己を磨くために飛び込む場所である。アーティストとして研鑽を積み続けてきたお二人は、自分を育てるために、どのようなことを意識して過ごしてきたのだろうか。

そして最後に、1月21日、22日に上演する『Re: Incarnation in Nagata』についてお話しいただいた。夜の商店街に、どのようなダンスが浮かび上がるのか。その着想や、長田でのリサーチについて伺った。

▶︎前半はこちら:森山未來×児玉北斗 対談「成長とは、変化を促し受け入れること」【前編】
 
 
 

 

成長とは、変容を促し、受け入れていくこと

 

―「国内ダンス留学@神戸」は、育成プログラムですが、「育てられる」場所よりも「自分で育ちに行く場所」だと考えています。お二人は、自分自身を育成しようと思ったとき、どんなことが大切だと思いますか?

 

森山:育つって、自分の変容を促していったり、変容していくことを自分で受け入れていく時間だと思います。僕の場合は、2014年に文化庁文化交流使でイスラエルに1年行ったときの経験がわかりやすくいろんなものが変わったという感覚があります。慣れ親しんだ場所ではないところへ一人で行くと、既成の概念では生きられない状況が絶対に生まれる。そこで自分自身を変えなきゃいけなかったし、意識しなくても自然と変容していった部分もありました。特にコミュニケーションにおいて、人の言葉や態度の受け止め方や、自分の意思の提示の仕方を学びましたね。

 
児玉:変容していくことを自分で受け入れるっていうのはまさにそうだと思う。誰かに教えてもらうのでも、自分から学びにいくのでもなくて、その場で起こっていることに身を任せて身体的にそれを理解していくみたいな。それって知識を獲得するとかではないと思うんです。

 

 

―勉強して知識を得ることや経験を積むのとどう違いますか?

 

児玉:馴染んでいく、流れに乗っていく、巻き込まれていく、という言葉が近いかも。だからある意味、自分を持ちすぎていると学べないところもあって。育ちに行くっていうことは、自分にとって過剰なものに揉まれて、そこに自分の身体を慣らしていくイメージなのかな。僕は時々そういった経験が必要な時がありました。もちろん、自分のこだわりもすごく必要なんです。だけど、それだけではジャンプできないこともあって。周りとのギャップに悶々としている自分がいて、ある瞬間周りにふっと流されてみると、フワッ!っと次に行けちゃう感覚です。
 
森山:僕はもともとこだわりが強い部分があって。自分自身の経験を振り返ってみると、それが壊されたことによって、世界の見え方や視点が以前よりずっと面白くなったと感じることがすごくあります。そこでは絶対自分自身の価値観が破壊されてるんですよね。それじゃダメだったとか、変わらざるを得ないとか。仕事でも、やってる最中は文句ばかり言っていたことでも、全部終わってから振り返ると、やってすごくよかったと発見することもあります。関わった人や作品に対する愛情が変容していくんです。そういった自分の経験を振り返ると、破壊された方がいい瞬間がいっぱいあったんですよね。
 

児玉:それっておそらく満足したり納得したりすることとは少し違っていると思うんです。不満や不足感を経由して、自分が変わっていくと言うか。その変化には少し時間をおかないと気づかないと思います。

 

 

―児玉さんは今まさに教育の現場にいらっしゃいますが、学生たちとどのように接していますか?

 

児玉:そうですね、学生だと答えとか目標を求めてしまいがちなところがあるんですけど、あんまり目標を与えないで、「こういうワークをやってみよう」とワークを提示し続けると、各々が自然に自分の興味と結びつけてバラバラのことを勉強しだすんですよね。僕はそれをパフォーミングアーツのあり方の一つの本質的な部分だと思っています。例えば舞台に立つ時って、実はみんな違うことをやっていると僕は思っていて。それでも舞台に立つと統一感があるように見えるというか、根底はつながっている。みんなが一緒に同じことをやっているようで、実はそこからみんなバラバラのことを導き出している、それがいいんじゃないかなと。

 

 

―今回の作品について教えてください。

※本作は、2021年の3月に京都の清水寺で森山氏が奉納したパフォーマンス『Re: Incarnation』がもととなっています。『Re: Incarnation in Nagata』にいたった経緯や作品のコンセプトについては、末尾のインタビュー動画でも詳しくお話いただいています。

 

児玉:未來くんの話を聞いて、まずスピリチュアルなものと物質的なものという2つがあるんだけど、スピリチュアルなものを突き詰めていくと、その先には物質的なものがあるという感じがしました。物質と物質、力と力のぶつかり合いがあって、それはつまるところ、プレートとプレートのぶつかり合いで山ができて、山ができたから気候や水の流れも変わっていくというようなこと。場所の性質が違うと、人の暮らしや文化、言葉も違う、みたいな。そんな流れの中でしかダンスの違いは生まれない。だから、場所の違いって、力と力のぶつかり合いでできた環境の中から生まれてくる動きの違いでもある。絵画や彫刻などの作品をつくるのも結局「動き」じゃないですか。だから環境から立ち上がることって、まず「動き」だと思うんです。未來くんがやっているリサーチっていうのは、環境に触れてみて出てくる「動き」をサンプリングして作品に載せているイメージがあります。そしてそれを素材として並列させることに、ポストモダン的かつダンス的なものを感じました。でも素材自体はポストモダンでもダンスでもないような気がして、面白い組み合わせだなと。
 

森山:スピリチュアルと物質的なものの距離感は今回の重要なテーマな気がする。今作をつくるプロセスの中で、地理的に長田のポイントをいくつか選び出すというタスクがあります。そこでは、その場所に神社があるかどうかということを結構重要視していました。古文書や風土記に書かれているように、昔の人たちがその場所を大事にしていたからこそ、そこに神社が置かれている。ただ、僕は神社を、スピリチュアルなものとしてだけではなく、その場所の歴史を知る場所、いわゆる科学的な見地より以前にあった情報が保存されている場所として捉えています。いわゆる精神性と、今ここにある僕らの身体と直感から生まれてくる動きというものをどのバランスで成立させるかを探っているところです。京都でつくったときは自分のバランス感覚で無自覚にやってたから、今はそれをみんなに説明する言葉として整理して、一緒に共有しながら進めています。
 

児玉:そのさじ加減は未來くんの体感をどう言葉にしていくかとか、中に入ってどう伝えていくかだね。今回のタイトルの「Re: Incarnation」っていうのは、どんな意味なの?

 

森山:「Incarnation」って、キリスト教用語で「受肉」という意味なんです。かたや「reincarnation」は仏教用語としての「輪廻転生」の訳として用いられることが多い。これは厳密には対訳として正しくないという意見もあるのだけれど。とにかく、ReとIncarnationをコロンで分けることでキリスト教的な意味合いが立ち上がってくる一方で、Reincarnationだと仏教的な意味合いとして認識される。それらがぶつかって打ち消し合い、肉体が朽ちて、そこから新しい命が立ち上がるという純粋な循環性を志向できるかなと。そういった意味を込めて「Re: Incarnation」にしました。

 

児玉:受肉か。面白いね、まだまだ話が広がるね(笑)

 

 

―京都で作品をつくるのと、長田で作品をつくるのとでは感覚が違いますか?

 

森山:根本は変わらないですね。長田という場所は古い歴史のある場所なんです。廣田、生田、長田という場所の分け方がかつてはありました。さらに長田付近からは縄文土器や弥生土器も出土してることから、長田神社ができるより前からここに人が住み着いていたことがわかり、作品内で登場する地理的なポイントを探しやすかったです。

 

児玉:人間っていうのは何らかの理由があってそこにいるし、その場に引き寄せられるというか。堆積したものがなければそこにいられないよね。いろんな死がそこに重なった上に僕らは立っている。未來くんの作品は歴史じゃなくて考古学なんだと思った。歴史の基盤としての考古学というか。

 

森山:嬉しい!小さい頃インディージョーンズに憧れてて、踊れる考古学者になりたいと思ってた(笑)

 
 
 
 
と、作品の話もまだまだ広がり、話題の尽きない対談インタビューとなりました。
Newcomer/Showcase#3最終回、どうぞご期待ください。また、「国内ダンス留学@神戸」7期は、3月12日、13日に7期生自らが振付した作品を発表する成果上演に続きます!こちらもぜひチェックください。
 
 

▼こちらのインタビュー動画もぜひチェックください!

Newcomer/Showcase#3
森山未來×国内ダンス留学7期生 『Re: Incarnation in Nagata』インタビュー動画

 

この記事に登場する人

Takeshi Miyamoto

森山未來

1984年、兵庫県生まれ。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。
2013年には文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。
「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。
俳優として、これまでに日本の映画賞を多数受賞。ダンサーとして、第10回日本ダンスフォーラム賞受賞。
監督作として、ショートフィルム「Delivery Health」「in-side-out」などを手がける。
2021年3月11日には京都・清水寺でのパフォーマンス「Re:Incarnation」の総合演出を務め、東京2020オリンピック開会式では鎮魂の舞を踊った。
2022年4月より神戸市にArtisti in Residence KOBE(AiRK)を設立し、運営に携わる。ポスト舞踏派。

2023年4月6日 時点

児玉北斗

2001年よりダンサーとして国際的に活動、ヨーテボリオペラ・ダンスカンパニーなどに所属しマッツ・エックらの作品にて主要なパートを務めた。振付家としても『Trace(s)』(2017)、『Pure Core』(2020)、『Wound and Ground (βver.)』(2022)などを発表。現在は芸術文化観光専門職大学(兵庫県豊岡市)の専任講師としてダンスや振付をめぐる研究・実践・教育に取り組んでいる。www.hokutokodama.com

2023年4月6日 時点

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