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KAZUKIインタビュー|「身体から見えるオンガク。ろう者の感覚を共有するクリエーション」

Junpei Iwamoto

扉を開いていけるような作品を作りたい。

社会や暮らしのなかに障害を覚える身体のパフォーマーを含む、コンテンポラリーダンスカンパニー「Mi-Mi-Bi(みみび)」。2026年11月に4作品目となる新作を発表する。

今回の振付演出は、ろう者でパフォーマー・俳優として、国内の様々なシーンで活躍する、Mi-Mi-BiメンバーのKAZUKI。ろう者から見える世界を、身体表現を通して共有することを目指す新作、「VISIBLE SCOREー個々旅人の航海ー」。

自身初の演出となる本作について、KAZUKIに話を聞いた。

— 踊りを始めたきっかけについて教えてください

中学2年生の時、学校からの帰り道で、ビルの窓ガラスを鏡がわりにして、聞こえる(聴者の)ダンサーたちが踊っていて。それを見てすごく興味が湧いて、彼らに声をかけたのがきっかけです。それからかれこれ15年くらい、ずっと踊っています。

最初はブレイクダンスというジャンルから始めました。
高校生の時は、友人の聴者のダンサーに呼ばれてショーに出たり、大学はろう者の大学に入ったのですが、そこのダンス部で先輩に色々教わりながら2年間、ろう者のブレイクダンスチームで活動をしていました。
そんな感じで活動していたんですが、ある時、聴者が踊っていたヒップホップダンスを見る機会があって、それがとてもかっこよかったんです。それで、ブレイクダンスをやめてヒップホップに挑戦することにしました。
でも、学内でヒップホップを踊っている人がいなくて。YouTubeとかDVDとかで色々な動画を見て独学で練習していたのですが、それではどうしても上達ができなかった。聴者の大学にはヒップホップを踊っている人たちがいたので、そのサークルで練習させてくださいと言いに行きました。
最初はもちろん断られたんですけど、何度も何度も説得しに行った末、一緒に練習させてもらえることになりました。聴者ばかりの中でとても緊張したんですが、頑張って通い続けたんです。
なかなか、言葉でのコミュニケーションが難しい状況だったので、目でたくさんのことを吸収しました。すごく厳しいサークルで、20〜30人いたメンバーが最後、8人しか残らなかったんですけど、その残った8人でチームを組んでイベントに出たりしていました。これが、自分にとっては初めての聴者とのチーム活動でした。そこからずっとヒップホップを踊ってきたんですけど、今はコンテンポラリーダンスを踊りながら、「ろう者的な身体の表現とは何か」を考えています。

 

— 今回の作品について聞かせてください

今回の作品タイトルは「VISIBLE SCORE」。見えてくる楽譜、ということをテーマに作品を作っています。ろう者にとっての“オンガク”。つまり、ろう者の身体から出てくるから着想を得た作品です。手がかりにしているのは「聴者の言葉」と「ろう者の手話」、両者の言語的な違いです。
例えば「木」と言いたい時、音では「キ」。日本手話でも「キ」(両手の人差し指と親指を立て、同時に下から上にスライドさせる動き)と表現します。
手話の中にはCL:Classifier(クラシファイアー)という、表現対象をビジュアル的に示す表現方法があり、CLで「木」を表すと、このように(根っこから上に向かって幹が伸び、その先に枝や葉っぱが生い茂る様子を手型や腕、表情の動きで表現しながら)生えている状況そのものを表す形になる。

 

 

この時、すでに手話特有のリズムやテンポが生まれているんです。
聴者の「木」のリズムとろう者の「木」のリズムは全く違う。
この「ろう者の世界にある独特のリズム」を身体に取り込みながら表現することに挑戦しています。

世界には言語、教育、家庭環境など様々な背景の違いを持った人がいると思いますが、一人一人が既に持っている個々のリズムやを集めて混ぜ合わせていった中で、どんなものが出来上がるのかを探求しています。

「障害者」という言葉は、生きづらさ、コミュニケーションの難しさ、差別など、様々な困難な背景を連想させます。ですが、一口に障害者と言っても、その中には色々な人がいて、それぞれの人生、生き方、見ている景色がある。そんな人々のことを、「障害」という言葉を使わずに、一人一人として見て欲しいんです。そういった様々な背景を持った身体で表現することで、私たちの見ている世界を共有できればと思っています。

 

 

— 今回のサブタイトル、「個々旅人の航海」のアイデアはどこからきたのですか?

これまでのMi-Mi-Biの作品を振り返ると、「旅」というキーワードがいつもあったように感じていて、今回もそれを引き継いでいこうと思いました。
私の実家は目の前に海があって、いつも波や船を見ながら育ったんです。それと紐づいて、今回は船の旅についての作品にしようと考えました。
それぞれの人生を船旅に置き換え、困難や幸せ、楽しみなど人生の中にある様々な波を越えて旅していくようなイメージで作品を作っています。
実はずっと以前から、いつか演出をしてみたいと思っていました。
これまで様々な(聴者の)演出家のクリエイションに演者の立場で参加する度に、自分だったらこんなことをやりたいな、こんな演出はどうかな、とかあれこれ妄想したりしていたんですが、今回はそれらが現実になるということが、とても嬉しいです。

 

 

— 今回の出演者に対して感じていることを教えてください

よく知っている人も初めて一緒になるメンバーもいるのですが、うーん、想像もつかないというか、どうやってクリエイションを進めて行けばいいか、お互いにわからないことだらけだったんです。
演出家だから偉いとか、そういうことは無しに、お互い同じ立場の者としてコミュニケーションを取りながら、この人ならこういう動きができるんじゃないかとか、あ、これは難しかった。じゃあこういうやり方はどうだろう、というふうにたくさん話し合いながら進めています。
みんな、最初に比べて吸収力がだいぶ上がったなという印象です。

例えば、私が投げかけるキーワードはCLの表現で話すことが多いのですが、それを日本語に翻訳することが難しい時もあります。出演者の皆さんは手話ができないメンバーも多いですが、私のCLのニュアンスを目で見て理解する力がとても上がっていて。最初は全然分からなかったと思うんですが、徐々に慣れていって、「あ、KAZUKIはこう言いたいんじゃないの?」と、逆に言葉で返してくれて、そうそう!みたいになったり。そこからイメージを膨らませて身体で返してくれるのが素晴らしいなと思います。

 

 

今回の出演者には、福角幸子さんと田村みくりさん、2名の車いすメンバーがいたり、私ともう1人、ろう者の中村ひとみさん、国籍の違うアラン・シナンジャさんがいらっしゃいます。
それぞれに背景というか、つまり文化が違う。日本の文化と他の国との文化の違いもあれば、聴者とろう者の文化も違う。車いすと共に暮らす人、義足と共に暮らす人にもそれぞれの文化がある。
そういった様々な文化背景を持った人たちが混ざる中で、同じ舞台に立つ上でのルール、そういったものを考えながら進めているところです。

特定の誰かのためじゃなく、みんなにとって居心地の良い場づくり、作品に全力で向かって行けるような状況になることを大切にしています。

 

 

— 稽古を始めて1ヶ月くらい経って、変わってきた印象とかありますか?

ありますね。最初は、個人個人の踊り方、表現の仕方、できることが全くわからない状況から始まりました。キーワードをどんどん投げかけてトライしてもらうような感じ。
その中で、あ、この人はこういう動きができるんだ、この人はこういう表現をするんだ、と、毎回の稽古で発見していきました。
最初は投げかけたキーワード自体がわからない、どう考えたらいいかわからない、というように悩みながら、なかなかスムーズに表現できないという人もいたんですが、稽古を重ねていくことで、初めの種が今、少しずつ芽生えてきたような気がします。
自分自身も、初めのころはとにかく自分の中にあるイメージをひたすら投げかけるような感じだったのですが、今はみんなのことが徐々にわかってきて、開けてきた感じがあって。そういう変化を言葉にして、相談しながら進めていて。最近はそういうやりとりが増えてきたような気がします。

 

 

— Mi-Mi-Biとの出会いを教えてください

DANCE BOXで上演したトライアル公演*が始まりでした。
その時初めて、ろう者以外の様々な背景を持った人と踊ったのがとても楽しかったんです。その後、続けてみたい人で何かやってみませんか、という声掛けをいただいて、これからも背景の違う人たちと、どうやったら一緒に踊れるか、考え続けて行きたくて、Mi-Mi-Biの結成から参加しました。それが2022年のことです。
トライアル公演のタイトル『未だ見たことのない美しさ』の漢字の頭文字、「未」「見」「美」の三文字を取って、Mi-Mi-Bi(みみび)と名付けました。
聴者、健常者というかもしれませんが、皆さんが今まで見たことがない世界、でも美しさを感じることができる、そうした世界を目指して、私にとっての「Mi-Mi-Bi」が始まったんだと思っています。

Mi-Mi-Biに入って4年になるのですが、一番自分の中での大きな変化は、活動するジャンルが変わったことです。

これまではデフダンス、手話パフォーマンス=の歌詞を手話に変えて、それをパフォーマンスとする、というようなジャンルを踊っていました。
しかしこれまで、聴覚障害者、ろう者、と言われることに納得しているような、していないような。しっくりこない感じがあったんです。
これまではに合わせて踊る、ということをしてきたので、かなり大変だったし、本当にこれでいいのかな?と自分でも悩んでいた面がありました。

 

 

Mi-Mi-Biでの活動を通して、まず自分が「ろう者」である、そういうアイデンティティを持っているんだ、ということをポジティブに受け入れられるようになりました。
手話と日本語は、全く違う言語なんです。
手話という独自の言語をベースにした、独自の文化やコミュニティがろう者にはある。手話という身体的な言語を持つ、私たち「ろう者特有の身体感覚」というものがある。
そのことを大事にできるようになりました。

Mi-Mi-Biを通して様々なダンス作品に触れる中で、音を使わないダンス作品に出会った時、なるほど、これならろう者にもできる、とかなり視野が広がりました。
以前、私のダンスを見た人から、「がないのに、踊りから音が見える、聞こえる」と言われることがあって、必ずしも音に合わせなくても、“オンガク”を表現できるんだ。私の持っている、この身体感覚は私のなんだ、と感じたことが転機になりました。
そこから、だんだんと身体表現、コンテンポラリーダンスの方に自分の表現パターンが変わっていき、今はすごく活動がしやすいです。

*トライアル公演:2022年2月に上演。関西を拠点に活動する、身体障害をもつパフォーマーが集結し、自作自演に加えて、他者の身体・表現にも踏み込み振付・演出を行った公演。これを機に「ダンスカンパニーMi-Mi-Bi」が発足。

 

— どんな人にみてほしいですか?

聴者にはもちろん、ろう者にも見てほしいです。
まず、聴者の皆さん。
今回の舞台では音楽を使用していません。音のない世界を生きるろう者の感覚を、聴者のみなさんとも共有するということをやりたいと思っていますので、ぜひ見にきていただきたいです。
そして、ろう者の皆さん。
色々な情報保障だったり、日本語から手話への変換が必要だったり、舞台を見にいける機会というものがそもそも少ないですよね。
ダンスの舞台であればをどう使っているのか分からない、とか。
今回の作品には、ろう者が2人出演していますし、音楽を使っていません。目で見ることでイメージができる舞台の内容だと思っているので、ろう者の皆さんにもぜひたくさん見にきて欲しいです。

今、社会のなかに起こっている「障害者」を取り巻く様々な差別、言語、教育の違いや格差など、そういうことを知ってから見てもらえたら、とても嬉しいです。まだまだ日本では、理解が足りていないことがたくさんあると思います。
今回の舞台を見て、障害を持って生きる当事者にも色々な可能性があるということ、
できないと思い込んでいたことを崩していくような、扉を開いていけるような作品になればいいな、と。

 

 


編集者コメント

Mi-Mi-Biの稽古場では、大小様々なことを積極的に言葉にしてコミュニケーションをとる。
身体が違う。言語が違う。お互いに違うところを持っている、ということに自覚的だからこそ、丁寧に言葉にして共有していく様子が印象的な現場だ。
稽古場には2名の手話通訳士が入り、車いすのダンサーが稽古場に入る時はタイヤを拭くための濡れタオルが用意される。車いすダンサーによって他のダンサーの身体が運ばれたり、義足のダンサーが車いすを押したりする。
それぞれに違いを持った人たちが、対等な立場で自然と支え合いながら進むクリエイションは、普段障害を持った身体による作品に触れる機会のなかった私にとって、この世界を改めて違う角度から見直すきっかけをくれたように感じる。
全編をなしで進行するこの作品には、実に多彩な身体によるが溢れている。ぜひ劇場に足を運んで、「目で見る」を存分に味わっていただきたいと思う。

インタビュー・文:福島頌子(出演)

 


 

Project Wonyoung / ダンスカンパニーMi-Mi-Bi ダブルビル公演

日時:2026年11月14日(土) 17:00、11月15日(日) 15:00
*14日アフタートークあり *15日スペシャルトークイベントあり
会場:ArtTheater dB KOBE

公演詳細:https://db-dancebox.org/event/12688/

この記事に登場する人

KAZUKI

ろう者。俳優・身体表現者・手話パフォーマー。
音楽のある手話表現、無音コンテンポラリー、手話ポエムなど、様々な身体表現者として活動。現在、VV(ビジュアルバーナーキュラー)にも挑戦中。ろう者による視覚的な表現手法を用い、様々なパフォーマンスでろう者も聴者も誰もが観て楽しめる世界観に挑戦している。映画・舞台俳優としても活動し、近年では、映画『ヒゲの校長』『沈黙の50年』、手話裁判劇『テロ』(第1回 関西えんげき大賞 優秀作品賞受賞作)など多数出演。九州国際ダンスコンベンションバリアフリー部門 準優勝、日韓ワールドダンス大会 パラ部門 優勝。全国手話パフォーマンス甲子園では審査員を務める。デフアクターズ2期生。NHK「おはよう関西」、「東京パラリンピック開会式」出演。2025年11月、TOKYO FORWARD 2025 文化プログラム『TRAIN TRAIN TRAIN』(振付演出:森山開次 / 音楽:蓮沼執太)出演。2022年より「ダンスカンパニーMi-Mi-Bi」メンバーとしても活動。

2025年7月10日 時点

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