10期公演インタビュー(前編) 中村蓉、ami muto、宇津木千穂、杉浦ゆら、長野里音
国内ダンス留学@神戸10期では、2024年12月21日(土),22日(日)に新作Newcomer/ Showcase#1 中村蓉『フーーーーーーガ!』を上演します。
J.S.バッハの「フーガ」を出発点に、疾走感とユーモアに満ちた世界観を立ち上げます。
クリエーションが始まって1週目も終わりに差し掛かかった11月下旬。
振付・演出を務める中村蓉さんとdBアソシエイト・ダンサーにインタビューを行いました。
その様子を前編・後編に分けてお届けします。
前編では、中村蓉さん、振付アシスタントの長野里音さん、dBアソシエイト・ダンサーからami mutoさん、宇津木千穂さん、杉浦ゆらさんに話を聞きました。
▶︎10期公演インタビュー(後編)はこちら
共同生活について
―――今年の9月から5週間23名の講師による170時間の「集中プログラム」を経て、11月18日から本公演『フーーーーーーガ!』のクリエーションがスタートしました。今回アソシエイト・ダンサーの皆さんは、集中プログラムの時期から劇場近くのシェアハウス「真野ハウス」に滞在しています。「真野ハウス」での共同生活はいかがですか?
ami muto:生活リズムをずらすことに集中しています。そうしないとすべてがバッティングして、喧嘩の元になりそうなので。
杉浦:私は結構楽しんでますね。
中村(蓉):amiちゃんがずらしてるおかげで(笑)。
杉浦:真面目にダンスの話をしてる時も多いです。というかそれしか話すことがない(笑)。昨日はアソシエイト・ダンサーの中村風香ちゃんが、フィリピンの振付家についての卒論を書いていて、そのインタビューを受けていました。そこで作品を見る前にどれだけ予習していくかの話をしました。まったくしない人もいれば、する人もいて。じゃあどんな予習をするのか?その人のプロフィールを見ることなのか、過去作品を見ることなのか意見が違って盛り上がっていました。
中村:今日のリハーサルでルーティンを再現してもらったんですけど、本当にスムーズで(笑)仲良く共同生活を送ってるのが伝わってきました。
フーガをテーマにした理由
―――中村蓉さんはオペラの振付・演出や、小説をモチーフに様々な題材から作品を作っています。今回「フーガ」をテーマにしようと思った理由はなんですか?
中村:今年8月に東京芸術劇場で上演した「邦子狂詩曲 クニコラプソディー」で新作『禍福はあざなえる縄のごとし』を発表しました。そこで知り合いの音楽家にフーガを一曲書いてもらいました。
フーガは主唱と呼ばれる旋律があったら、それに答えるように答唱と呼ばれる旋律を奏でます。その方はテキストが持つ抑揚をそのまま音階にして主唱とし、その音階をひっくり返して答唱にしていました。
テキストから音楽になるということが面白くて。そういう風に作曲することができると知らなかったので、音楽ってこんなに思考を取り込めるものなんだと思い、フーガとそれを極めたバッハに興味を持ちました。バッハのことを調べてみると、数学者みたいに楽譜のなかに論理がいっぱい詰め込まれていて、私も作品を作るなかで、ルールや理論を発見してそれで遊ぶという作り方をすることがあるので、バッハやフーガを勉強してみたいと思っていました。
そんな時にちょうどDANCE BOXさんからこの企画をいただきました。テーマを考えていた時に、フーガの本を読んでたら良い言葉がたくさん書いてあったんです。模倣するとか反復すること、多様性や、調和することとか。あと休みなく発展していくこと。「足踏みも逆戻りもせず、流転し続ける」。すごく前向きに捉えられる言葉がフーガの説明の中に出てきて、これは10期アーティストにぴったりなんじゃないかと思って。
私自身が10期のみんなにエールを送れる作品にできたらいいなと。流転し続けろ、立ち止まるな!みたいなメッセージをバッハやフーガの力を借りて彼らに届けられたらいいなと思い、これでいこう!とフーガをテーマにしました。
―――フーガという複雑な音楽の形式をダンスで表現することについて、どのように考えていますか。
中村:フーガの音楽そのものをダンスで表現することを最終目標にはしていません。もちろんそういうシーンもあって今日も練習しました。
今はいろいろ実験中です。フーガの語源がイタリア語で「逃げる」という意味なので、すこし噛み砕いて「逃げる」から連想したシーンを作ってみたり。繰り返しという視点で見てみると、みんなの共同生活もヒントになる。毎日のルーティンで繰り返しですから。そこにフーガ的なものがあるんじゃないかなと。どうにかこうにかしてフーガから派生するものと、私たちを見つめている日々です。
フーガを踊るということ
―――ダンサーの皆さんに質問です。今回、蓉さんとの作品制作の中で、ご自身でフーガを振り付けたり踊ってみたりした時の面白さや難しさはありますか?
ami muto:フーガでは同じ旋律が何度も出てきますが、同じ旋律でも音の高さが違ったり、途中までは同じでもあとは全然違うものになったりする。その部分に対して決めた振付をどこまで変えていくか。変えすぎてもさっきと違う振付に見えてしまう。その崩し具合が難しさであると同時に、面白さでもあるなと思います。
杉浦:今日はパイプオルガンの音で作っていました。一音一音にイメージする動きがあって。それをうまくフーガの曲に乗せていけたら面白くなるんだろうなと思っています。ただ音を取るだけのありがちな感じをどう避けていったらいいかな?とか。ずっと音と一緒にいるんじゃなくて裏切ったりとか。そういう駆け引きができたらすごく面白いんだろうなと思いつつ、まだまだですね。
宇津木:フーガの音楽一音ずつに当てはめて体を動かしていくことに苦戦しています。そういうことをあまりやってこなかったので、自分の課題だと思っています。たぶんフーガだからというのもあります。もっとアンビエントな音楽や生演奏だったら違う音楽との関係性が作られると思います。蓉さんの作品の特徴でもあると思いますが、緻密に組み立てられたフーガの規則的な音楽性をいかに身体にフィットさせていくかということが必要だと思っています。
面白いと思っている所は、フーガを音楽として聞いていた時には流れてしまっていたものが、身体に移し替えると見えてくるものがある。つまり、最初はここと言われても塊にしか聞こえなかった音が、翌日には、ちゃんと粒のようにはっきりと聞きとれるようになりました。作品を作っていると同時にフーガの音楽を体で吸収していっている感覚があります。
中村:私が振付をしてるシーンもあれば 、ダンサーに振付をお願いしているシーンもあります。だからダンサーというよりは、振付家としての悩みを抱えてくれていますね。
―――振付アシスタントを務める長野音里さんは、2年前に国内ダンス留学@神戸8期を修了しました。8期ではバッハの「フーガの技法」をモチーフにした寺田みさこさん振付の『Fugue -dB version-』を踊っています。なにか違いや共通点はありますか。
長野:同じフーガを扱っていますが、全然違うものとして捉えています。
みさこさんの場合はもともと決められていた振付を8期ダンサーに振り写しして、その中で徐々に個性を出していくみたいな方法。1つの振付に対して8期のみんなが挑んでいくというスタイルで作っていきました。
今回は蓉さんから与えられるものもあるけれど、10期もお互いに与える・与えられるの関係で一緒に作品を作る要素が強いなと思っていて。ダンサーも、振付家でありダンサーである必要がある。手法が違うだけで、作品の見せ方がここまで違うんだなと思います。
―――(近くでインタビューを聞いている)山下桃花さんも8期を修了した後、10期アソシエイトダンサーとして参加しています。
山下:みさこさんの振付は、すごく綿密で数学的に組まれていたのが印象的でした。体の色を抜いていった先に、個性が際立つみたいに作られていた。ミニマルでストイックな作品だったと思っています。
蓉さんのクリエーションはびっくり箱を開けるようで。私たちの個性を強調してくださってるような印象があります。テーマは同じで通底しているものは一緒かもしれないけど、手法に違いがある。でもどっちも個性が際立つというのが面白いなと思います。
中村蓉の作品にある身体性と「拮抗」
―――フーガの音楽が持つ“身体性”についての魅力や、蓉さんの考える“身体性”についてくわしく教えてください。
中村:身体性に求めているものは、それを極めた先にドラマチックが待っているかということです。
たとえば向田邦子なら、登場人物の悲しみや怒りを「黒電話が冷たく光っている」と表現します。感情を語るときに、物言わぬ者の佇まいで語ってくれる。
振り子の法則をテーマにした『理の行方』は、長さの違う振り子を一斉に振るとウェーブができて、時々一列になる。球はミニマルな振り子の運動をしているだけなのに、長さが違うだけでドラマティックな動きになる。その関係性が面白かった。それからすれ違い続けても、時々長い時間一緒にいる球の動きが、すごく人間のように見えた。また会えたねと思ったらまた離れるみたいな。物語るよりもさらにドラマチックに見せてくれる身体性に惹かれます。
―――「振り子の法則」や「フーガ」から人間性を見出す所に蓉さんの作品の魅力があるのだと思います。
中村:どうやら人間が好きらしくて(笑) だから個性を引き出したいと思う。そしてその個性を拮抗させたいんです。個性100%よりも、何かと何かが別の要素で拮抗するところに一番の魅力がある。今回もフーガというテーマと皆さんの個性。どちらかが目立つのではなくどちらも引っ張り合い続けて、魅力が引き出されると一番いいなと思ってます。
―――今回の作品『フーーーーーーガ!』の見所を教えてください。
中村:先ほども言いましたが、「フーガ」と「10期ダンサーたちと私」が交わったときに起きる化学反応=拮抗を一番に見てほしいです。フーガとダンサーの個性が出会う面白さを味わっていただければと思います。
私に音楽の面白さを教えてくれたチェリスト・指揮者の鈴木秀美さんが、インタビューで「チェロが通れば、バッハが引っ込む」と言っています。素晴らしい演奏や技術ばかり目立つとバッハの伝えたいことや思考は見えてこないという意味なんです。 すばらしい個性をもったダンサーがフーガと向き合うという作品のテーマ、国内ダンス留学から若きアーティストがダンスの世界に羽ばたいていくという企画のテーマ、どちらも味わっていただけたら、応援していただけたら嬉しいです。
インタビューは後編に続きます。
聞き手・編集:杉本昇太
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国内ダンス留学@神戸10期 Newcomer/Showcase#1
『フーーーーーーガ!』
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逃げる!追う!めくるめく流転ダンス!
中村蓉、関西初公演。新進気鋭のダンサー6名と鮮烈なる挑戦、流転の先を目指す!
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振付・演出:中村蓉
出演:dBアソシエイト・ダンサー 天野朝陽、ami muto、宇津木千穂、杉浦ゆら、中村風香、山下桃花
振付アシスタント:長野里音
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公演概要
本公演は、2024年8月末のオーディションにより選出した個性溢れるdBアソシエイト・ダンサー6名と、招聘振付家の中村蓉が協働し、新作を発表します。これまで古典や近代文学のテキストを元に、様々な手法で舞台作品を幅広く手がけてきた中村蓉。今回は「フーガ」という概念を出発点に、若手ダンサー6名の躍動する身体で、疾走感とユーモアに満ちた世界観を立ち上げます。2024年の締めくくりに是非お立ち合いください!
公演情報:Newcomer/Showcase#1 中村蓉『フーーーーーーガ!』
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【日程】2024年12月21日(土)18:00/22日(日)14:00
【会場】ArtTheater dB KOBE
※受付開始は開演の30分前を予定しております。
※上演時間は約50分を想定して創作を進めております。
※いずれの日程も終演後に、アフタートークを実施します。
【料金】
一般:3,000円
割引:2,000円
高校生以下:1,000円
未就学児:無料
※割引対象:長田区民・U25・障がい者・介助者・65歳以上・丼クラブ会員
※未就学児をお連れのお客様はお申込みの際にご相談ください
※当日券は、各200円増し
チケット購入:https://10ki-ns1.peatix.com/(Peatix)
【お問合せ】
NPO法人DANCE BOX
電話:078-646-7044
メール:info-db@db-danecbox.org
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主催 : NPO法人DANCE BOX
企画・制作:NPO法人DANCE BOX
宣伝美術:DOR | 写真:岩本順平
モデル:中村蓉、渋谷陽菜、高瀬瑶子、長野里音
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会
この記事に登場する人
中村蓉
早稲田大学在学中にコンテンポラリーダンスを始める。国際芸術祭あいち2022、シビウ国際演劇祭などで作品を上演。サンリオピューロランドのショー、演劇集団円、国内外のオペラ作品、北九州市芸術文化振興財団職員が踊るオリジナルダンスなど幅広く振付を手掛ける。近年では東京二期会ニューウェーブ・オペラ劇場『セルセ』『デイダミーア』の演出・振付を担当。芸劇danceワークショップ2023では講師・構成・振付を務め『√オーランドー』を発表。第1回セッションベスト賞、横浜ダンスコレクションEX2013審査員賞、第5回エルスール財団新人賞などを受賞。
2024年5月22日 時点
ami muto
神奈川県生まれの蠍座。 多様なジャンルを織り込み、自分の身体に沿う表現を探求する。作品や映像への出演、振り付け、公演等を行い、踊りで社会と関わろうとしている。 ・MUSIC STATION s**tkingz バックダンサー /2021 ・703号室「バケモノ。」MV 振付/ 2022 ・ダンス専科 小暮香帆作品「body weather」出演/2024 ・DANCE WORKS主催 IMPRESS DANCE COMPETTION 優勝 /2024 など
2024年9月26日 時点
杉浦ゆら
ダンサー。 2005年愛知県生まれ。 舞踏家・コンテンポラリーダンサーの浅井信好に師事。2016年~2023年「月灯りの移動劇場」に所属。メインダンサーとしてツアーを回る。 中川晃教、中村達也、中村佳穂などとのコラボレーションの他、田中泯、小暮香帆、鈴木竜、ハラサオリ振付作品に出演。 フジエタクマ『same』MVに出演。 2019年に韓国のテジョン市で開催された「ARTIST NEST」にて、ディプロマを取得。 「踊る。秋田vol.6」ファイナリスト。
宇津木千穂
俳優、ダンサー。これまで、うさぎの喘ギ、敷地理、SuperD、ソノノチ、BEBERICA theatre company、PANCETTA等の作品に参加。俳優としての活動をする中でダンスと出会い、「今、ここ」を生きるダンスに魅力を感じ、学びはじめる。演劇とダンスのグラデーションのどこかで、パフォーミング・アートが上演される場における身体とそれを取り巻く現象について探っている。
2024年9月26日 時点
長野里音
兵庫県出身、在住。幼少よりバレエを習う。
文化庁・NPO法人DANCE BOX主催 国内ダンス留学@神戸8期に参加。
2023年度 DANCE BOXアソシエイト・ダンサー。
多種多様なダンスとの出会いをきっかけに、ダンスによる自身のアイデンティティー形成に興味を持ち、ダンサーとして活動している。
2023年9月10日 時点