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【RRAレポート】長尾明実 / 菅原圭輔

劇場〈ArtTheater dB KOBE〉および新長田各所を拠点に、自身の表現探求や身体の鍛錬のためのリサーチやダンストレーニングなどを行う『dBリサーチ・レジデンス・アーティスト』。
2026年度は4月〜7月の約4か月間に14組のアーティストが滞在します。

今回は、7月13日〜24日にかけて滞在した長尾明実 / 菅原圭輔 さんの滞在記録を公開します。

 

2026年度 dBリサーチ・レジデンス・アーティスト(RRA2026)については ▶︎こちら から

長尾明実 / 菅原圭輔
【滞在期間:7月13日(月)〜24日(金)】

7月13日(月)

・新長田着
・DANCE BOXスタッフとのオリエンテーション
・銭湯リサーチ:菊水温泉

7月14日(火)

・スタジオリサーチ
・地域イベント:「駒林神社 夏祭り」へ参加
・銭湯リサーチ:天然温泉 あぐろの湯

7月15日(水)

・スタジオリサーチ
・銭湯リサーチ:本庄湯

7月16日(木)

・スタジオリサーチ
・銭湯リサーチ:ゆうゆうらんど紀の国

7月17日(金)

・スタジオリサーチ
・銭湯リサーチ:萬歳湯
・地域イベント:長田神社「第23回夏越ゆかた祭」へ参加
・「Y3N6 KOBE STUDIO Y3 NEW 6 ARTISTS EXHIBITION 2026」を鑑賞

7月18日(土)

・休養日

7月19日(日)

・休養日

7月20日(月)

・銭湯リサーチ:菊水温泉

7月21日(火)

・スタジオリサーチ
・銭湯リサーチ:菊水温泉

7月22日(水)

・スタジオリサーチ
・銭湯リサーチ:萬歳湯
・RRA2026アーティスト(村津すみれ)成果発表に参加

7月23日(木)

・DANCE BOXにて活動シェアリング/マテリアルショーイング
・萬歳湯にてフィールドレコーディング
・銭湯リサーチ:萬歳湯
・DANCE BOXスタッフとの振り返り

7月24日(金)

・DANCE BOXにてチームでのレジデンス振り返り
・銭湯リサーチ:扇港湯
・新長田出発」


レジデンス報告会の様子①(マテリアルショーイング) / 写真:鈴木優

 


 

Q1 レジデンスの目的を教えてください。

今回のレジデンスでは、銭湯に一定期間通うことを一つの身体的リサーチとして捉え、入浴という日常的な行為が身体や感覚にどのような変化をもたらすのかを探りました。

特に、一度の入浴による変化だけではなく、一定期間入浴を重ねることで、疲労感、身体の軽さ、筋肉の緩み、呼吸、気分、リラックスの状態などが日々どのように変化するのかを、自分たちの身体を通して観察・記録しました。

同時に、銭湯を入浴のための場所としてだけではなく、異なる世代や身体を持つ人々が同じ空間を共有する場として観察しました。そこに自然に生まれる身体の振る舞いや距離、譲り合い、水や光、音といった環境を身体表現の視点から捉え、身体・空間・人との関係性が創作へどのようにつながるのかを探ることを目的としました。

 

Q2 どのようなリサーチや実験を行いましたか?

滞在期間中、新長田周辺の銭湯へ繰り返し通い、入浴と身体観察を行いました。入浴前後の身体的・心理的な変化を中心に記録し、その日の疲労度や気温、精神状態なども含めて、身体の状態がどのように変化するのかを観察しました。

一つの例として、身体が重く感じていた状態から、入浴後には身体の重さが軽減し、頭がクリアになるといった変化が見られました。一方で、日々入浴を重ねる中で、身体には独特のだるさも現れました。このだるさは単なる疲労ではなく、連続した入浴によって身体が弛緩した結果として生じた状態である可能性があり、興味深い変化として記録しました。

また、銭湯という空間そのものや、そこに集う人々の振る舞いをパフォーマンスの視点から観察しました。人々の姿勢や動き、水の流れ、音、光、匂い、人と人との距離や空間の使われ方などに着目し、それらが身体や空間の関係性にどのような影響を与えているのかについてフィールドワークを行いました。

さらに、銭湯で得られた身体的な体験や空間を観察して得られたことをスタジオへ持ち帰り、身体を用いた実験を行いました。「緩むこと」「休むこと」「他者と空間を共有すること」を身体的な実践として検証し、それらが今後の創作へどのようにつながるのかを探りました。


参加型で実施した銭湯リサーチの様子:「萬歳湯」

 

Q3 印象的な瞬間(エピソード)があれば教えてください

印象的だったことの一つは、同じ銭湯へ繰り返し通うことで、最初は匿名的に見えていた空間の中に、少しずつ人や関係性が見えてきたことです。常連の方々を認識できるようになり、自分たち自身も少しずつその場所の時間やリズムの中へ入っていくような感覚がありました。

また、混雑した銭湯では、多くの人が同じ空間にいながら、それぞれが身体を洗う、湯に浸かる、移動するといった自分の行為に集中していました。互いに積極的に関わるわけではない一方で、場所を譲る、相手の動きを読む、距離を調整するといった小さなやり取りが絶えず行われています。そこには「交わらないが、拒絶もしない」とも言える関係性がありました。誰かがルールを指示しているわけではないにもかかわらず、それぞれが他者の存在を感じ取りながら、自分の位置や行為を自然に調整している様子が、とても印象に残っています。

さらに、地元の方々が井戸端会議をしたり、お互いの背中を流し合ったりする姿を目にしたことも印象的でした。銭湯という場所が地域の日常に深く根付き、人々が自然にコミュニケーションを交わす場として機能していることを実感しました。

 

Q4 今回のリサーチで収穫はありましたか?

今回のリサーチでは、大きく二つの収穫がありました。

一つ目は、ベルリンでスタートした本プロジェクトにおいて、継続的な入浴による身体の変化を実践的に観察できたことです。ドイツでは日常的に湯船へ浸かる習慣が少なく、継続的な入浴を前提としたリサーチを行うことが難しいため、これまでは文献調査やディスカッションを中心とした理論的なリサーチが多くを占めていました。今回のレジデンスでは、私たち自身が被験者となり、継続的な入浴による身体の変化を日々記録・観察することができました。プロジェクトの仮説を実践を通して検証できたことは、大きな収穫だったと感じています。

二つ目は、銭湯を身体の変化だけではなく、人と人との関係性を育む場として捉え直せたことです。同じ銭湯へ繰り返し通うことで、地域の方々が自然に会話を交わしたり、お互いを気遣ったりする様子を継続的に観察することができました。身体を休める場であると同時に、人々が日常的な関係を築き、地域コミュニティを支える場として機能していることを実感しました。

今回のレジデンスを通して、身体の変化を観察することと、その身体が置かれている社会的な環境をあわせて捉えることの重要性を改めて実感しました。今回得られた知見は、今後ドイツでリサーチを発展させていく上での重要な基盤になったと考えています。


レジデンス報告会の様子②(フィードバック及び意見交換) / 写真:鈴木優

 

Q5 今後の展望を教えてください

本プロジェクトは、長期的な視点で「意志を超えた身体の弛緩」を探究することを目的としています。今回のレジデンスで得られた記録や身体的な経験をもとに、今後もドイツを拠点に、日本と行き来しながらリサーチを進めていきます。

今回のレジデンスでは、日本において継続的な入浴を通した実践的なリサーチを行うことができました。今後はドイツを中心に、それぞれの文化や生活環境の違いにも着目しながら、身体がどのような環境や条件のもとで弛緩していくのか、その身体的経験について理解を深めていきたいと考えています。

また、将来的には、これまでのリサーチに加え、今後積み重ねていく身体的な経験や観察、実験から得られた要素をもとに、パフォーマンスとして構成・発表することを目指しています。リサーチと創作を行き来しながら、現代社会における休息の在り方について考察を深めていきたいと考えています。

 


 

【今後の予定】

2026年11月にベルリンにて、本レジデンスでの成果を含む、プロジェクトの現時点におけるリサーチ成果の報告会を実施する予定です。

当日は、リサーチ内容のシェアリングに加え、これまでの実践をもとにしたパフォーマンスのプロトタイプのショーイングを行い、リサーチと創作の両面からプロジェクトの進捗を共有する予定です。


地域の飲食店等での地元の方々との交流:「中国家庭料理 めいりん」

 

今回のリサーチに関わった人や場所

共同リサーチ:田村由以(翻訳家)、マイケル・ベレンセン(音楽家)

リサーチ協力者:宮田麻有(Interior Coordinator)、松村有実(ダンサー)、ならさきゆきの(ダンスアーティスト)

巡った銭湯:天然温泉 あぐろの湯、菊水温泉、本庄湯、扇港湯、萬歳湯、ゆうゆうらんど紀の国

協力: EU・ジャパンフェスト日本委員会

この記事に登場する人

Burning Steps

長尾明実

ベルリン拠点のBIPoC振付家、ダンスアーティスト。身体感覚、ケア、レジスタンスの交差点を探究している。2021年にHZT Berlin(ベルリン芸術大学所属)振付修士課程(MA Choreography)を修了。反資本主義およびフェミニズム的な視点から、「休息」や「心身と向き合う」行為を通して自己の力を取り戻し、安心できる内なる居場所を築くことが政治的な意味を持つと捉えている。2015年以降、脆弱さや疲労、抑圧構造のもとで身体がパフォーマンスを拒否することの政治性を扱う作品を制作。現在はダンスの自己修復的な可能性や、「くつろぎ」と「赦し」が生存の集合戦略となりうるかを研究している。

https://nagaoakemi.wixsite.com/akemi-nagao

2026年3月31日 時点

Rio Hirano

菅原圭輔

ベルリン拠点の振付家。身体を起点に空間全体を媒介とした知覚体験を創出する作品を制作。図形譜(ビジュアルスコア)を用いた実験的な振付手法により、「自己の確立と他者との関係性」を探究する。文化的・社会的規範によって形成される認識や身体感覚の差異に着目し、社会と個人の関係を再考する作品を展開。2017年の渡独以降、欧州各地および日本で作品を発表。ドイツ連邦文化財団、デンマーク・ユトランド芸術基金、エストニア文化基金、欧州文化首都など複数の国際文化機関より支援対象に選出される。

2026年3月31日 時点

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