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【成果上演インタビュー②】出演者 長野里音、森脇康貴、高瀬瑶子

2022年7月からスタートした「国内ダンス留学@神戸8期」では、プログラムの一環として3組の振付家を迎え、寺田みさこ振付『Fugue dB version』、モノクロームサーカス振付『怪物』『きざはし』、森下真樹振付『ベートーヴェン交響曲第9番を踊る』の3作品を上演しました。

いよいよこの度3月11日・12日に、8期生とdBアソシエイト・ダンサーらが自ら創作した集大成としての作品を上演します。

クリエーションも7週目に入った2月15日、8期ダンサーコースの長野里音さん、森脇康貴さん、dBアソシエイト・ダンサーの高瀬瑶子さんにインタビューを実施しました。

(トップ画像:岩本順平)

ダンスにまつわる様々な感覚を言語化すること

 

───この数ヶ月をとおして、自分に強く影響を及ぼした出来事や経験があれば聞かせてください。

 

長野:私は寺田みさこさんのクリエーションが始まったとき、みんなで喋る時間が圧倒的に多いことに驚いたんです。メンバーそれぞれがダンスを言葉にしていく様子を目の当たりにして、強く刺激を受けました。踊る時に感じたことをここまで深く聞いたのは人生で始めての経験だったし、踊ったあとに自分の感想を言うということも、これまで習い事としてダンスをやる中では絶対になかったことでした。綺麗な言葉で上手に言うのではなくて、まとまっていなくても感じていることをそのまま言葉にすることがクリエーションにとってとても重要なプロセスだということを学びました。

寺田みさこ振付『Fugue dB version』2022, photo: Junpei Iwamoto

 

森脇:それで言うと、僕はクリエーションのなかで考えたことを話すことはできるんですが、他のメンバーはたとえ言葉で説明できなくても、舞台に立って動き始めればいろいろなことを身体で語ることができるんですよね。覚えた振付のその先へ飛び立つような、身体から出てくる言葉の豊かさはどうやったら獲得できるんだろうと、みんなのことを見ながらいつも思っています。

高瀬:私の場合は逆で、先に振付家の方が言っていることがイメージや色や質感で入ってきて、自分のなかで起こっている現象をまず感覚的に感じ取るところから始まります。そこから自分の身体に落とし込む作業をするんですが、それを言葉で表現するのが本当に難しくて。要素がありすぎて、何をどのくらいキャッチして言語化すればいいのか、毎回試行錯誤していました。ここでのクリエーションやワークショップでは必ず言葉にする時間があるので、伝わらなくてもトライする機会があるのがすごく貴重でした。

森脇:本当にそう思います。パフォーマーとしてどこかの作品に出演するとなったとき、やっぱり提案をしていかなければならないけれど、その前段階にある思考回路まではなかなか聞いてもらえないと思うんです。でもこの留学においては、振付家の方は皆さんすごく深くまで聞き取って、意見が出るのを待つ姿勢を見せてくださって、それが自分一人では辿り着けないようなところまで言葉を絞り出させてくれました。自分も創作するときにはそうありたいなと思っています。


日常の身体がダンスになる瞬間のこと

 

森脇:僕は今回のダンス留学で、ただの動きがどうやったら「ダンス」になるのか考えるようになりました。日常の動作から「踊りだす」までの間にはやっぱり飛躍があるなと思っています。たとえばお芝居では言葉やシチュエーションなど色んなヒントがあって、段階を踏んで表現すると思うんですが、ダンスにはその飛躍を埋めるような段階がないことが多いなと思って。

高瀬:たしかに、以前俳優の方と一緒にクリエーションしたとき、役柄や前後の文脈にとって辻褄が合う表現かどうかを意識しておられたのが印象的でした。私は、ダンスの場合は一瞬で時空を超えられるし、非現実に飛んでいくこともできると思っています。

森脇:言葉を発さなくても、体があるだけで時間と空間が積み重なっていくような表現ができるってすごいことですよね。

高瀬:少し違う話かもしれないけれど、私はダンスボックスに来てから、日常の動きとダンスとの境目が溶け始めています。これまではバレエを主にやってきたので、ダンスはトレーニングをして踊るものだと当然のように思っていたんですが、最近は日常の多様な身体もダンスになりうるということを意識するようになりました。このダンス留学の期間にみんなの踊りがどんどん変化していく過程を間近で見てきたなかでも、特にそう思いましたね。


森脇:たしかに僕も、生活のなかにダンス的な動きを見出すようになりました。それと同時に、やっぱりただの日常の動きがそのままの状態でダンスになるわけではなくて、ダンスにするためにはひとつ大きな飛躍を乗り越えなければならないとも思っています。そのためにどうしたらいいのか、今もまだ考えているところです。

長野:人前に立ってする動きとそうでない動きとの間には、紙一重でありながらも明確な違いが存在しているのかなと思います。その境目に何があるのかがわかれば、自分が面白いと思った動きをどんな風に作品にのせられるのか、掴めるかもしれない。でも私も今はまだ模索している最中です。いわゆるダンスではない動きでも、何かに集中している身体はとても魅力的だなと私は最近思っています。

森脇:積み重ねてきたダンスのテクニックもすべて、ダンスの素材のひとつなのではないかと考えています。踊っている人だけが華やかな主役というわけではなくて、空間もダンサーも照明も音響も全て等価で、どんな風に扱うかによって空間が紡がれていく。その空間のうねりみたいなものがもしかしたら「踊り」なのかもしれないということを最近は考えています。身体を空間の中でどう演出するかという視点を持っていたいですね。


身体面での変化、精神面での変化

 

高瀬:この期間に起こった変化ということで言えば、私個人としては3作品を通して無駄なものを削ぎ落としていく作業ができたと思っています。踊るときに体の構造を使って「骨で立つ」ということが、私にとってはずっと理想だったんですが、そこに少し近づけたような感覚があります。最初の寺田作品で、同じ振付を何度も繰り返すシンプルな作業を続けたことがひとつの大きなきっかけでした。その次のモノクロームサーカス作品では体を歪めるような振付がありましたが、もしこれまでの力んだ体でやっていたとしたら、動きにもっと抵抗がかかってしまったと思います。最後の森下作品のときには、飾らないそのままの身体でぶつかっていける感覚があって、それも2作品のステップを踏んだからこそできたのではと思っています。


モノクロームサーカス作品『怪物』2022, photo: Junpei Iwamoto

 

長野:身体も変わってきたけれど、私は気持ちの部分でもどんどんオープンになっていくのを感じていました。ダンス留学の初期に「もっと失敗したらいいよ」と言われたことが自分のなかでずっと響いていて、すぐには飲み込めないことでもまずはオープンな心を持つことを意識して進むことができました。

高瀬:気持ちの面では私も、ここでバックグラウンドの多様な人たちと過ごしてきたからこそ、今までとはまったく違う方向からの視点が増えました。いろんな方向から改めてダンスを見つめ直せたことが、心の余白につながりました。これまでストイックに突き進んできたけれど、心にも身体にも余白や遊びの部分があった方がいいパフォーマンスができるという気づきがあったのは、とてもよかったです。

森下真樹振付『ベートーヴェン交響曲第9番を踊る』2022 photo: Junpei Iwamoto

空中での身体と「ダンスとは何か」という問い

 

───さまざまな変化を経て今、成果上演のクリエーションはいかがでしょうか。
高瀬:3作品を経たからこそ、空中へも「よし行ってみよう」という気持ちを持てています。空中での体は、やっぱり今まで頼りにしていたものが全てなくなって、重力も強く感じるし、自分の体は一体どこにあるのかと足元が揺らぐような感覚があります。だけど、ロープを頼りにしながらも、自分でムーブメントを起こすことや、それを探求する作業は地上と同じなのだなと最近は思えてきました。

森脇:僕はNewcomer/Showcaseの3作品を踊っていたときは、他のメンバーとのダンスの技術の差に圧倒的なものを感じていました。それが空中になると、みんなで一から技術を身につけるところから始まったので、差がフラットになったような感覚があります。「今あるこの空間で踊るにはどうしたらいいんだろう」ということをみんなで一緒に探すという状況が、空中での表現に挑戦するなかで生まれてきたと思います。踊るだけじゃない視点を試されている気がして、奮闘の最中です。


長野:これまでも「踊るって何だろう」ということを考えてきたつもりだったけれど、「空中」という要素が出てきたことでさらに、地上で踊るときのダンスのあり方について考えてしまいます。たとえ踊っていなくても、空中に体が浮かんでいるだけでずっと見続けることができるから、じゃあなぜ私たちは地上で踊るのかということが急に分からなくなってしまって。今までの3作品とはまったく別の視点から、踊ることの難しさを感じています。

高瀬:そこへさらに、器具を装着するという作業の動きも必要になってくるんですよね。その異質な動作とダンスとが融合しうるポイントについて、今日はみんなで話し合っていました。

森脇:少しずつですが、今回の作品で空中と地上の両方で踊ることの片鱗のようなものが見えてきていますよね。もう少し作品の要素が出揃ってきたら、きっと安本さんのやりたいことが明確に差し込まれてくると思います。今は安本さんがぶつかってこれるところを、みんなで一緒に作っているところですね。


8ヶ月間の集大成へ向けて

 

───最後に、成果上演への意気込みを聞かせてください。

 

森脇:身体を使ってお客さんの想像を連れて行けるようなダンスを、今回はメンバーと時間をかけて見つけたいと思っています。

高瀬:もう半年も協働してきて信頼しているメンバーだからこそ、新しいことにも前向きでポジティブなパワーで向かえています。今回の作品の終着点がどういうところになるのか今は想像がつかないけれど、今だからこそできることを引き続き探求していこうと思います。

長野:「上手だったね」とか「すごいね」という感想よりも、「よくわからないけど私はこう思った」という感想が聞けたらすごく嬉しいなと思っています。うちの母もこれまでの作品を見て、全部よくわからなかったと言っていて。でも「よくわからない」っていう感想が出るのはきっとよく見ているからだと思っています。見てくださる方の想像力と反応して、わからないその先の世界が立ち上がってくればといいなと思います。

 

この記事に登場する人

Junpei Iwamoto

長野里音

兵庫県出身、在住。幼少よりバレエを習う。
文化庁・NPO法人DANCE BOX主催 国内ダンス留学@神戸8期に参加。
2023年度 DANCE BOXアソシエイト・ダンサー。
多種多様なダンスとの出会いをきっかけに、ダンスによる自身のアイデンティティー形成に興味を持ち、ダンサーとして活動している。

2023年9月10日 時点

Junpei Iwamoto

森脇康貴

大阪府出身、神戸市長田区在住。立命館大学文学部哲学倫理学専攻卒業。在学中より演劇を始め、京都を拠点にミクストメディアな作品を発表し続ける劇団「安住の地」で俳優として活動中。
観客の想像を遠くまで連れていける身体の存在に強く惹かれ、「国内ダンス留学@神戸」に参加。見る人の心に「言葉や意味になる前の自分だけの風景」が立ち上がる現象を踊りと考え、街や生き物をモチーフに目に見えないその瞬間を表現することに挑戦している。

2023年4月3日 時点

Masaaki Tanaka

高瀬瑶子

幼少よりモダンバレエを始め、16歳より橘バレエ学校にてクラシックバレエを学ぶ。出産を経て進化/退化する身体との対話を重ね、”骨で動ける身体”をテーマにダンサーとして活動中。ジゼル・ヴィエンヌ、白井晃、森山開次、中村恩恵、近藤良平、青木尚哉等の作品に出演。近年では能や演劇、光など他ジャンルとの協働により生まれる表現も探究している。また、ダンサーならではのアプローチで子どもの教育に携わるべくワークショップなども行う。

2024年5月8日 時点

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